日本航空株式会社

「T-BONEによる超短時間SAPシステム移行」


JALエンジニアリング IT企画部 部長 近藤徹哉 氏、原田和高 氏に、
SAP移行にリアルテックを起用した経緯とその評価について詳しく聞きました。

JALエンジニアリング

目次
  1. 航空機整備システム『JAL Mighty』の移行を依頼
  2. 日本航空の安全安定就航を支える『JAL Mighty』導入の重要ポイント
  3. ダウンタイムは4時間以内が絶対条件
  4. リアルテックを選択した理由
  5. プロジェクト事前準備の概要
  6. プロジェクト本番当日の進行
  7. リアルテックへの評価
  8. 先輩ユーザーからのアドバイス
  9. 今後の期待

航空機整備システム『JAL Mighty』のバージョンアップ、データ移行を依頼

今回、日本航空はリアルテックにどんな業務を依頼したのでしょうか。

日本航空はリアルテックに、SAPベースの航空機整備システム『JALMighty』のバージョンアップにかかわるデータ移行を依頼しました。概要は次のとおりです。

項目 内容 備考
Server 2008年 2015年
移行内容 SAP R/3 4.7 x 110
(非Unicode)
ERP 6.0 EHP6
(Unicode)

OS、DBMS、SAPのサポート期限切れに伴い移行

DC、社内クラウドへの移転

SQL
Server
2005 2012
Windows
Server
2003 2012
スケジュール 2013年 ~ 2015年6月13日の期間中に
設計、開発、テスト、実装、導入を実施
検証・テスト4回、
事前リハーサル1回

日本航空の安全安心なフライトを支える『JAL Mighty』

今回のバージョンアップ、データ移行を行った『JAL Mighty』の概要を教えてください。

『JAL Mighty』は、日本航空の航空機整備のための基幹情報システムです。

航空機の安全で品質の高いフライトを支えるためには、機体の確実・迅速な整備が不可欠です。現在、日本航空は全世界で月間約2万便を就航させており、それら航空機に対し4000人の整備士が、飛行前点検や定期整備など機体・エンジン・部品に関する各種整備を実施しています。整備対象となる部品の数は、個別に整備履歴の管理が必要なものだけで50万個を超えます。これら膨大なデータを統合管理し、整備業務を確実・迅速に実施するために、2008年にSAPR/3を活用した航空機整備業務システム『JAL Mighty』を構築・稼働開始しました。

その『JAL Mighty』が稼働から7年を経て、OSやデータベースのサポート期限切れの時期を迎えることになったので、2015年に新バージョンへの移行(システム移行)を実施した次第です。

 『JAL Mighty』のシステム移行が2015年に到来することは、最初にシステム構築した2008年の時点ですでに分かっていました。またこの移行に大きな困難が伴うことも、最初から明白でした。

ダウンタイムは4時間以内が絶対条件

どんな困難が予測されていたのでしょうか。

どんな困難が予測されていたのでしょうか。

『JAL Mighty』のシステム移行に伴う整備のダウンタイム、これを可能な限り最小にする必要がありました。

航空機は24時間365日運航されており、システムの移行により整備に長時間のダウンタイムが発生することは許されません。社内で協議した結果、許されるダウンタイムは「深夜1時から5時までの4時間」という結論になりました。

しかし「ダウンタイム4時間以内」は非常に厳しい条件です。SI各社にもヒアリングしましたが、「4時間は困難」「どんなに早めても3日は必要」などという回答でした。中には「できます」と言ってくる会社もありましたが、なぜできるのかの根拠がはっきりせず、結局のところ、その「できる」は「何とかする」という意味合いと感じました。

一時は社内で、「4時間は無理なので3日~7日程度のダウンタイムを許容する」という案も検討しましたが、お客様に安全・安心をお届けするためにも、整備品質確保の基本となるシステムとしては、やはり長期ダウンは認められませんでした。また新生JALの基本価値の一つとして「高い目標をかかげ、最後まであきらめない」ことを掲げています。その原点に立ち返り、4時間は無理とすぐあきらめるのではなく、ギリギリまで実現の方法を模索することにしました。

そんなとき偶然リアルテックのことを知りました。さっそく「ダウンタイム4時間以内のSAP移行」について可否を尋ねたところ、「可能です」との返答でした。なぜ可能なのか根拠を聞いたところ、大きくは「通常の方法で移行するとシステムコピー、アップグレード、Unicode変換などがシーケンシャルに必要となり時間がかかる。リアルテックはT-Boneを使ってダイレクトに移行するので速くなる」という説明でした。

<参考情報>:最小ダウンタイムでの移行を実現した『T-Bone』

※ 以下はリアルテックによる説明です。

今回、なぜダウンタイム4時間の高速SAP移行が可能になったのか、根本のところからご説明します。

【今回求められたSAP移行の内容】
今回、求められた移行の内容は、❶「OS,DBMS,SAPを最新バージョンに上げる」、❷「ユニコード変換を実施する」という2点です。

【通常の移行方法】
通常は「現行本番機 ▶︎ 中間機 ▶︎ 新本番機」の順番でシステム移行を行います(次ページの図参照)。
この方法の場合、システムコピー、アップグレード、Unicode変換の各処理に時間を要する分、移行に要する時間が長くなります。4時間以内の移行はまず無理です。

【T-Boneによる高速移行方法】
今回の移行ではT-BoneによるNear Zero Downtimeオプションを採用しました。T-Boneを使えば、事前準備したターゲット環境(ソフトウェアのバージョンをターゲットバージョンにしたもの)に対し、直接クライアントデータを投入することが可能です。

この方法ならシステムコピー、アップグレード、Unicode変換の処理を省略できるので、ダウンタイムを大幅に短縮することができます。

特にNear Zero Downtimeオプションでは、❶「更新が発生しない過去データを転送」、❷「差分データを転送」という手順を取ることが可能です。この手法によりダウンタイムをさらに短縮することが可能です。

なお実際の移行では、システムの状態、業務の状態などにより、移行手順・時間が異なることを考慮し、本番移行前に入念なテストやリハーサルを実施する必要があります。

【T-Boneによる高速移行方法】

リアルテックを選択した理由

リアルテックの説明を聞いての印象を教えてください。

弊社が接した中で、4時間以内の移行が「可能である」といい、かつ「根拠を示した」というSI会社のなかでは、リアルテック提示の案は実現性が高いと感じました。この技術的優位は、ベンダー選定の上で大きなプラスポイントとなりました。

またリアルテックのドイツ本社は「ドイツのSAPエンジニアがスピンアウトして設立したSAP専門のSI企業」であり、かつ「リアルテックジャパンとしても日本でSAP構築・移行の実績多数」であるなど、会社の成り立ちや実績についても「確からしさ」を感じさせました。

さらにリアルテックジャパンはT-Boneというツールだけでなく、それを使いこなす「スタッフの技術および人格」も信頼できると思われました。今回の移行作業は、SAPのデータ移行に加えて、周辺システムの移行を担当する他のSI企業とも密に連携して実施する必要があるので、作業スタッフの質は重要です。

商談を進める中で接したリアルテックの担当者には、「高い技術力」「熱意、誠実さ」、「プロフェッショナルとしての責任感」を感じました。この人たちとなら「一緒に仕事ができる」と思いました。さらに移行費用も、当初の想定費用に見合った価格でした。社内で良く検討した末に「『JAL Mighty』の移行をリアルテックに依頼する」ことを決定しました。2014年4月のことです。

プロジェクト事前準備の概要

その後はプロジェクトをどう進めたのでしょうか

まず半年かけてアセスメント、設計を行い、その後、検証・テスト 4回、リハーサル1回を行った後に、移行の本番当日を迎えました。

ダウンタイム4時間以内を実現するための事前準備の内容

本番前に行った事前準備の概要は以下のとおりです。

項目 回数 内容
移行検証 1回 検証環境での問題点の洗い出し
移行テスト 3回 本番環境での問題点の洗い出し・手順の確立
移行リハーサル 1回 最終手順確認、移行時間の確立

テストおよびリハーサルの際は、データ移行処理だけでなく、ベーシス前処理・後処理、アプリ後処理、データ移行後の確認なども行う必要がありましたが、綿密な移行タイムテーブルを準備して各移行対象テーブルや周辺システムごとの課題や問題点を洗い出して解決策を準備することで、移行時間のいっそうの短縮を図りました。

またベーシスだけでなく、アプリケーション関連の移行作業についてもアプリベンダーと連携の上、迅速・確実な移行を図りました。

プロジェクト本番当日の進行

本番当日はどのような進行だったのでしょうか。

本番当日の2015年6月12日の夜半より、プロジェクトルームに各種端末や回線を用意し、私たちとリアルテックのスタッフ十数名を含む約40名に加え都内の別ビルにあるシステムセンターの約30名による移行体制を整えました。

深夜1時になった時点でシステム移行の開始を宣言し、その後はプロジェクトで事前に合意したタイムテーブルに従い各パートナー会社の作業を開始、リアルテックのスタッフも、事前に定めた綿密なスケジュールに従い次々とタスクを順調に処理していきました。

システム移行の本番当日の進行

プロジェクト本番当日の進行

当日の本番移行は、「最終差分更新」「整合性チェック」「後処理」の3工程を、3時間16分で完了することができました。

この高速移行が達成できた理由としては、 ❶ 「テスト ▶︎ 問題発見 ▶ 対処策考案 ▶ 再テスト…、というPDCAサイクルを確実に回したこと」、❷「BASIS/アプリベンダー各社の様々なチューニングにより後処理工程が高速完了したこと」の2点が挙げられます。

なお、事前転送にあたる「Main Migration」「Delta Migration」については実際に要した期間は、図中に記してある「68時間」ではなく、「5日弱」です。これは数回の移行テストを経る中、通常業務による高負荷が生じる時間帯などで、業務処理のパフォーマンスに影響を与える懸念が明らかになったことから、データ転送処理を断続的に実施するという調整を行ったことが、その理由です。

リアルテックへの評価

SAP移行プロジェクトを終えてのリアルテックへの評価をお聞かせください。

まず「ダウンタイム4時間以内」というプロジェクトとして掲げた絶対要件を、目標40分下回る形で達成したことは期待以上の成果でした。リアルテックの技術力をあらためて高く評価しています。

また。タスク実行時間や、担当者の手入力の所要時間など、あらゆる行程を細分化して分単位でスケジュール管理していたことにも驚かされました。

スケジュール表はテストの度にブラッシュアップされていきました。こうした地道な改善を積み重ねたことが、ダウンタイムの予想以上の縮小につながったものと思われます。

また今回の移行は他ベンダーとの協調が不可欠でしたが、リアルテックは各企業と緊密に連携し、ダウンタイムを極小化できるよう最大限の努力を払っていただいたものと評価しています。

先輩ユーザーからのアドバイス

現在、SAP移行を考えている企業に向けて「先輩ユーザーから のアドバイス」などあればお聞かせください。

アドバイスのような大それたことはありませんが、私見として、まず技術要件が明確な案件の場合は、企業規模の大小ではなく純粋な技術力、すなわち「技術的課題の解決が可能であること」「なぜ可能であるのか根拠が明確であること」「実績があること」を基準に選ぶのが良いと考えます。

また技術力の他に「価値観を共有できること」、「他のベンダーと緊密に連携が取れること」など「ひと」の部分も劣らず重要な選択基 準になると思います。

T-Boneの用途例

今回、使ったT-Boneは、「SAPシステムのデータベースを直接データ移行・変換するツール」です。次のような場合に最適です。

項目 内容
M&A/企業組織再編成 会社組織の統合・分離
データ統合/変換 会計年度の期間変更など財務・管理会計の変更に伴う統合・調整
システム統合 システムランドスケープやインスタンスの統合

「システム統合」ではこの他、次の用途でT-Boneを活用することが可能です。

項目 内容
DB変更
  • SAP HANA への移行
  • 他のDBMSへの移行
プラットフォーム変更
  • クラウドや仮想化環境への移行
  • H/W変更時の移行
SAPアップグレード
  • SAPシステムアップグレード時の移行
  • EHP適用時の移行
Unicode変換
  • 単一コードページからの移行
  • マルチ言語環境からの移行

T-Boneでは、Near Zero Downtimeオプションと組み合わせることで、ダウンタイムの短縮と安全なデータ移行を実現します。今後は特にSAP HANAへの移行だけでなく、SAP S/4 HANAへの移行(前提となるNewGL化も短期間で実現)で積極活用されていくでしょう。

今後の期待

リアルテックへの今後の期待をお聞かせください。

今回、T-Boneとスタッフ各位の献身的努力により、『JAL Mighty』をダウンタイム4時間以内で移行するという困難なプロジェクトを無事終えることができました。日本航空では引き続き航空機整備のシステム基盤の安定運用と活用へ挑戦してまいります。リアルテックにはその取り組みを、優れた製品力、技術力、提案力を通じて後方支援していただくことを希望します。今後ともよろしくお願いします。

今後の期待

日本航空について
日本航空は日本を代表する航空会社の一つです。設立1951年、航空機数224機、従業員数 約32000人(連 結)、年商1兆3447億円(連結、2014会計年度)

JALエンジニアリングについて
JALエンジニアリングは、日本航空の航空機整備を主な事業分野とするエンジニアリング企業です。設立2009年、従業員数約4,000名。

※ 本事例では『日本航空』と『JALエンジニアリング』を特に区別せず、「日本航空」という名称で総称いたします。

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