近年、インターネットを活用したビジネスの急速な拡大に伴い、企業を狙ったサイバー攻撃のリスクが急増しています。そのため、サイバー保険に対する注目が高まっています。本記事では、サイバー保険とは何か、その必要性や補償内容、選び方について詳しく解説します。
サイバー保険とは?
サイバー保険は、サイバー攻撃による被害や損失を補償するための保険商品です。企業がサイバー攻撃に遭い、個人情報の流出、システムの停止、データの破壊、ビジネスの中断といった被害を受けた場合、その損害をカバーすることができます。
特に、ランサムウェア攻撃やフィッシング攻撃などの手口が高度化しており、サイバーセキュリティ対策をどれだけ講じていても、攻撃のリスクをゼロにすることは難しくなっています。サイバー保険は、これらのリスクに対する「最後の防波堤」として機能します。
サイバー保険の必要性
1. サイバー攻撃の脅威が拡大
サイバー攻撃の被害は年々増加しています。特に中小企業や、セキュリティ対策が十分でない企業が狙われやすく、サイバー攻撃のターゲットとなる企業規模や業種は幅広くなっています。また、新しい攻撃手法が次々と開発され、既存のセキュリティシステムでは防ぎきれないケースも増えているため、どの企業にとっても無関係ではありません。
2. 金銭的損失のリスク
サイバー攻撃による被害は、直接的な金銭的損失だけでなく、長期間にわたるビジネス中断や信用喪失、顧客離れといった間接的な損失を引き起こします。これに加えて、法的な責任や罰金、被害者への賠償金などのコストもかかるため、サイバー攻撃に対する備えは不可欠です。
3. 法規制の強化
多くの国や地域で、データ保護に関する法規制が強化されています。例えば、ヨーロッパではGDPR(一般データ保護規則)、日本では改正個人情報保護法が施行され、企業にはデータ管理の厳格な対応が求められています。これらの法規制に違反した場合、高額な罰金や行政指導を受けるリスクも高まりつつあります。
サイバー保険の補償内容
サイバー保険は、企業のニーズに合わせて多様な補償を提供します。主な補償内容を以下に挙げます。
1. データ損失の補償
サイバー攻撃により、顧客情報や業務に関するデータが流出、破壊された場合、その修復や再構築にかかる費用を補償します。また、データのバックアップや復元プロセスにかかる費用も含まれることがあります。
2. ビジネス中断の補償
サイバー攻撃によりシステムが停止し、業務が継続できなくなった場合に、ビジネス中断による損失や逸失利益を補償します。特に、eコマースやITサービス企業にとって、業務停止の影響は深刻です。
3. 法的責任の補償
顧客データの漏洩や取引先に対する契約不履行が原因で、第三者から訴訟を起こされた場合、その法的費用や賠償金をカバーします。また、コンプライアンス違反による罰金やペナルティも補償範囲に含まれる場合があります。
4. レスポンス費用の補償
サイバー攻撃後の被害対応費用も補償されます。具体的には、フォレンジック調査(攻撃原因の究明)、被害者通知のためのコスト、信用回復のためのPR活動費用などが該当します。これにより、企業は迅速に対応し、二次的な被害を防ぐことができます。
5. ランサムウェアの対応費用
ランサムウェア攻撃に遭った場合、身代金の支払い交渉やその費用が補償されるケースもあります。ただし、身代金の支払いが必ずしも推奨されているわけではなく、各国の法律や倫理的な観点から判断が必要です。
サイバー保険の加入率
サイバー保険は、世界中で注目されているものの、特に中小企業においては加入率がまだ低いのが現状です。例えば、アメリカでは企業の約30%がサイバー保険に加入していると言われていますが、日本国内ではその割合はさらに低く、10%以下との調査もあります。この理由の一つとして、サイバーリスクに対する認識不足や、保険のコストに対する懸念が挙げられます。日本損害保険協会が公表した「国内企業のサイバーリスク意識・対策実態調査2020」によると、全企業のうちサイバー保険に加入している企業の割合は7.8%で、企業規模別に見ると大企業は9.8%、中小企業は6.7%でした。また、「現在も今後も加入予定なし」「わからない」と回答した企業は全体の7割を超えており、国内でのサイバー保険の普及が進んでいないことがわかります。
ただし、全体の約2割の企業が今後サイバー保険への加入を予定しており、その比率は大企業よりも中小企業の方が高い傾向にあります。
このような状況下でサイバー保険の加入率を上げるためには、企業および従業員がセキュリティに対する危機感を常に持ち、セキュリティ意識を高めることが重要です。
参照元:一般社団法人 日本損害保険協会|国内企業のサイバーリスク意識・対策実態調査2020
※P20をご参照ください。
サイバー保険の選び方
1. 自社のリスクを把握する
サイバー保険を選ぶ際には、まず自社が直面するリスクを正確に把握することが重要です。例えば、データ量が多く、個人情報を取り扱う企業は、データ損失の補償を重点的に考えるべきです。逆に、オンライン業務がメインであれば、ビジネス中断の補償を重視する必要があります。
2. 補償範囲を確認する
保険商品によって補償範囲や内容が異なるため、契約前にしっかりと確認することが重要です。例えば、ランサムウェア攻撃に対応する補償が含まれているか、第三者への賠償責任がカバーされているかを確認する必要があります。
3. 保険会社のサポート体制
サイバー攻撃が発生した際、迅速な対応が求められます。そのため、保険会社が提供するサポート体制も重要な選定基準となります。24時間365日対応可能な体制や、専門家による対応支援が提供されるかを確認しましょう。
4. 保険料と補償額のバランス
保険料は、保険を選ぶ際の重要な要素ですが、安さだけで選ぶのはリスクがあります。適切な補償額が設定されているか、また、保険料と補償内容がバランスの取れたものであるかを確認することが大切です。
サイバー保険に加入する前に、支払う保険料に対して十分な効果が得られるかどうか、費用対効果を試算しておくことがポイントです。企業によってはサイバー攻撃への対策として高額な保険に加入するよりも、セキュリティ対策に費用をかけた方が安く済む場合があります。また、十分なセキュリティ対策を講じている企業の場合には、保険料を安く抑えられるケースもあるため、加入前に費用対効果を試算することをおすすめします。
まとめ
サイバー保険は、現代の企業にとって欠かせないリスク管理の手段です。サイバー攻撃のリスクが増大する中、適切な保険に加入することで、万が一の事態に備えることができます。自社のリスクをしっかりと理解し、適切な補償内容を持つサイバー保険を選ぶことが、ビジネスの持続可能性を高めるために非常に重要です。
企業の規模や業種を問わず、サイバーリスクは無視できない問題です。サイバー保険の加入を検討し、リスクに対する備えを万全にしておきましょう。
- カテゴリ: GRC
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