セキュリティリスクとは、機密情報の窃取やデータの改ざんといったインシデントによって損害を被る可能性を指します。事業継続性や業務システムの安定的な稼働を担保するためには、厳格なセキュリティ体制の整備が必要です。本記事では具体的なセキュリティリスクやセキュリティ対策のポイントについて解説します。
企業にとってセキュリティ対策が重要な理由
デジタル化が加速する現代市場において、「情報」は極めて重要度の高い経営資源です。情報は「人的資源」「物的資源」「資金」に次ぐ第四の経営資源とされています。企業の持続的な成長と発展には事業活動を通して収集・蓄積された情報の戦略的活用が欠かせません。
競合他社にはない顧客体験価値を創出するためには、顧客の潜在需要や消費者のインサイトを的確に捉える必要があります。そのためには勘や経験といった定性的かつ曖昧な要素に依存しない、定量的で具体的なデータ分析を起点とする事業戦略の立案・策定が不可欠です。
データベースに蓄積された情報は優れた顧客体験価値を創出する源泉です。セキュリティ対策を怠ってサイバー攻撃による情報漏洩や管理体制の不備による情報流出などのインシデントが発生した場合、ビジネスチャンスを逸するリスクがあるのはもちろん、顧客や消費者からの信用を失う可能性が懸念されます。
セキュリティとは
情報セキュリティの強化を図る上で重要な課題となるのが、「機密性(Confidentiality)」「完全性(Integrity)」「可用性(Availability)」の3要素です。そして情報セキュリティの3要素を脅かす懸念事項をセキュリティリスクと呼びます。
- 機密性(Confidentiality)
情報が外部に流出しない状態を指します。組織のデータベースには従業員の個人情報や顧客情報、契約情報、財務情報などの決して流出してはならないデータが保管されています。ID管理やパスワード管理、セキュリティポリシー、アクセス権限設定などの最適化を図り、機密性の高い情報をさまざまな脅威から保護することがセキュリティ対策における重要課題のひとつです。 - 完全性(Integrity)
情報を最新かつ正確な状態に保つことを意味します。たとえばマーケティング分析では市場調査や需要調査などに基づく最新のデータが求められ、財務会計では正確な財務諸表を作成しなくてはなりません。情報セキュリティの完全性を担保するためには、情報管理のエラーやデータの鮮度低下、あるいは不正アクセスによるデータの改ざんなどを防止するデータマネジメントの仕組みが必要です。 - 可用性(Availability)
情報をいつでも利用できる状態を指します。ネットワーク障害による業務システムの停止、または自然災害によるITインフラの故障などが発生した場合、事業活動の継続が困難になり、売上の減少や機会損失につながります。このようなリスクを回避するためには、サーバの冗長化やクラウド環境へのバックアップといった対策を実施し、常に必要な情報へアクセスできる仕組みを整備しなくてはなりません。
セキュリティリスクの原因になる脅威
セキュリティインシデントを招く要因には「脅威」と「脆弱性」があります。このうち脅威として挙げられるのが、「意図的脅威」「偶発的脅威」「環境的脅威」です。
意図的脅威
意図的脅威とは、人間の悪意のある行動を起点とするセキュリティリスクを指します。意図的脅威の代表的な事例が、サイバー攻撃によるマルウェア感染や不正アクセスです。具体的な攻撃方法としては、不正な手段でシステムを乗っ取ってデータやファイルを暗号化し、復旧の代償に身代金を要求するランサムウェアが挙げられます。また、組織内部の関係者による意図的な情報の持ち出しやデータの改ざんなども意図的脅威のひとつです。
偶発的脅威
偶発的脅威とは、意図せずに発生するセキュリティリスクです。具体的な事例としては、業務システムの操作ミスや設定の不備による機密情報の漏洩が挙げられます。また、持ち出し禁止のPCを従業員が社外で使用し、その際にデバイスを紛失して情報漏洩につながった事例も少なくありません。とくに近年はテレワークの一般化に伴い、USBメモリやモバイルデバイスの紛失・盗難による情報漏洩が多発しています。
環境的脅威
環境的脅威とは、地震や落雷、台風などの自然災害、あるいは火災や停電といった外部環境に起因するセキュリティリスクです。たとえば地震によってデータセンターのITインフラに障害が発生した場合、事業活動の継続に支障をきたすとともに、セキュリティシステムの停止によってサイバー攻撃の標的となるリスクが懸念されます。また、高気温や高湿度といった気象が原因でコンピュータに動作不良が発生し、環境的脅威が生じる可能性もあります。
セキュリティリスクの原因になる脆弱性
セキュリティイリスクの原因となる脆弱性としては、「ソフトウェアの脆弱性」「管理体制」「立地」などが挙げられます。
ソフトウェアの脆弱性
セキュリティインシデントを招く要因のひとつが、OSやアプリケーションなどの脆弱性です。多くのソフトウェアは延長サポートが終了した場合、セキュリティ更新プログラムが提供されなくなるため、脆弱性に対する課題を残したまま運用しなくてはなりません。また、サポート中に対処したとしても、新たな脆弱性が発見されることは多々あります。
ソフトウェアの脆弱性を放置していると、意図的脅威に対するリスクが増大します。実際に不正なOSコマンドの送信によってWebサーバに不正にアクセスされ、データの改ざんや情報の窃取といった被害を受けた事例があります。
管理体制
情報セキュリティの機密性・完全性・可用性を担保するためには、全社戦略に基づくデータマネジメントの体制を整備しなくてはなりません。たとえば情報の機密性を担保するには、ファイルにアクセスできる人間を限定する必要があるため、職務分掌に基づくアクセス権限設定の最適化が不可欠です。
こうした管理体制が整っていない場合、サイバー攻撃の検知や初動の対応が遅れるとともに、インシデント発生時の復旧に多大な時間を要するリスクが懸念されます。そのため、データの品質管理やリスク管理、セキュリティ管理などの仕組みを体系化し、厳格な管理体制を全社レベルで推進することが大切です。
立地
オフィスやデータセンターの立地条件によっては、セキュリティインシデントを引き起こす要因となり得ます。たとえば自社のデータセンターが海岸線に位置する場合、津波を伴う地震によって施設やハードウェアが壊滅的な被害を受けるリスクが考えられます。
また、地震発生時の停電によってITインフラが機能不全に陥り、業務システムやWebサービスが一定期間停止するといったインシデントは決して珍しくありません。このように地震や津波、停電が起きやすいなど、立地によって稼働できなくなる可能性が高い場所もセキュリティリスクのひとつです。
企業ができるセキュリティ対策のポイント
セキュリティリスクの最小化を図るためには、以下に挙げる4つのポイントを意識することが大切です。
IDなど個人情報の管理
内部不正の防止やインシデント発生時の原因を特定するためには、IDやパスワードといったアカウント情報の適切な管理が重要です。たとえば人事情報にアクセスできる権限を有する従業員が退職し、そのIDが残存している場合、不正アクセスによって従業員の個人情報が窃取される可能性が高まります。
このようなリスクを抑えるためにはID管理の最適化を図ると同時に、「誰がどの情報に対するアクセス権限を有するのか」を統制するIDガバナンスへの取り組みが不可欠です。このID管理とIDガバナンスを統合した概念を「IGA(Identity Governance + Identity Administration)」と呼びます。
セキュリティ対策ソフトの導入
組織レベルのセキュリティ対策では、セキュリティ対策ソフトの導入と最新版へのアップデートが必須です。近年はデジタル化の進展に伴ってサイバー攻撃も巧妙化しているため、ファイアウォールのような境界防御型のセキュリティシステムだけでは十分とはいえません。
たとえばエンドポイントを一元的に管理する「EDR(Endpoint Detection and Response)」や、Webアプリケーションの脆弱性を突く脅威から情報を保護する「WAF(Web Application Firewall)」など、ゼロトラストモデルに基づくセキュリティソリューションの導入が求められます。
セキュリティに対する意識改革
不注意による情報漏洩や内部不正による機密情報の流出といった脅威を最小化するためには、従業員一人ひとりのセキュリティリスクに対する意識改革が求められます。
そのためには情報セキュリティに関する研修制度や教育体系を整え、意図的脅威や偶発的脅威、環境的脅威といったリスク要因について理解を深める必要があります。また、セキュリティ対策におけるルールやガバナンスの周知徹底を図るプロセスが極めて重要です。
定期的なバックアップと保存
セキュリティ対策ソフトの導入や管理体制の整備は非常に重要な施策ですが、それだけでは環境的脅威には対応しきれません。地震や津波、火災、停電といったセキュリティリスクに備えるためには、サーバの冗長化やバックアップ体制の整備、あるいは予備システムの構築といった対策が必要です。
また、ITインフラのクラウドマイグレーションも検討すべき重要な対策です。クラウド環境にサーバやネットワークを構築することで、オフィスやデータセンターが環境的脅威による物理的な被害を受けても事業継続性を確保できる可能性が高まります。
まとめ
セキュリティリスクとは、情報の「機密性」「完全性」「可用性」を脅かす懸念事項を指します。「意図的脅威」「偶発的脅威」「環境的脅威」などのリスク要因を最小化し、コンプライアンスを遵守するためにはID管理とIDガバナンスを統合するIGAへの取り組みが欠かせません。セキュリティリスクを最小限に抑えるためにもIGAの導入を推進し、厳格なID管理や全社的な意識改革に取り組みましょう。
- カテゴリ: GRC
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