SAPクラウドソリューション

 2020.10.05  リアルテックジャパン

近年、企業システムのクラウド活用が加速しています。保守的な領域であった基幹系システムについても、オンプレミスからクラウド化への取り組みが本格的に進んでいます。SAPの業績発表によると、2019年度通期のクラウド売上が前年比39%増と大幅に成長しており、さらに今年は新型コロナウイルス(COVID-19)による業績の影響がありますが、クラウド売上の増加とソフトウェアライセンス売上の減少傾向は続いており、SAP顧客のトレンドがクラウドへシフトしつつあることが見えます。

参考:SAPジャパン プレスリリース(2020年1月29日, 4月22日, 7月28日)

しかしながら、SAPのクラウドサービスやソリューションの全体像を整理できないため、クラウド移行に対して「決めきれない」という課題を持つ企業もあると思います。本稿では、そのような懸念に対して、SAPのクラウドソリューションの概要についてご紹介します。

SAPクラウドソリューション

SAPは2010年台初頭に「クラウド・カンパニー」となる目標を掲げ、積極的な買収戦略を通じてクラウドソリューションを成長させてきました。2011年以降、Ariba、SuccessFactors、Concurを買収することでクラウドへのシフトを本格化すると、次々に企業のデジタル化に向けたLOB(*1)をSaaS(*2)形態として提供し始めました。一方で、基幹系システムの同社のERPは高いパフォーマンスやセキュリティが求めらることから、各企業にサーバリソースを確保するプライベートクラウドとして、2013年に基幹向けにSAP HANA Enterprise Cloud(*3)の提供を始めました。その後、次世代ERPとして、S/4HANAのSaaS形態になるSAP S/4HANA Cloudを2016年にリリースしました。またSAPは、2013年からクラウドネイティブなアプリケーション開発/統合基盤として、SAP Cloud PlatfromというPaaS(*4)形態のクラウドサービスも提供しています。このようにSAPはパブリッククラウドで提供するサービス(SaaS,PaaS)とプライベートクラウドで提供するサービスの両方の品揃え持つ戦略をとってきました。またSAPのクラウドは、自社データセンター以外に、IaaS(*5)レイヤーとしてAWS、Microsoft Azure、Google Cloudといった主要なクラウド事業者との協業体制のもと、世界中のデータセンターでサービスを提供可能とするマルチクラウド戦略を実現しています。近年、SAPは新たに「インテリジェント・エンタープライズ」となる目標を掲げ、IoT(Internet of Things)や機械学習、AI(人工知能)を活用して成長戦略に注力するためのデジタルイノベーション製品(*6)をSAP Cloud Platfromの一部として提供し、"One SAP"のテーマのもと、他のクラウドシステムとの連携を積極的に強化しています。
そして今年、SAP HANAのクラウド版になるSAP HANA CloudをDBaaS(*7)形態でHANA Cloud Services(*8)の一部としてリリースしました。これまでもSAP自身やパートナー企業がHANA(オンプレミス版)をクラウドで提供するサービスはありましたが、クラウド環境で利用するための機能強化を図り、HANAによるイノベーションを拡充させることが狙いです。

*1 LOB(Line Of Business)、企業の様々な業務アプリケーションの総称
*2 Software as a Service(アプリケーションまで含めたソフトウェア全体を提供するサービス、利用者はインターネット経由でアプリケーションを利用するだけでよい)
*3 SAP HANA Enterprise Cloud(略称HEC)、自社オンプレミスと同等の柔軟性を持つ、SAPシステムの運用に特化したPaaS型のマネージドクラウドサービス
*4 Platform as a Service(OSやミドルウェアを含めたプラットフォームを提供するサービス、インフラを管理する必要がなくなりアプリケーション構築に集中できる)
*5 Infrastructure as a Service(サーバやストレージ、ネットワークといったインフラを提供するサービス、サーバのスペックやOS等をユーザが選択することができる)
*6 SAP Leonardo(レオナルド)、SAP Intelligent Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)などのアジャイルなデジタルイノベーションシステム
*7 Database as a Service(PaaSの一種でデータベースを提供するサービス、DBのインストールや管理する必要がなくなりアプリケーション構築に集中できる)
*8 SAP HANA Cloud Services、従来のHANA Services(オンプレミスのSAP HANAの機能をそのままをSAP Cloud Platformのサービスの1つとして提供)の後継サービス

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SAP S/4HANA Cloud

SAP S/4HANA Cloudは、SAP S/4HANA(オンプレミス版)のSaaS型のパブリッククラウド製品です。2016年11月に提供を開始して以来、3カ月ごとにアップデートを繰り返し、常に最新機能を提供しています。SAPは、SAP S/4HANA CloudをクラウドネイティブなERPとして「クラウドERP」と呼びます。混乱しやすいですが、顧客がS/4HANA(オンプレミス版)をクラウドへ導入/利用するケースでは、それはオンプレミスに分類されます。

SAP S/4HANA Cloudの特徴は次のとおりです。

  • 標準化を第一義にしたFit to Standard型の製品
  • サブスクリプションベースの契約
  • 年に4回(3カ月ごと)の更新サイクル
  • 特定の機能範囲(業界/国/言語の制限)
  • サードパーティのアドオン制限
  • 従来の拡張/開発/変更の制限、新しい拡張方式の導入
  • Fiori(Web)ベースのアクセス
  • SAPによる完全な管理
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エディション

SAP S/4HANA Cloudには2種類のエディションが提供されており、「S/4HANA Cloud Essentials(ES) Edition」と「S/4HANA Cloud Extended(EX) Edition」から選択できます。SAP S/4HANA Cloudのエディション名が省略されている場合は、基本的にS/4HANA Cloud Essentials(ES) Editionを指しています。

S/4HANA Cloud Essentials(ES) Edition

S/4HANA Cloud Essentials(ES) Editionは、以前はS/4HANA Cloud Multi-Tenant Edition(MTE)と呼ばれていました。マルチテナントと呼ばれていたとおり、複数の顧客がリソースを共有する仕組みを持ちます。このエディションは完全なSaaS型モデルであり、ベストプラクティスに基づく事前定義済みのアプリケーションをWebベースのガイドに沿って構成するだけで直ぐに利用することができます。システムは3か月ごとの更新サイクルで最新機能を利用することができ、SAPが運用保守をすべて引き受けるため、コストとスピード重視のオプションと言えます。

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S/4HANA Cloud Extended(EX) Edition

S/4HANA Cloud Extended(EX) Editionは、以前はS/4HANA Cloud Single-Tenant Edition(STE)と呼ばれていました。シングルテナントと呼ばれていたとおり、1つの顧客がリソースを専有する仕組みを持ちます。このエディションはSaaS型モデルですが、オンプレミス版と同等の機能スコープを有し、開発やカスタマイズも従来と同様に可能であるため、企業独自の業務プロセスを実現することができます。システムの更新サイクルも選択可能であり、システム管理もSAPと協力しながら行えるため、自由度と柔軟性重視のオプションと言えます。

現在、S/4HANA Cloud導入において、S/4HANA Cloud Extended(EX) Editionを採用する企業が多いと言われています。SAPは、S/4HANA Cloud Extended(EX)を導入する企業に対して、S/4HANA Cloud Essentials(ES)への将来的な移行を容易にするために、SAPアクティベート(標準に適合するアプローチに従ったアジャイル手法)と5つのゴールデンルールを提供しています。これらのルールでは、ベストプラクティス、Fit to Standard、新しい拡張・統合といった標準に適合する規範的な実装論を定義しており、S/4HANA Cloud Extended(EX) Editionを導入する際は、できる限りこれらのルールを順守することが推奨されます。

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拡張コンセプト

SAP S/4HANA Cloudは従来型のアドオン開発や変更(モディフケーション)が許可されていませんが、SAPは、S/4HANA Cloudの機能範囲を拡張したいニーズを考慮し、新しい拡張方式(S/4HANA拡張フレームワーク)を提供しています。新しい拡張方式によって、アドオンのアップグレード影響や複雑性に伴うコストを極小化することが可能となります。

新しい拡張方式では、SAP S/4HANAアプリケーション内で拡張する「In-App拡張(キーユーザー拡張)」とアプリ外のSAP Cloud Platformで拡張する「Side-by-Side拡張」の2種類の方法があります。キーユーザ拡張では、S/4HANAアプリケーション内で、UIレイアウトの変更、レポートや帳票の作成、項目の追加、ABAP によるカスタムロジックの追加などが行えます。これらの拡張設定は SAP標準オブジェクトとは別レイヤーで管理されており、アップグレードの際に影響を受けません。一方、Side-by-Side拡張では、SAP Cloud Platform 上にカスタムアプリケーションを開発し、SAP S/4HANAと疎結合で連携させます。このSide-by-Side拡張は、In-App拡張では対応が難しいケース、例えば周辺システムとのデータ連携を行うインタフェースのアドオンを開発することができます。また開発には汎用的な言語であるJAVAやJavaScript、Python等を使用できるため、従来のABAP開発に比べ柔軟に開発することができます。

SAP S/4HANA(オンプレミス版)は、従来の拡張方式と新しい拡張方式を利用することができます。SAP S/4HANA Cloud(EX版)は、従来の拡張方式と新しい拡張方式を利用できますが、新しい拡張方式が推奨です。SAP S/4HANA Cloud(ES版)は、新しい拡張方式のみ利用できます。

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SAP Cloud Platform

SAP Cloud Platform(SCP)は、クラウド上でのビジネスアプリケーションの構築、拡張、および統合を可能とするPaaS型のクラウドプラットフォームとして2013年にSAP HANA Cloud Platform製品としてリリースされました。2017年に現在のSAP Cloud Platformに改称され、PaaSの機能を強化し、IoTや人工知能(AI)、機械学習などの最新のテクノロジーを実現するプラットフォームとして活用の幅を大きく広げています。

SAP Cloud Platformでは、主に次のことが可能です。

  • オンプレミスやクラウドソリューションの拡張
  • オンプレミスとクラウドソリューション間、またはクラウドソリューション間の統合(SAP Cloud Platform Integration)
  • 新しいクラウドアプリケーションの開発(開発プラットフォーム)

SAP Cloud Platformによる拡張については、前述の「SAP S/4HANA Cloudの拡張コンセプト」を参照ください。ここでは、統合機能についてご紹介します。

SAP Cloud Platform Integration

SAP Cloud Platform Integration(SCP-I)は、クラウドアプリケーションを他のクラウドアプリケーションやオンプレミスアプリケーション(SAPまたはサードパーティ)とシームレスにつなぐSAP Cloud Platformの機能の1つです。SAP Cloud Platform(SCP)の統合機能として、Integration Platform as a Service(iPaaS)と呼ばれます。

SAPはこれまで、統合を実現するためのオンプレミスソリューションとしてSAP Process Integration(またはSAP Process Orchestration)を提供していましたが、クラウドに適合させるため、SAP Cloud Platform Integrationの豊富なアダプタやクラウドネイティブ機能によって、従来のPI連携を補完する構造を作りました。

またSAP Cloud Platformとオンプレミスシステム間で安全な接続を行うために、SAP Cloud Connectorを提供しています。SAP Cloud Connectorは、オンプレミス側のネットワークにインストールし、SAP Cloud PlatformとのSSLトンネルを確立する役割を担います。

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SAP API Business Hub

SAP Cloud Platform Integrationによる統合はAPI経由で連携します。クラウドやオンプレミスを含む各種ソリューションの事前構成済みAPIが、SAP API Business Hub(API総合カタログ)に集約されており、開発者は要件に合ったAPIを検索して利用する流れとなります。

これらのAPIは、現在ODataとSOAPベースが主流であり、SAP Cloud SDK(SAP Cloud Platform上で開発する際に利用可能なライブラリのセット)からAPIのサンプルコードを生成させることができ、開発者は効率的にアプリケーション開発を行うことが可能です。

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