企業の基幹システムであるSAPシステムを、パブリッククラウド上に移行するケースが増加しています。移行先として有力な選択肢となり得るのが、SAPと強いパートナーシップを築いているAWSです。本記事では、SAP on AWSの基本的な知識や、AWSでSAPを稼働させるメリットと移行時のポイントを解説します。
AWS上でSAPを稼働 させる「SAP on AWS」とは?
「SAP on AWS」とは、SAPシステムをAmazonが提供するクラウドAWS(Amazon Web Service)上で稼働させることを指します。
SAPとはドイツに本社を置くソフトウェアメーカーであり、SAPが提供するERPパッケージ(企業業務を一括管理するソフトウェア)そのものを指すこともあります。
SAPの運用方法は、ソフトウェアとハードウェアを自社で保有管理する「オンプレミス運用」とインターネット上のインフラを利用した「クラウド運用」の2種類です。
SAPの開発運用のためにクラウドを提供するクラウドベンダーのひとつであるAWSは、SAPの全製品についての本稼働認定を受けています。SAP on AWSは、オンプレミス環境からクラウド環境へスムーズに移行したい場合の有力な選択肢となります。
SAP on AWSのメリット
SAPをあえてAWS上に移行させるケースが増えているのはなぜでしょうか。ここでは、SAP on AWSのメリットについて解説します。
稼働インスタンスの幅が広い
SAPの認定を受けており、幅広い稼働インスタンスを持つことがAWSのメリットです。これにより、システムの用途に合わせて最適なインスタンスを選択できます。
SAPとAWSは2011年から共同でSAPのアプリケーションやプラットフォームに適したAWS環境の確立に注力しており、両社の間には確固たるパートナーシップが存在します。新製品発売の際にも、AWSは提供開始と同時に認定を受けるのが通例となっています。
AWSではSAPの大規模な本稼働環境展開における重要な要件を満たすために、過去にも多くの取り組みを実施してきています。
2016年には、クラウド上でSAP HANAを稼働するために2TBメモリを搭載したインスタンスタイプを構築し、2017年には、最大17ノード (34TBメモリ)の大規模なSAP HANAクラスタのSAPサポートと4TBのメモリ搭載のインスタンスタイプを発表しました。
これまでに、世界各国の企業がAWSと協力しパフォーマンス向上を果たしています。
参照元:AWS|SAP on AWS – 過去、現在、そして未来
可用性を担保するための選択肢が多い
「AWSのようなパブリッククラウドで大規模なシステム環境を稼働すると、十分な可用性が担保できないのではないか?」という懸念もあるでしょう。しかし、AWSにおけるSAPの可用性はオンプレミス環境と変わりません。
AWSには、HA機能と呼ばれる可用性を担保する機能が備わっているからです。AWS側のハードウェアを原因とする障害が発生しても、Amazon EC2のAuto Recovery機能(HA機能)によって、自動的に他の物理マシン上で仮想マシンを復旧させます。
また、物理的に分離された別のデータセンタである「アベイラビリティーゾーン」にも仮想マシンを配置し、HAクラスタを構成することで瞬時の切り替えが可能です。
AWSであればオンプレミス環境と変わらない、または同等以上の環境で、SAPの可用性を担保できます。
開発及び移行期間を短縮できる
開発及び移行期間の短縮が可能な点もAWSのメリットです。
物理サーバーで開発や移行を始めると、ハードウェア調達だけで2~3ヵ月を要します。一方のAWSでは、Amazon EC2インスタンスを立ち上げるだけで即座に作業に取り掛かることが可能です。移行を進める中で追加のリソースが必要になった際にも、AWSであればインスタンスタイプの変更やディスクの拡張を即座に実行でき、リードタイムの短縮につながります。
また、AWSではSAP CAL(Cloud Appliance Library)が利用できるというメリットもあります。CALとはSAPシステムのデモ環境を、インフラの設計や構築の準備段階を省いて素早く構築する方法です。本格的なプロジェクト開始に先立って、コストや時間を抑えてデモ環境での検証ができます。
支援体制が充実している
日本国内であっても充実した支援が受けられるという点も、AWSのメリットです。
支援サービスは、SAPジャパン認定のパートナーによる間接的なサービスと、AWSジャパンによる直接的なサービスの2つに分けられます。
日本国内ではSAPジャパン認定のパートナーが、SAP on AWSの専門部署の立ち上げ、顧客の支援を行います。リアルテックもそのうちの一社です。
また、AWSジャパンは「AWSプロフェッショナルサービス」という有料コンサルティングサービスを通じ、顧客に対して様々な支援サービスを提供しています。
SAPをAWS上に構築したり、あるいはオンプレミス環境から移行したいというユーザーは、多様なコンサルティングサービスのもと、最適なシステム構築をスムーズに進められます。
AWS上にSAPを移行する際のポイント
AWS上にスムーズにSAPを移行するための、実践的なポイントについて解説します。
目的の明確化
SAPをAWS上に移行するにあたってまず大切なことは、移行の目的を明確にしてAWS移行の妥当性を確認することです。
SAPをAWS上に移行する理由としては「コスト削減を目指したい」や「システムパフォーマンスを向上させたい」、あるいは「アプリケーション開発環境を柔軟にしたい」など企業によって様々な目的があります。
そうした目的を明確にすることは、SAPのAWS移行の軸がブレないための指針を作る上でとても大切です。
移行対象となるシステムの洗い出し
目的の明確化が完了すれば、次に重要なのは対象システムの洗い出しです。基本的には業務への影響度が小さいサービスから移行していくのですが、それは企業ごとの環境を考慮して決める必要があります。
対象システムを選定する際には、対応しているOSなど、AWSを利用するにあたっての制約条件も十分に確認しましょう。
クラウド移行後のコストを試算する
移行対象となるシステムを洗い出せたら、オンプレミス環境とAWS移行後それぞれのコストを試算し、移行の妥当性を検討しましょう。
SAP on AWSへの移行がコスト削減につながることもありますが、必ずしもそうとは限りません。たとえば、利用期間が長期にわたれば、オンプレミス環境で発生するハードウェアやソフトウェアの相対的なコストも下がります。
AWSのようなパブリッククラウドの場合、リソースの使用量に応じて課金額が変動します。運用コストを抑えるためにも、必要以上のスペックのインスタンスタイプとしないよう考慮する必要があります。
システムインテグレーションパートナーの選定
目的の明確化やシステムの洗い出しはSAPの移行において重要なポイントではありますが、実行には専門的な知識が必要です。作業に不安や困難に感じるのであれば、システムインテグレーションパートナーによる支援を求めることをおすすめします。
当社リアルテックのSAP移行支援コンサルティングでは、SAP S/4 HANA、SAP Solution Managerの最新テクノロジーの構築、既存SAP ERPシステムなどの移行など、お客様が必要とするシステム環境の整備を行います。
お客様は、ハードウェアリソースを用意する必要がありません。OS・SAPシステムへのパッチ適用などの定常的なメンテナンス作業もリアルテックにお任せいただけます。
リアルテックには豊富な経験に基づいた、セキュリティ対策にも考慮した安全な方法での構築・移行を実施するためのノウハウがあり、システムの継続的な安定稼働が可能です。
まとめ
SAP on AWSは、SAPと強いパートナーシップを築いているクラウドベンダーであるAWSのクラウド上に、SAPを移行することを指します。
AWSには幅広い稼働インスタンスや、可用性の担保、充実した支援体制といったメリットがあります。移行をスムーズに進めるために、まずは目的を明確化した上で、移行対象となるシステムを洗い出すことが重要です。その上でオンプレミス環境とのコスト比較を行いましょう。
SAPをAWS上に移行することには多くのメリットがありますが、専門的な知識が必要です。必要に応じて、適切なシステムインテグレーションパートナーによるコンサルティングを受けることで、無駄のない安全な運用が可能となります。
SAPの構築や移行をご検討の際にはぜひ、経験豊富なリアルテックまでご相談ください。
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- カテゴリ: クラウド
- キーワード:SAP
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