SAPデータ移行に必要な環境調査について

 2020.10.30  リアルテックジャパン

SAP ERPのサポートが終了するというアナウンスにより、SAPユーザー企業の多くが現状のシステム環境から刷新を検討しています。特に買収や合併を終え、デジタルトランスフォーメーション(DX)を控えている企業は既にSAPの次世代ERPパッケージ「SAP S/4 HANA」への移行を進めています。その際に必要になるのが、既存のSAP環境からのデータ移行であり、それに伴い環境調査を実施しなければいけません。では、SAPユーザー企業は何を意識してデータ移行前の環境調査を実施すれば良いのか?本稿ではそのポイントをご紹介します。

SAPユーザー企業ではなくても、現行のERP(Enterprise Resource Planning:エンタープライズ・リソース・プランニング)システムから刷新を検討している場合は同様に環境調査が欠かせないので、SAPユーザー企業ではない場合もぜひ参考にしてください。

データ移行に必要な環境調査とは?

SAPユーザー企業が現行のSAP ERPからSAP S/4 HANAへ移行するにあたり、単純にシステムだけを移行するのではなく既存のデータまで移行する必要があります。そのためにはまず、自社内にどのようなデータが存在し、何を移行すべきかを定義しなければいけません。環境調査とはつまりその準備段階であり、自社内のERPシステムで管理されているデータについて把握・整理していきます。

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なぜ環境調査が必要なのか

「データ移行は移行ツールで行うのだから、特に環境調査を行う必要はないのでは?」と考える方もいらっしゃるでしょう。ところがそうはいきません。以下の理由により、データ移行前の環境調査は必ず必要です。

理由1. 移行ツールの要件定義

データ移行は当然移行ツールを使用して行います。SAP ERPに保管されているデータは往々にして膨大なので、ツールを使って一括移行を試みるわけです。そこで、「当該移行ツールにどのような処理ステップを持たせるか?」を決定する上で、移行元データの調査が必要になります。

移行対象となるERPシステム(主にSAP S/4 HANA)はどんなシステムなのか?どういうデータ項目がどのテーブルに格納されているのか?など、移行元データの特徴を明らかにしていかなければいけません。SAP S/4HANAに移行において、データの選別が特に重要になるのは、「リエンジニアリング」や「選択的データ移行」の移行ルートで必要になります。(移行ルートについては投稿”SAP S/4HANAの選択的データ移行”を参照ください。)移行するデータやデータ量に応じた適切な移行ツールの選択が必要になりますシステム(主にSAP S/4 HANA)はどんなシステムなのか?どういうデータ項目がどのテーブルに格納されているのか?など、移行元データの特徴を明らかにしていかなければいけません。SAP S/4HANAに移行において、データの選別が特に重要になるのは、「リエンジニアリング」や「選択的データ移行」の移行ルートで必要になります。(移行ルートについては投稿”SAP S/4HANAの選択的データ移行”を参照ください。)移行するデータやデータ量に応じた適切な移行ツールの選択が必要になります。

そのためには現行のERPシステムの設計書と使用し、設計書で情報が足りない場合はデータベースやテーブルの定義やバッチ処理プログラムを参考にします。

理由2. データクレンジング

そしてもう1つの理由が、データのクレンジングです。データクレンジングとは、データ移行の前に現行のERPシステムが保有するデータをきれいに整えることを意味します。キーが重複しているデータが統合したり、表記ゆれを修正したりします。例えば同じユーザーIDデータが2件以上あれば1つに統合し、カナ氏名に全角と半角が混じっていればどちらかに統一します。

このほか、1つの項目に複数種類のデータが入っているなど通常ではあり得ないことが多々起きているためデータのクレンジングによりデータをきれいにする必要があるのです。

詳しく説明しますと、「性別」の項目に男性を意味する01と女性を意味する02という数値が入っていると仮定し、そこにその他を意味する03や不明を意味する99などの数値が混じっていることがあります。1や2といった数値を正しく01や02に寄せる、03と99は残すといった方法も有効ですが、わかりにくい数値ならばいっそブランク(空っぽ)にしてしまうのも良いでしょう。このようにデータのルールを決めて整えるのがデータクレンジングです。

SAP ERPの得意先マスタや仕入先マスタは、SAP S/4HANAではビジネスパートナーに統合されます。重複した得意先が異なる番号で採番されている場合にビジネスパートナー側の採番方法の検討が必要になり、データの状態とクレンジングによる整備は重要になります。

データクレンジングを実行するには、設計書だけでなく実データを見ることが重要になります。設計書には記されていないものも多いため、実際に確認することが大切です。

ERPシステム内には、データを重複して保持しているケースがあり、データクレンジングを徹底的に行うことで移行すべきデータの絶対量を少なくし、移行コストと移行にかかる期間を削減できます。

データ移行の環境調査を失敗させないポイント

それでは、データ移行の環境調査を行うに際し何に注意すれば良いのでしょうか?失敗させないためのポイントをご紹介します。

ポイント1. 移行データの品質評価漏れに注意する

移行データの品質とは要するに、データクレンジングによって最低限必要なデータが同じ粒度に揃っており、SAP S/4 HANAなどの新ERPシステムへの移行に向けて整ったデータが用意されているかどうかの指標です。この評価を怠ると様々なトラブルを引き起こします。

要件定義段階では移行データのサンプルを入手し、仕様書と異なる定義のものがどのくらい混じっているかは最低限評価すべき項目です。それをどこまで事前にクレンジングするか、改善した品質を移行ツールやテストでどう検証するかが成功の肝になります。

ポイント2. 工数の見積もりを過小評価しない

移行すべきデータのテーブル項目数や移行データ件数が増えるほど、要件確認や設計、開発、テストなどの工数は増えていきます。特にデータ件数が多いものに関しては注意が必要で、データ量が2倍だからといって実際にかかる工数も2倍とは限りません。想定外データのリスクが多くなるため、処理速度が出ずにチューニングが必要な場合や、想定外のトラブルが発生する可能性が高まります。

また、プロジェクトマネージャー等に工数を評価するスキルがあったとしても、コスト内に収める
ことが念頭にあるため十分な工数を見積もれていない可能性があります。

ポイント3. テストに十分な時間をかける

ここでは、データ移行前の環境調査の話ではなく、データ移行後のテストに関する話になります。データ移行では、移行先のシステムで業務を行う上で必要なデータが漏れなく、間違いなく、移行されていることが重要になります。移行漏れがある状態で、本番稼働を迎えてしまい不整合が発生するとリカバリは非常に困難なものになります。

データ移行が問題なく行われているか、時間をかけてテストを行い、問題が見つかった場合、再度、環境調査とデータ移行を行う必要があります。

テストの際に注意すべきは、「異常終了しないことを基準にしない」ことです。

データの扱いや件数・金額の現行システムとの突き合わせ、新システムで参照・操作する上での不具合などを解決する視点が入っていないと、テストが十分に行えない可能性があります。移行データの品質を向上するためにも、テストには十分な時間をかけましょう。

まとめ

いかがでしょうか?現行のSAP ERPや他のERPシステムから、SAP S/4 HANAなど新ERPシステムへの移行にはデータ移行を慎重かつ素早く行うことがとても需要です。本稿でご紹介した内容を参考に、データ移行についてぜひ考えてみてください。

リアルテックでは、SAPに精通したエンジニアがSAPシステムの導入や移行・アップグレードなどそれに伴うテクニカルな支援を行います。データ移行に必要な既存環境のアセスメントから移行プランに作成まで、経験豊富なコンサルタントがご支援します。

是非お気軽にご相談ください。

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