SAPサポート延長と「2025年の崖」問題

 2020.12.21  リアルテックジャパン株式会社

「2025年の崖」、「SAP 2025年問題(2027年問題)」、いずれも耳にされたことのあるキーワードかと思います。これらは昨今のIT問題を表した言葉です。

前者は経済産業省が発表した資料よりその概念が広まり、後者は世界の大手ERPベンダーSAPが提供するソリューションのサポート期限終了を意味しています。

2022年となりリミットが近づく中、まだ対応が進んでいないSAPユーザー企業においては、各所で情報収集を進めているところと思います。

本記事では、「2025年の崖」と「SAP 2025年問題(2027年問題)」をあらためて合わせて詳しく解説していきます。

「2025年の崖」とは何か?

IT化が進むにつれてビジネスの利便性は向上し、同時に生産性もアップしています。多くの企業が独自のシステム環境を構築しており、それぞれの部門や業務に最適化されていることでしょう。ところが現在、古くから構築してきたシステム環境が次世代ビジネスの足かせになっているという意見が多くなっています。

これを「ITシステムの2025年の崖」として提唱したのが、経済産業省の「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート ~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~ (サマリー)」です。

「2025年の崖」とはつまり、既存のシステム環境をそのまま運用している場合、デジタル技術による変革に取り組まない限り、その企業あるいは日本経済全体が様々な問題に見舞われることを表しています。それでは、具体的な問題内容をご紹介します。

<経営面の問題>

  • データを活用しきれずDXを実現できないため、市場の変化に対応してビジネス・モデルを柔軟・迅速に変更することができずデジタル競争の敗者に
  • システムの維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上に(技術的負債※)
    ※短期的な観点でシステムを開発し、結果として、長期的に保守費や運用費が高騰している状態
  • 保守運用の担い手不在で、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失等のリスクの高まり

<人材面の問題>

  • 2025年にIT人材不足数が約43万人まで拡大し、優秀なプログラマやシステムエンジニアの確保が難しくなる
  • 先端IT人材の供給不足と古いプログラミング言語を知る人材の供給不可により、既存システム環境のブラックボックス化が進み脱却が難しくなる

<新旧技術による問題>

  • SAP ERPのサポート期間が終了するのに伴い、多くの企業が基幹系システムの刷新や移行が求められている
  • 従来のITサービス市場とデジタル市場が6:4と立場が逆転し、先進的なデジタル技術への対応が強く求められる

このように、先進的なデジタル技術を取り入れないと様々な問題が発生すると予測されています。ちなみに、「2025年の崖」には「SAP 2025年問題(2027年問題)」が含まれていることも理解できます。

では。こうした状況を無視して現在のシステム環境を続けることで何が起こるのでしょうか?経済産業省は、2025年以降最大12兆円/年の経済損失が発生すると考えています。

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「SAP 2025年問題(2027年問題)」とは何か?

これまで、企業が抱える経営課題を解決してきた世界的なERP(Enterprise Resource Planning:エンタープライズ・リソース・プランニング)と言えばSAP ERPです。ERP業界において長年トップシェアを守り続け、日本国内では約2,000社が導入していると言われています。

そんなSAPユーザーが現在直面しているのが「SAP 2025年問題(2027年問題)」です。これは、2025年にSAP ERPのメインストリームサポートが終了することを受けて、多くの企業が移行等を検討しなければいけない問題です。

2020年2月にサポート期間の延長が発表され、今では2027年にサポート期間が終了することになっています。

2021年8月には、SAPのコミュニティブログ内でも、以下のような記述がされています。

現時点ではSAP ERP 6.0のメインストリームメンテナンス期間はEhP無しからEhP 5までは2025年末、EhP 6以降は2027年末となり、またSAP S/4HANA On-Premiseでは各バージョンのリリース後から5年後の年末までメインストリームメンテナンス期間となります。

では、SAP ERPのサポート期間終了は何が問題なのでしょうか?

業務プロセスとの依存性が高い既存のSAP ERPをどうするのか?

日本国内のおよそ2,000社と言われているSAPユーザーのほとんどが、独自のビジネス要件を満たすためのカスタマイズを繰り返し、SAP ERPと業務プロセスの依存性が極度に高まっています。つまり、新しいERPへ刷新することはSAPユーザーにとってビジネスそのものを変革支えることに等しいのです。

SAPでは移行先の選択肢としてSAP S/4HANAを提供しています。これはSAP独自開発のインメモリデータベースSAP HANAをベースにしたERPであり、高度なリアルタイム性を実現できるのがメリットです。

しかしながら、SAP S/4HANA と SAP ERPとでは根本的なアーキテクチャから違うため、SAP S /4HANAへの移行はほとんど別製品への移行に等しい負担がかかるとされています。

このため、業務プロセスとの依存性が高い企業では同じSAP社製品とはいえ、容易に移行へ踏み切れない現状があります。

現時点で正常に稼働しているSAP ERPを移行する必要は本当にあるのか?

SAPがサポート期間終了をアナウンスした理由の1つが「リアルタイム性の欠如」です。SAP ERPシステムではSAPユーザー企業が満足するデータ処理速度を提供することが難しくなっていることから、SAP ERPシステムのサポート期間を終了させて新しいシステムへの移行を促しています。

しかし、現時点で問題なく正常稼働しているSAP ERPの場合、移行することで多くの問題が発生することが想定されています。また、そうした企業ではSAP ERPの移行にあたって上層部を説得することが非常に難しく、SAP管理者にとって八方塞がり状態になっていることが少なくありません。

サポート期間終了が延長されたことの影響は?

2025年末に終了するはずだったSAP ERPのサポート期間が2027年末に延長されたことで、歓喜の声が上がったようにも思えますが、実際は「2025年問題」が「2027年問題」にすり替わったに過ぎず、SAP ERPの移行問題がなくなったわけではありません。それでも、移行までに準備できる期間が延びたことは確かです。

しかし油断は禁物です。日本企業特有のカスタマイズやアドオンが膨らみ、業務プロセスとの依存性が高いSAP ERPを移行するためには5年がかりの大プロジェクトに発展するケースも少なくないのです。

移行先となるERPの標準機能に合わせてBPR(Business Process Re-engineering:ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を実施することでより短期間での移行は可能なものの、既存の業務プロセスを踏襲するとなるとそれなりの時間がかかります。なので、現在「SAP 2025年問題(2027年問題)」に直面している場合は、2027年まで待たずに積極的な移行検討を進めていきましょう。

※ERP Ehp5以下のサポート期限は引き続き2025年のままですのでご注意下さい。

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