データ移行とは?
基本から徹底解説|失敗しないための手順とポイント

 公開日: 2024.07.02  更新日: 2026.01.28 

データ移行とは?基本から徹底解説|失敗しないための手順とポイント

システムの刷新やクラウド化に伴う「データ移行」。その計画の複雑さや潜むリスクに、頭を悩ませてはいませんか?
「何から手をつければ良いかわからない」「万が一失敗したらどうしよう…」一つのミスが業務停止といった重大な事態を招きかねないため、プロジェクト担当者様のプレッシャーは計り知れません。
しかし、ご安心ください。正しい手順と成功のポイントを体系的に理解すれば、データ移行は安全かつスムーズに完遂できます。

この記事で分かること

  • データ移行の基本的な目的と重要性
  • 自社の状況に合った最適な移行アプローチの選び方
  • 計画から実行までの具体的な5つのステップ
  • ありがちな失敗を未然に防ぐ7つの重要ポイント
  • 移行ツールの選定やセキュリティ対策で押さえるべき勘所

本記事では、一見難しく感じるデータ移行プロジェクトについて、基本知識から実践的なノウハウまでを、専門家が丁寧に解説します。この記事を読めば、あなたの会社のデータ移行プロジェクトを成功に導くための、明確なロードマップが手に入ります。

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データ移行の基本知識

企業の成長と変化に伴い、システムの刷新やクラウド化は避けて通れない経営課題です。その核心にあるのが「データ移行」です。一見、単なるデータの引っ越しのように思えるかもしれませんが、実はビジネスの継続性を左右する極めて重要なプロセスです。この章では、データ移行の基本的な考え方から、その目的、そしてどのような場面で必要とされるのかを具体的に解説します。

データ移行とは?その目的と重要性を解説

データ移行とは、あるコンピューティング環境やストレージシステムから、別の新しい環境へデータを移すプロセス全体を指します。 これには、古いサーバーから新しいサーバーへの移動、オンプレミス環境からクラウドへの移行、あるいは旧式のアプリケーションから新バージョンのアプリケーションへのデータ転送など、多岐にわたるケースが含まれます。

重要なのは、これが単なるデータのコピー&ペーストではないという点です。移行先のシステムでデータが正しく機能するように、データの形式を変換したり、不要な情報を整理(クレンジング)したりする作業も含まれます。 言うなれば、システムの魂である「データ」を、新しい器に安全かつ正確に移し替える作業なのです。

では、なぜ多くの企業がコストと時間をかけてまでデータ移行に取り組むのでしょうか。その主な目的は次の通りです。

  • システムのパフォーマンス向上:最新のハードウェアやソフトウェアに移行することで、処理速度や応答性が向上し、業務効率が改善されます。
  • コスト削減:老朽化したシステムの維持にかかる高額な保守費用や、クラウドサービスを活用することによる運用コストの削減が期待できます。
  • データ活用とDXの推進:散在していたデータを一元管理し、分析しやすい環境を整えることで、データに基づいた迅速な意思決定(データドリブン経営)を可能にします。
  • セキュリティ強化と事業継続計画(BCP):最新のセキュリティ対策が施されたシステムや、災害対策に優れたクラウド環境へ移行することで、データ資産を様々な脅威から保護します。

これらの目的を達成するためには、綿密な計画と正確な実行が不可欠です。データ移行の成否が、企業の競争力そのものを大きく左右すると言っても過言ではありません。

データ移行が必要となる主なケース

データ移行は、特定の経営判断や技術的な節目において必要不可欠となります。ここでは、企業がデータ移行に踏み切る代表的な3つのケースについて、具体例を交えながら解説します。

一目でわかるように、各ケースの概要を以下の表にまとめました。

ケース 概要 主な目的 具体例
システムの老朽化・刷新 長年使用してきた古いシステム(レガシーシステム)を新しいシステムへ移行する。 保守コスト削減、属人化の解消、セキュリティリスクの低減、新技術への対応。 メインフレームからオープン系システムへの移行、Windows Serverのサポート終了に伴う新サーバーへの移行。
クラウド環境への移行 自社で保有・運用するオンプレミス環境から、パブリッククラウドなどのクラウド環境へシステムやデータを移行する。 運用負荷の軽減、スケーラビリティの確保、災害対策(BCP)の強化、コストの最適化。 ファイルサーバーのAmazon S3への移行、基幹システムのMicrosoft Azure上での再構築。
業務プロセスの変革・DX推進 企業の合併・買収(M&A)や、データ活用基盤の構築など、ビジネスの変化に合わせてシステムを統合・刷新する。 システム統合による業務効率化、データの一元管理、迅速な意思決定の実現。 M&Aに伴う顧客管理システム(CRM)の統合、データウェアハウス(DWH)の構築。

システムの老朽化・刷新(レガシーマイグレーション)

長年にわたって企業の基幹業務を支えてきたシステムが、技術の進化とともに時代遅れになってしまう「レガシーシステム化」は、多くの企業が直面する課題です。 これらのシステムは、改修を重ねたことによる複雑化、開発当時の技術者の退職による属人化、そして最新のセキュリティ脅威への脆弱性といった問題を抱えています。

経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」も、このレガシーシステムがDX推進の足かせとなる問題を指摘したものです。 例えば、多くの企業で利用されてきたSAP社のERP製品「SAP ERP 6.0」の標準サポートが2027年に終了するため、後継製品である「SAP S/4HANA」への移行(マイグレーション)が喫緊の課題となっています。このようなシステムの老朽化やサポート終了を機に行われるデータ移行は、レガシーマイグレーションと呼ばれ、事業継続のための重要な取り組みです。

クラウド環境への移行(リフト&シフト)

近年、ITシステムの主流となりつつあるクラウド環境への移行も、データ移行を伴う代表的なケースです。 自社でサーバーを保有するオンプレミス環境から、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azureといったクラウドサービスへシステムを移行することで、運用コストの削減、柔軟なリソース拡張(スケーラビリティ)、災害時における事業継続性の向上など、多くのメリットが期待できます。

クラウド移行の手法としてよく知られているのが「リフト&シフト」です。 まずは既存のシステム構成をできるだけそのままクラウド環境へ移行し(リフト)、その後、クラウドのメリットを最大限に活かせるように段階的にシステムを最適化していく(シフト)というアプローチです。 この手法により、移行のリスクを抑えながら、着実にクラウド化を進めることができます。

業務プロセスの変革・DX推進

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、データ移行の強力な動機となります。 例えば、企業の合併・買収(M&A)が行われれば、それぞれの会社が持っていた顧客管理システムや会計システムを統合する必要があり、大規模なデータ移行が発生します。

また、「データドリブン経営」の実現を目指し、社内に散在する販売データや顧客データ、生産データなどを一箇所に集約して分析するための基盤(データウェアハウスやデータレイク)を構築する際にも、各システムからのデータ移行が不可欠です。 このように、ビジネスの成長戦略や変革を実現するための手段として、データ移行は極めて重要な役割を担っています。

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データ移行の代表的な3つのアプローチ

データ移行の代表的な3つのアプローチ

データ移行プロジェクトを成功させるためには、その心臓部ともいえる「移行アプローチ」の選定が極めて重要です。どのような方法で新システムへデータを移すのかによって、プロジェクトの期間、コスト、そして移行後の業務への影響が大きく変わるからです。一見、複雑に感じるかもしれませんが、アプローチは大きく3つの代表的な方式に分類できます。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に最も適した方式を見極めましょう。

ここでは、「コンバージョン方式」「リビルド方式」「ハイブリッド方式」の3つのアプローチについて、それぞれのメリット・デメリットを具体例と共に詳しく解説します。

現行システムを活かす「コンバージョン方式」

コンバージョン方式とは、現在稼働しているシステム(旧システム)のデータ構造や設定、アドオン(追加開発機能)などを可能な限り引き継ぎながら、新しいシステム環境へと移行させる方式です。ブラウンフィールドアプローチとも呼ばれ、既存の資産を最大限に再利用する点が最大の特徴です。

このアプローチは、例えるなら「家のリフォーム」に近い考え方です。基礎や柱はそのまま活かし、内装や設備を新しくすることで、住み慣れた環境を維持しつつ機能を向上させます。

メリット

  • コストと期間の抑制:既存の設計やプログラムを再利用するため、ゼロから開発するリビルド方式に比べて開発費用とプロジェクト期間を大幅に短縮できます。
  • 業務への影響が少ない:基本的な操作感や業務プロセスを維持できるため、移行後のユーザー教育にかかる負担が少なく、現場の混乱を最小限に抑えられます。
  • 過去データの完全な継承:旧システムで蓄積された全データをそのまま新システムへ引き継げるため、データの連続性が保たれます。

デメリット

  • 新システムの機能を最大限に活用できない可能性:旧システムの構造に制約されるため、新システムが持つ最新の機能やアーキテクチャのメリットを十分に享受できない場合があります。
  • 既存の課題を引き継ぐリスク:旧システムが抱えていた問題点(複雑なアドオン、パフォーマンスのボトルネックなど)をそのまま新システムに持ち込んでしまう可能性があります。

この方式が適しているケース

業務プロセスに大きな変更を加える必要がなく、「とにかく早く、低コストで最新のプラットフォームへ移行したい」という場合に最適なアプローチです。具体的には、ハードウェアの保守切れやOSのサポート終了に伴う、インフラ基盤の刷新プロジェクトなどで多く採用されます。

新規にシステムを再構築する「リビルド方式」

リビルド方式は、現行システムとは切り離し、全く新しいシステムをゼロから構築し、そこへ必要最低限のデータ(マスタデータや残高データなど)のみを移行する方式です。 グリーンフィールドアプローチとも呼ばれ、過去のしがらみを断ち切り、業務プロセスそのものを見直す際に採用されます。

これは「家の建て替え」に相当します。古い家を取り壊し、最新の設計思想と技術で、現在のライフスタイルに完全に合致した新しい家を建てるイメージです。

メリット

  • 業務プロセスの最適化:現行の業務プロセスを根本から見直し、新システムの標準機能に合わせて再設計することで、業務の非効率な部分を解消し、生産性を向上させることができます。
  • 新機能の最大活用:最新のテクノロジーやアーキテクチャを前提にシステムを設計するため、クラウド連携やAI活用など、新システムが提供する価値を最大限に引き出すことが可能です。
  • 技術的負債の解消:老朽化したシステムが抱える複雑なプログラムや不要なデータを一掃し、シンプルで保守性の高いシステム環境を実現できます。

デメリット

  • 多大なコストと期間:要件定義から設計、開発、テストまで全ての工程を新たに行うため、3つの方式の中で最もコストが高く、プロジェクト期間も長期化する傾向にあります。
  • 業務への影響が大きい:システムだけでなく業務プロセスも大きく変わるため、ユーザーへのトレーニングやマニュアル整備に多くの工数が必要となり、移行後の定着にも時間がかかります。

この方式が適しているケース

「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環として、システム刷新を機に業務改革も断行したい」と考える企業に適しています。例えば、市場の変化に対応するためにサプライチェーン管理を根本から見直したい大手製造業が、古い基幹システムを廃止し、最新のクラウドERPを導入する、といったケースがこれに該当します。

両者の利点を組み合わせた「ハイブリッド方式(選択的データ移行)」

ハイブリッド方式は、その名の通り、コンバージョン方式とリビルド方式の利点を組み合わせたアプローチです。 具体的には、新システムはクリーンな状態で用意しつつ、旧システムから必要なデータやプロセスを選択して移行します。「選択的データ移行(Selective Data Transition)」とも呼ばれます。

これは「家のリノベーション」に似ています。歴史的価値のある梁や柱は残しつつ、現代的な間取りや設備を導入するように、企業の強みである業務プロセスや重要なデータ資産は継承し、変革が必要な部分は刷新する、という柔軟な対応が可能です。

メリット

  • コストと期間の最適化:全てのデータを移行するわけではないため、コンバージョン方式よりは手間がかかるものの、リビルド方式よりはコストと期間を抑えることができます。
  • 柔軟な移行計画:会社単位や業務領域単位で段階的に移行を進めることが可能です。例えば、まず会計システムだけを先行して新システムに移行し、翌年に販売管理システムを移行するといった計画を立てられます。
  • ビジネス価値の高いデータを継承:過去の取引履歴や分析データなど、ビジネス上価値のあるデータを選択して新システムに引き継ぐことで、データドリブンな経営を継続できます。

デメリット

  • 移行計画の複雑化:どのデータを移行し、どの機能を再利用または新規開発するのか、詳細な分析と計画が必要になるため、プロジェクト管理の難易度が上がります。
  • 高度な技術力が必要:新旧システムのデータ整合性を保ちながら選択的にデータを移行するには、専門的なツールや高度な技術的知見が求められます。

この方式が適しているケース

「システム全体を一気に刷新するリスクは避けたいが、段階的に業務改革を進め、将来のビジネス基盤を構築したい」というニーズにマッチします。企業合併に伴い、双方のシステムの良い部分を活かしつつ、ひとつの新しいプラットフォームに統合する、といった複雑な要件を持つプロジェクトで特に有効なアプローチです。

データ移行アプローチの比較
アプローチ 概要 コスト 期間 業務への影響 新機能の活用度
コンバージョン方式 既存システムをベースに新環境へ移行 低い 短い
リビルド方式 新規にシステムを再構築し、データのみ移行 高い 長い
ハイブリッド方式 必要なデータや機能を選択して移行

データ移行プロジェクトの進め方【5ステップで解説】

データ移行プロジェクトの進め方【5ステップで解説】

データ移行プロジェクトは、その複雑さから多くの企業が課題を抱える領域です。しかし、正しいステップを踏むことで、失敗のリスクを大幅に低減させることが可能です。ここでは、プロジェクトを成功に導くための標準的な5つのステップを、具体的な作業内容とともに詳しく解説します。

ステップ1:計画・アセスメント(現状分析)

データ移行の成否は、この最初のステップである「計画・アセスメント」で8割が決まると言っても過言ではありません。現状を正確に把握し、精度の高い計画を立てることが、後の手戻りや予期せぬトラブルを防ぐ鍵となります。一見地味に見えるかもしれませんが、ここでの投資がプロジェクト全体のコストと期間を最適化します。

このフェーズの主な目的は、移行の目的を明確にし、移行対象となるシステムやデータの現状を徹底的に調査・分析することです。具体的には、以下のようなタスクを実施します。

  • 目的とゴールの設定:なぜデータ移行を行うのか(例:システムの老朽化対策、クラウド化によるコスト削減、データ活用基盤の構築など)、移行後にどのような状態を目指すのかを定義します。例えば、「新システムへの移行により、月次締め処理時間を50%短縮する」といった具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定します。
  • 現状分析(As-Is分析):既存システムの構成、データ量、データの種類、テーブル間の依存関係、業務プロセスとの関連性などを詳細に調査します。特に、アドオン開発によるカスタマイズ部分は移行の障壁となりやすいため、入念な洗い出しが不可欠です。
  • 移行対象データの棚卸し:全てのデータが移行対象となるわけではありません。新システムで必要なデータ、不要なデータ、アーカイブすべきデータを明確に切り分けます。この棚卸しを怠ると、不要なデータを移行してしまい、新システムのパフォーマンス低下やコスト増大を招く可能性があります。
  • リスクの洗い出し:移行に伴う技術的、業務的、セキュリティ的なリスクを洗い出し、その影響度と発生確率を評価します。

例えば、ある製造業の基幹システム移行プロジェクトでは、初期のアセスメントを簡略化した結果、移行対象外と考えていた周辺システムとのデータ連携が考慮されておらず、プロジェクト終盤で仕様の再設計が必要となり、結果的に3ヶ月の遅延と数千万円の追加コストが発生しました。このような事態を避けるためにも、現状分析は徹底的に行う必要があります。

ステップ2:要件定義・設計

計画・アセスメントフェーズで明らかになった現状(As-Is)を基に、移行後の「あるべき姿(To-Be)」を具体的に定義するのが、この「要件定義・設計」フェーズです。ここで作成される設計書が、以降の開発・テスト工程の全ての基盤となります。

では、具体的にどのようなことを定義・設計するのでしょうか。主要な項目は以下の通りです。

  • 移行スコープの確定:ステップ1の棚卸し結果に基づき、どのデータを、いつまでに、どのシステムへ移行するのか、その範囲を最終的に確定させます。
  • 移行方式の設計:システムの停止時間を考慮し、最適な移行方式を選択します。業務を一度完全に停止して一括で移行する「一括移行方式(ビッグバン)」や、業務への影響を最小限に抑えるため、部門や機能単位で段階的に移行する「段階的移行方式」などがあります。
  • データマッピング設計:移行元システムのデータ項目と、移行先システムのデータ項目を1対1で対応付ける、データ移行の心臓部とも言える設計です。文字コードやデータ型、桁数などの違いを吸収するための変換ロジックもここで詳細に定義します。
  • 非機能要件の定義:移行処理に要する時間(性能)、データの正確性・整合性(品質)、セキュリティ要件など、機能面以外の要件を定義します。例えば、「1,000万件の顧客マスタデータを4時間以内に移行完了させる」といった具体的な目標値を設定します。
  • 移行計画の具体化:WBS(作業分解構成図)を用いてタスクを洗い出し、詳細なスケジュールと担当者を割り当てます。

ステップ3:移行ツールの選定と開発

設計書が完成したら、次はいよいよ実際の移行処理を担うプログラムやツールを準備するフェーズです。移行するデータの量や複雑さ、システムの特性に応じて最適なツールを選定することが、開発効率と移行品質を大きく左右します。

移行ツールには、大きく分けて既存のETLツールなどを活用する場合と、独自にプログラムを開発する場合があります。

アプローチ 概要 メリット デメリット
ETLツールの利用 データの抽出(Extract)、変換(Transform)、書き出し(Load)機能を持つ専用ソフトウェアを利用する。 ・開発工数を削減できる
・品質が安定している
・豊富な接続先(DB、ファイル形式)に対応
・ライセンス費用が高額になる場合がある
・複雑な変換ロジックには対応しきれないことがある
独自開発
(スクラッチ)
PythonやJavaなどのプログラミング言語を用いて、移行要件に特化したプログラムを自社で開発する。 ・要件に合わせた自由な設計が可能
・ライセンス費用が不要
・高い開発スキルが求められる
・開発工数と期間が必要
・品質が開発者のスキルに依存する

どちらを選択するかは、コスト、期間、要員のスキルセットを総合的に勘案して決定します。例えば、数十万件程度の定型的なデータ移行であれば、独自開発の方がコストを抑えられる場合があります。一方で、数テラバイトに及ぶような大規模かつ複雑なデータ移行の場合は、実績のあるETLツールを利用した方が、結果的にリスクを抑え、高品質な移行を実現できるでしょう。

ステップ4:テストとリハーサル

開発した移行ツールやプログラムが設計通りに動作するかを検証し、本番移行の成功確率を極限まで高めるのがこのステップです。テストとリハーサルをどれだけ入念に行えるかが、本番でのトラブル発生率に直結します。ここでの手抜きは絶対に許されません。

テストは、段階的にその精度を高めていきます。

  1. 単体テスト:開発したプログラムが、個々の機能単位で正しく動作するかを検証します。
  2. 結合テスト:複数のプログラムを連携させ、データが正しく受け渡されるかなどを検証します。
  3. 総合テスト:本番に近いデータ量を用いて、移行全体の流れ(抽出〜変換〜書き出し)を通してテストします。データの整合性はもちろん、処理時間(パフォーマンス)が要件を満たしているかも重要な確認ポイントです。
  4. 受入テスト(UAT):最終的にシステムを利用する業務部門の担当者が主体となり、移行後のデータが業務で問題なく利用できるかを確認します。

そして、総合テストと並行して、あるいはその最終段階として「移行リハーサル」を実施します。リハーサルは、本番と全く同じ環境、同じデータ、同じ手順、同じ時間帯で移行作業の通し訓練を行うことです。これにより、作業手順書の漏れや、想定していなかった問題点を事前に洗い出すことができます。大規模なプロジェクトでは、本番前に2〜3回のリハーサルを行うのが一般的です。

ステップ5:移行本番と稼働後サポート

全ての準備と検証を終え、いよいよ新システムへ切り替える最終ステップです。プロジェクトメンバーの緊張が最も高まる瞬間ですが、十分なリハーサルを重ねていれば、自信を持って臨むことができます。

移行本番(カットオーバー)

移行本番当日は、事前に作成した詳細なタイムスケジュールに基づき、作業を進行します。進捗状況や発生した課題を一元管理するための「コマンドセンター(指令室)」を設置し、関係者間の迅速な情報共有を図ることが重要です。作業完了後は、移行したデータの件数チェックや、主要な勘定科目の残高照合などを行い、データの正当性を最終確認します。万が一、計画時間内に作業が完了しない、あるいは重大な問題が発覚した場合に備え、旧システムに切り戻すための手順(フォールバックプラン)を必ず用意しておく必要があります。

稼働後サポート(ハイパーケア)

新システムが稼働を開始した後も、プロジェクトはまだ終わりではありません。稼働直後は、操作に不慣れなユーザーからの問い合わせが急増したり、テストでは検知できなかった潜在的な不具合が発生したりすることがあります。この不安定な期間を乗り切るため、一定期間(通常1ヶ月〜3ヶ月程度)、プロジェクトメンバーが常駐して問い合わせやトラブルに迅速に対応する「ハイパーケア」と呼ばれるサポート体制を敷きます。この期間を通じてシステムの安定稼働を見届け、最終的に保守運用チームに引き継ぐことで、データ移行プロジェクトは完了となります。

データ移行で失敗しないための7つのポイント

データ移行で失敗しないための7つのポイント

データ移行は、単なるデータのコピー&ペーストではありません。移行計画が不十分であったり、潜在的なリスクを見過ごしたりすると、データの損失、システムの停止、予算の大幅な超過といった深刻な事態を招きかねません。ある調査では、データ移行プロジェクトの半数近くが予定通りに進まないという報告もあります。 では、どうすればデータ移行を成功に導けるのでしょうか?ここでは、プロジェクトを成功させるために不可欠な7つのポイントを、具体的なアクションと共に解説します。

1. 移行対象データの正確な棚卸し

データ移行の成否は、移行対象となるデータをどれだけ正確に把握できているかで決まります。 まずは、既存のシステムにどのようなデータが、どこに、どのような形式で保管されているのかを徹底的に洗い出す「データの棚卸し」から始めましょう。 この初期段階での見落としが、後の工程で大きな手戻りやトラブルの原因となります。

具体的には、以下の点を明確にする必要があります。

  • データの種類と場所: 顧客マスタ、商品マスタ、取引履歴といったデータの種類と、それらが格納されているデータベースやファイルサーバを特定します。
  • データ量: 各データのレコード数やファイルサイズを把握し、移行に必要なストレージ容量や時間を試算します。
  • データの関連性: データ間の依存関係(例:受注データと顧客マスタの連携)を理解し、移行の順序や整合性を保つ方法を検討します。
  • データの利用状況: 現在、誰が、どの業務で、どのくらいの頻度でそのデータを利用しているかを調査します。これにより、移行の優先順位付けが可能になります。
  • 不要データの特定: 長年使われていないデータや、重複しているデータを特定し、移行対象から除外することで、移行のコストとリスクを削減します。

この棚卸し作業は、新システムの要件定義とも密接に関わる重要なプロセスです。現状を正確に把握することが、精度の高い移行計画の第一歩となります。

2. データクレンジングの徹底

「汚れたデータ」を新しいシステムに持ち込むことは、システム全体の品質を低下させる最大の要因です。 データクレンジングとは、移行前にデータの品質を向上させるための「掃除」のプロセスです。具体的には、重複、誤記、表記の揺れなどを特定し、修正・統一する作業を指します。 これを怠ると、新システムが正常に稼働しないだけでなく、データ分析の結果が不正確になるなどの問題を引き起こします。

データクレンジングは、主に以下のステップで進められます。

  1. 品質基準の定義: 新しいシステムで求められるデータの品質基準(例:「法人格の種類は『株式会社』に統一する」「電話番号はハイフン無しで登録する」など)を明確に定義します。
  2. ダーティデータの特定: 定義した基準に基づき、既存データの中から基準を満たさない「ダーティデータ」を洗い出します。専用ツールを活用すると効率的です。
  3. クレンジングの実施: ダーティデータを修正、削除、または統合します。この作業は、手作業とツールを組み合わせて行うのが一般的です。
  4. 品質の検証: クレンジング後のデータが、定義した品質基準を満たしているかを確認します。

例えば、顧客データを移行する際に「(株)ABC」と「株式会社ABC」が別々のデータとして存在していては、正確な顧客管理はできません。地道な作業ですが、データクレンジングを徹底することが、新システムの価値を最大化する鍵となります。

3. 新システムへの業務プロセスの適合

データ移行は、単なるシステム刷新ではなく、業務プロセスを見直す絶好の機会です。 特にSAP S/4HANAのような最新のERPパッケージへ移行する場合、「Fit to Standard」という考え方が重要になります。これは、業務プロセスをシステムの標準機能に合わせて見直すアプローチです。アドオン開発を最小限に抑えることで、コスト削減や開発期間の短縮、将来のバージョンアップへの対応が容易になるなどのメリットがあります。

業務プロセスを新システムに適合させるためには、以下の点が重要です。

  • 現状業務の可視化: 現在の業務フローを詳細に洗い出し、どの業務がどのデータに依存しているかを明確にします。
  • ギャップ分析: 現状の業務プロセスと、新システムの標準機能との間にどのような差異(ギャップ)があるかを分析します。
  • 業務部門との連携: ギャップを解消するために、業務プロセスの変更が必要な場合は、IT部門だけでなく、実際に業務を行う部門と密に連携し、合意形成を図ることが不可欠です。
  • 変更管理の徹底: 新しい業務プロセスへの移行をスムーズに進めるため、従業員への十分な説明とトレーニング、マニュアル作成などの変更管理を計画的に行います。

システムを業務に合わせるのではなく、業務をシステムに合わせることで、システムが持つポテンシャルを最大限に引き出し、ビジネス全体の効率化を実現できます。

4. 十分なテスト計画と実施

「ぶっつけ本番」でのデータ移行は、失敗の元です。綿密なテスト計画とリハーサルの実施が、本番移行の成功を左右します。 移行テストは、単にデータが正しく移るかを確認するだけでなく、移行プロセス全体の問題点を洗い出し、本番での手戻りを防ぐために行います。

効果的なテストを行うためには、以下の点を考慮した計画が必要です。

表1: データ移行における主なテストの種類と目的
テストの種類 主な目的 確認内容の例
単体テスト 個別のデータ変換プログラムが正しく動作することを確認する。 文字コードが正しく変換されるか。特定の項目が設計通りにマッピングされるか。
結合テスト 複数のデータやプログラムを連携させた際に、データの整合性が保たれるかを確認する。 顧客マスタと受注データが正しく紐づくか。移行後のデータで業務トランザクションが正常に流れるか。
性能テスト 本番と同等のデータ量で移行を行い、想定時間内に処理が完了するかを確認する。 移行ツールが大量のデータを処理できるか。ネットワーク帯域は十分か。
受入テスト(UAT 業務担当者が、移行後のデータを使って実際の業務を行えるかを確認する。 必要なデータがすべて揃っているか。新システムの操作性に問題はないか。

特に重要なのが、本番移行と全く同じ手順・体制で行う「移行リハーサル」です。 リハーサルを複数回繰り返すことで、手順書の妥当性検証や問題発生時の対応訓練ができ、本番移行の精度を飛躍的に高めることができます。

5. ダウンタイムの最小化計画

データ移行に伴うシステムの停止時間(ダウンタイム)は、ビジネスへの影響を最小限に抑える必要があります。 特に24時間365日稼働が求められるシステムでは、ダウンタイムの最小化は最重要課題です。 そのためには、移行方式の選定と詳細なタイムスケジュール策定が鍵となります。

ダウンタイムを最小化するためのアプローチには、主に以下のようなものがあります。

  • 一括移行(ビッグバン移行): 週末や連休など、業務への影響が少ない時間帯にシステムを完全に停止し、全データを一括で移行する方式です。 構成はシンプルですが、データ量が多いと長時間の停止が必要になります。
  • 段階的移行: 部門や拠点、データの種類ごとなど、複数回に分けて段階的にデータを移行する方式です。 一度のダウンタイムを短くできますが、移行期間中は新旧システムが並行稼働するため、管理が複雑になります。
  • 差分同期(継続同期型移行): 事前に大半のデータを新システムにコピーしておき、本番移行直前に旧システムで更新された差分データのみを同期する方式です。 これにより、最終的な切り替えに伴うダウンタイムを数分単位まで短縮することが可能です。

どの方式を選択するかは、システムの特性、許容されるダウンタイム、予算などを総合的に考慮して決定します。綿密なタイムスケジュールを作成し、万が一トラブルが発生した場合の切り戻し計画も準備しておくことが重要です。

6. セキュリティ対策とデータ保護

データ移行のプロセスは、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクが高まる非常にデリケートな期間です。 移行対象のデータには、顧客情報や財務情報などの機密情報が含まれることが多く、万が一の事態は企業の信頼を大きく損ないます。 したがって、計画段階から厳格なセキュリティ対策を講じる必要があります。

データ移行時に実施すべき主なセキュリティ対策は以下の通りです。

  • アクセス制御の徹底: 移行作業に関わる担当者を最小限に絞り、必要なデータにのみアクセスできるよう権限を厳格に管理します。
  • データの暗号化: 移行中のデータはもちろん、一時的に保管する中間ファイルやバックアップデータもすべて暗号化し、万が一データが外部に流出しても内容を読み取れないようにします。
  • 安全な転送経路の確保: データ転送には、VPN(Virtual Private Network)や専用線、TLS/SSLといった暗号化された安全な通信プロトコルを使用します。
  • データマスキングの活用: テスト環境で本番データを使用する際は、個人情報などの機密性の高いデータを、意味のない別の文字列に置き換える「データマスキング」を施し、本番データそのものが漏洩するリスクを防ぎます。
  • 法令・ガイドラインの遵守: 個人情報保護法や業界固有のガイドラインなど、関連する法規制を遵守したデータ取り扱いを徹底します。

セキュリティ対策は「やりすぎ」ということはありません。あらゆるリスクを想定し、多層的な防御策を講じることが重要です。

7. 専門家の知見を活用する

データ移行は、高度な技術と豊富な経験が要求される複雑なプロジェクトです。 すべてを自社のリソースだけで完結させようとすると、思わぬ落とし穴にはまったり、計画が大幅に遅延したりするリスクがあります。 成功確率を高めるためには、データ移行を専門とする外部ベンダーやコンサルタントの知見を積極的に活用することをお勧めします。

専門家を活用するメリットは多岐にわたります。

  • リスクの低減: 過去の豊富な経験から、プロジェクトに潜むリスクを早期に発見し、適切な対策を講じることができます。
  • 効率的なツール選定: プロジェクトの要件に最適な移行ツールや検証ツールを選定し、作業の効率化と品質向上を図ることができます。
  • 高度な技術力: 大容量データの高速移行や、複雑なデータ変換など、自社だけでは対応が難しい技術的な課題を解決できます。
  • 客観的な視点の確保: 社内のしがらみにとらわれない客観的な視点から、プロジェクト全体の課題を指摘し、最適な進行管理を支援します。

ベンダーを選定する際は、単に技術力が高いだけでなく、自社のビジネスや業界への理解が深く、円滑なコミュニケーションが取れるパートナーを選ぶことが成功の鍵となります。

よくある質問(FAQ)

データ移行とは、簡単に言うと何ですか?

データ移行とは、古いシステムから新しいシステムへ、あるいは異なる形式のストレージ間などで、データを移動させるプロセス全体を指します。単なる「データの引っ越し」ではなく、ビジネスを止めずに、安全かつ正確に情報を移し、新しい環境で活用できるようにするための重要なプロジェクトです。

データ移行にはどれくらいの費用がかかりますか?

費用は、移行するデータの量や複雑さ、システムの規模、プロジェクトの期間、利用するツール、専門家への依頼の有無など、多くの要因によって大きく変動します。一概には言えませんが、小規模なもので数十万円から、大規模な基幹システムの刷新などでは数千万円以上かかるケースもあります。まずは専門家に見積もりを依頼し、費用感を把握することが重要です。

データ移行にかかる期間の目安はありますか?

こちらもプロジェクトの規模によりますが、数ヶ月から1年以上に及ぶことも珍しくありません。「計画・アセスメント」から「稼働後サポート」まで、各ステップで十分な時間を確保することが、プロジェクト成功の鍵となります。特に、現状分析やテストには時間をかけるべきでしょう。

データ移行で最も注意すべきことは何ですか?

最も注意すべきは「データの品質」です。古いシステムには、重複したデータや誤ったデータ、不要なデータが蓄積されていることが多くあります。これらを整理・清掃(データクレンジング)せずに移行すると、新しいシステムでトラブルが発生する原因となります。移行前の「データの棚卸し」と「データクレンジング」が極めて重要です。

データ移行は自社だけで行うべきでしょうか?専門業者に依頼すべきでしょうか?

移行するデータの重要度やシステムの複雑さによります。小規模で単純なデータ移行であれば自社で対応可能な場合もあります。しかし、基幹システムや大量の顧客データなど、ビジネスの根幹に関わるデータ移行の場合は、専門的な知識と経験を持つ外部の専門家に依頼することを強く推奨します。リスクを最小限に抑え、プロジェクトを円滑に進めることができます。

ダウンタイム(システム停止時間)をゼロにすることは可能ですか?

完全にゼロにすることは非常に難しいですが、最小限に抑えるための計画は可能です。業務への影響が少ない夜間や休日に移行作業を実施したり、段階的に移行を進めたり、新旧システムを一時的に並行稼働させるなどの方法があります。ビジネスへの影響を最小化するための「ダウンタイム最小化計画」は、プロジェクトの初期段階で検討すべき重要事項です。

まとめ

本記事では、データ移行の基本的な知識から、具体的な進め方、そしてプロジェクトを成功に導くための7つの重要なポイントについて、網羅的に解説しました。一見、複雑で難しく感じるデータ移行ですが、その本質はシンプルです。
データ移行は、単なる「データの引っ越し作業」ではありません。システムの刷新やDX推進を通じて、企業の競争力を高めるための重要な経営戦略の一環です。だからこそ、事前の綿密な計画と準備が何よりも重要になります。では、成功に向けて具体的に何をすべきでしょうか?それは、本記事で解説した5つのステップと7つのポイントを、一つひとつ着実に実行していくことです。特に、移行対象となるデータの正確な棚卸し、データクレンジングの徹底、そして十分なテストの実施は、プロジェクトの成否を分けるといっても過言ではありません。
この記事が、皆様のデータ移行プロジェクトを成功へと導く一助となれば幸いです。もし、より専門的な知見が必要な場合や、SAPシステムのような複雑なデータ移行でお悩みの場合は、実績豊富な専門家の力を借りることも有効な選択肢となるでしょう。
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S/4HANAへの移行をご検討中のご担当者様へ

基幹システムの移行は、企業にとって避けては通れない道です。ノウハウのない企業では、しばしば計画が甘くなってしまい、想定外のトラブルによって失敗することも少なくありません。
もしも現在、

  • SAPのS/4HANAへの移行を考えており、進め方の相談に乗ってほしい
  • 2027年問題への対応の進め方がわからない
  • システム移行の必要があるが、社内リソースが足りず困っている
  • 移行に関するノウハウがないが、リスク回避のポイントを押さえたい

などのお困りごとがありましたら、私達リアルテックジャパンへご相談ください。

リアルテックジャパンはSAP製品に精通したエンジニアが多数在籍する、テクノロジーコンサルティングファームです。
2002年の設立後、SAPシステムを導入されている企業、クラウドベンダー、ハードウェアベンダー、コンサルティングファーム等のお客様から高い評価を頂いております。
移行の規模を問わずさまざまなお悩みに対応していますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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【本記事の監修体制について】

執筆:リードプラス株式会社

監修:リアルテックジャパン株式会社SAPソリューション事業

この記事は、SAP導入プロジェクトの豊富な経験を持つ当社の専門部門が内容を精査し、 以下の最終承認プロセスを経て公開しています。

最終監修責任者:リアルテックジャパン株式会社 代表取締役社長 松浦 一哉

企業の代表として、お客様の課題解決に繋がる有益で正確な情報発信に責任を持って取り組んでまいります。


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