SAP S/4HANAへのデータ移行|方法やポイントを解説

 2024.07.02  リアルテックジャパン

国内では、多くの企業が統合基幹業務システムにSAP社のSAP ERPを採用しており、2027年の標準サポート終了に向けて、「SAP S/4HANA」への移行が重要課題となっています。本記事では、SAP S/4HANAの概要について解説するとともに、代表的な移行メソッドやデータ移行時のポイントを紹介します。

SAP S/4HANAへのデータ移行|方法やポイントを解説

導入事例

SAP S/4HANAについてのおさらい

「SAP S/4HANA」とは、SAP社が提供するERP(Enterprise Resources Planning)です。ERPは、財務・会計・人事・購買・生産・在庫管理・販売などの基幹業務を統合的に管理する経営メソッドを指し、その効率化を支援する統合基幹業務システムを、一般的に「ERP」と呼びます。以下より、SAP社の現行ERPである、SAP S/4HANAの概要について解説します。

次世代ERPとしてのSAP S/4HANA

SAP S/4HANAは、2015年にリリースされた次世代型のERPです。SAP社はERP市場のリーディングカンパニーであり、1973年に世界初のERPとして「SAP R/1」をリリースします。その後は「SAP R/2」→「SAP R/3」→「SAP ERP」とバージョンアップを重ね、2015年に現行のSAP S/4HANAが展開されました。

SAP S/4HANAは、インメモリデータベースのSAP HANAを基盤としてアーキテクチャを構築しており、前世代のSAP ERPよりも、データ処理の高速性とリアルタイム性が大幅に向上しています。「オンプレミス型」「プライベートクラウド型」「パブリッククラウド型」の3種類が提供されており、組織体制や事業規模に伴って、ビジネスニーズに対応できる点が大きな特徴です。

対応が求められる「SAP 2027年問題」

「SAP 2027年問題」とは、SAP S/4HANAの前モデルであるSAP ERPの標準サポートが2027年に終了する問題です。以前は、2025年に標準サポートが終了することがアナウンスされていましたが、2年間の延長措置により期限が2027年に変更されました。

終了するのはあくまでも標準サポートであり、セキュリティプログラムの更新は継続されます。しかし、新機能の追加がなくなるため、不具合や法改正などへの対応が困難です。また、延長費用を払うことで2030年までサポートを継続できますが、問題を先送りするだけになりかねません。

国内では、2,000以上の企業がSAP ERPを採用しているとされており、多くの企業にとって、SAP S/4HANAへの移行が喫緊の課題となっています。しかし、SAP S/4HANAへの移行は数千万〜数億円の予算と数カ月単位の移行期間、そして極めて高度な専門知識を要するため、今後はSAP関連のコンサル不足が予想されます。

SAPシステムパフォーマンス分析パック
Archive Migration Service (アーカイブ移行リモートサービス)

SAP S/4HANAへの移行方法

SAP ERPからSAP S/4HANAへ移行するには、大きく分けて3種類のルートが考えられます。それが「リユース(システムコンバージョン)」「リビルド(リエンジニアリング)」「選択的データ移行」です。以下より、SAP S/4HANAへの代表的な移行メソッドについて解説します。

リユース (システムコンバージョン)

リユースとは、現在運用しているSAP ERPをベースとして、SAP S/4HANAに変換する形です。既存の各種設定やアドオン、マスターデータなどを引き継ぎつつ、SAP S/4HANAへの移行に際して、根本的に変更が求められる領域のみ新たに実装します。SAPでは、このメソッドを「システムコンバージョン」と呼びます。

リユースは、ERPに関する既存のIT資産を再利用する形であり、業務要件やシステム要件の再定義が不要な上、後述するリビルドと比較すると、低コストかつ短期間での移行が可能です。ただし、SAP ERPをベースとするため、SAP S/4HANAの機能を十分に活用できない可能性があります。

また、データの物理的な抽出と移行は不要ですが、インメモリデータベースのSAP HANAに適したデータ構造に変換する工程が必要です。

リビルド (リエンジニアリング)

リビルドとは、SAP S/4HANAを新たに導入して再構築するメソッドです。ERPに関する既存のIT資産を再利用するのではなく、要件定義・基本設計・詳細設計・実装・テスト・運用の各工程を新規で実行します。基本的に既存の設定やアドオンは引き継がず、最小限のデータのみを移行する形であり、「リエンジニアリング」とも呼ばれます。

リビルドは、現状の要件に最適化されたERPの構築が可能な上、SAP S/4HANAの新機能を全面的に享受できるメリットがあります。しかし、要件定義やアドオン開発などをゼロから実施しなければならないため、リユースよりも多くのコストと開発期間が必要です。

また、データの物理的な移行に伴うファイルの破損や消失のリスクを抱えるほか、運用の定着に時間を要するデメリットがあります。

選択的データ移行

選択的データ移行とは、既存のERPからデータを任意で選択して、SAP S/4HANAへ移行する形です。リユースはコストや開発期間を最小限に抑えられるものの、SAP S/4HANAの性能を引き出せない可能性があります。リビルドは、現状の業務要件とシステム要件に即したERPを設計できますが、億単位のコストと年単位の開発期間が欠かせません。このIT資産を再利用するリユースと、ERPを再設計するリビルドのバランスを上手く取った、第三のメソッドが選択的データ移行です。

例えば、SAP ERPからパブリッククラウド版のSAP S/4HANAへのデータ移行では、マスターデータと残高移行のみに限定されるため、カスタマイズやアドオンのマニュアル実装が不可欠でした。選択的データ移行では、既存のERPにあるデータを取捨選択し、カスタマイズとアドオンのスムーズな移行を実現できます。リユースやリビルドでは満たせない要件に対して柔軟に対応できる点が、選択的データ移行の特徴です。

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SAP S/4HANAへのデータ移行のポイント

SAP ERPからSAP S/4HANAへの移行では、スコープやスケジュール、予算、リソース配分などの要件を確認した上で、詳細な移行プロジェクトを立案・策定しなければなりません。その際に重要な課題となるものが、以下に挙げる2つのポイントです。

業務プロセス改善策の構築

SAP S/4HANAへの移行において、重要視されている考え方のひとつが「Fit to Standard」です。これはERPの導入や移行時に、アドオン開発による機能の追加を最小限に留め、業務プロセスをシステムの標準機能に合わせます。

市場や技術の変化が加速する現代では、ERPのシステム環境を柔軟に変更できない状態は、経営上において多大なリスクを伴います。そこで業務に合わせてERPを設計するのではなく、ERPの標準機能に業務を合わせ、柔軟性と機動力に優れるシステム環境を構築することがFit to Standardの目的です。

また、SAP S/4HANAはSAP社がERPのベストプラクティスを標準化した製品であり、アドオン開発が必ずしもメリットをもたらすとは限りません。コストの増大や開発期間の長期化を招くことはもちろん、機能追加による保守の高難度化や管理負荷の増大、ベンダーロックインのリスク、バージョンアップ時の足かせになるなどの問題が生じることも考えられます。

Fit to Standardのアプローチでは、アドオン開発を可能な限り抑えることで、コストと開発期間の最適化を図り、機能追加によって生じ得るリスクを最小化できます。したがって、SAP S/4HANAへの移行では、現状の業務プロセスを洗い出して言語化・数値化し、標準機能に合わせて改善を図る工程が極めて重要です。

アセスメント(環境調査)の実施

SAP S/4HANAへの移行プロセスそのものは、「既存のERPから目的のデータを抽出して、SAP S/4HANAに組み込む」と要約できます。しかし、そのシンプルな工程には、複雑かつ膨大なフローが内包されています。例えば、業務要件やシステム要件の定義、移行計画の立案・策定、移行対象データの選定、移行に必要なツールやリソースの確保、移行メソッドの選択と検証、移行後のデータの整合性や正確性のチェックなどです。

この移行作業を成功させるためには、既存のERPの機能やモジュール、サーバやネットワークの利用状況、アドオン開発による追加機能の有無、データベースの構造、移行するデータ、セキュリティポリシーなどの運用環境を詳細に調査しなければなりません。この工程を踏まないと移行計画が曖昧になってしまうため、移行を支援するベンダーとの意思疎通に齟齬が生じ、手戻りや本稼働の遅延、追加コストの発生などを招く可能性があります。

SAP S/4HANAへの移行において、アセスメントは非常に重要な課題です。データ移行に必要な環境調査について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。

まとめ

SAP S/4HANAは、2015年に公開された次世代型のERPであり、基幹業務を統合的に管理するシステムです。SAP ERPの標準サポートが2027年に終了するため、多くの企業でSAP S/4HANAへの移行が喫緊の課題となっています。

SAP S/4HANAへの主な移行メソッドは、「リユース」「リビルド」「選択的データ移行」の3種類です。SAP S/4HANAへの移行では、Fit to Standardのアプローチに基づいて業務プロセスの改善を図り、詳細なアセスメントを実施する必要があります。また、SAP S/4HANAへの移行は極めて高度な知見が求められるため、SAP S/4HANA移行支援サービスの活用をおすすめします。

S/4HANAへの移行をご検討中のご担当者様へ

基幹システムの移行は、企業にとって避けては通れない道です。ノウハウのない企業では、しばしば計画が甘くなってしまい、想定外のトラブルによって失敗することも少なくありません。
もしも現在、

  • SAPのS/4HANAへの移行を考えており、進め方の相談に乗ってほしい
  • 2027年問題への対応の進め方がわからない
  • システム移行の必要があるが、社内リソースが足りず困っている
  • 移行に関するノウハウがないが、リスク回避のポイントを押さえたい

などのお困りごとがありましたら、私達リアルテックジャパンへご相談ください。

リアルテックジャパンはSAP製品に精通したエンジニアが多数在籍する、テクノロジーコンサルティングファームです。
2002年の設立後、SAPシステムを導入されている企業、クラウドベンダー、ハードウェアベンダー、コンサルティングファーム等のお客様から高い評価を頂いております。
移行の規模を問わずさまざまなお悩みに対応していますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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