「SAP HEC」はSAPの企業向けクラウドパッケージとして、多くの企業に導入されています。ERPのクラウド化を検討する際は、クラウド化のメリットや事例について事前に知りたいというニーズも多いでしょう。そこで本記事では、SAP HECの概要や基幹システムをクラウド化するメリットについて解説します。
SAP HECとは
「SAP HEC(HANA Enterprise Cloud)」は、SAPシステムの運用に最適化されたPaaS型のクラウドサービスです。SAP HECはSAPシステムの運用設計をはじめ、環境構築からバックアップ、監視、可用性、災害対策に至るまで、一連の工程をSAP社がワンストップでサービス提供します。
SAP HECの価値
SAP HECの最も大きな価値としては、インフラ基盤とSAPアプリケーション基盤の構築・運用を、製品ベンダーであるSAP社が手厚くサポートしてくれる点にあります。AWSのようなIaaS型のクラウドサービスでは通常、インフラ基盤の正常稼動までがサービスの提供範囲です。しかし、この場合、たとえばSAPシステムにログインができないなどのトラブルが発生したとしても、ベンダーのサポート範囲から外れてしまうため、ユーザー企業が自力で対応せねばなりません。
対してSAP HECでは、システムを稼働しユーザーがログインするまでの間、SAP HANAの運用エンジニアが迅速にサポートしてくれるため、企業が抱えるシステム障害対応のリスクを大幅に減らすことが可能です。
また、市場環境の変化が早くなっている現状、SAPシステムのバージョンアップの頻度が上がっていますが、こうしたアップデート作業もSAPスタッフが主導的に行ってくれます。これによりユーザー企業の管理工数が減少し、IT担当者は安心してコア業務に専念できるようになります。
そのほか、HECプラットフォームにてAWSやMicrosoft Azure、GCPなどの主要なパブリッククラウドを利用できるのも大きな魅力といえるでしょう。
基幹システムをクラウド化するメリット
SAP HECの導入により基幹システムをクラウド化することで、企業は一体どのようなメリットを得られるのでしょうか。以下では、クラウド化がもたらす主要なメリットを3つご説明します。
運用コストの削減
基幹システムをクラウド化するメリットのひとつは、さまざまな面で運用コストの削減ができることです。オンプレミス環境で基幹システムを運用する場合、企業は多額の費用を投じて自社専用のデータセンターなどを構築し、継続的に管理運用していかなければなりません。その点、クラウドサービスでは原則的に、システムのハードや基盤部分の構築、継続的運用などについてはベンダー側が負担します。
これによって、ユーザー企業はシステムの運用工数の大幅な削減が可能です。システムの構築・運用・メンテナンスなど、多くの局面で経済的・時間的・人的なリソースを節約できます。とりわけSAP HECのようなPaaS型のクラウドサービスを利用する場合、ユーザー企業はアプリケーションを一から作り直す必要がなくなり、時間とコストを大幅に削減できるでしょう。
また、クラウドサービスは大半の場合、従量課金制が採用されているのもポイントです。オンプレミスなシステム環境では、規模の増設や縮小も気軽には行えません。しかし、従量課金制のクラウドサービスの場合、ユーザー企業はその時々の状況に合わせて、ベンダーとの契約を見直せばよいので、必要な分だけ費用を支払うといった使い方が可能です。
社外から利用可能
クラウド化によって、自社のシステムを社外から利用できるようになるのも大きなメリットです。オンプレミスの場合は、社内PCなどの限られたネットワーク環境からのアクセスしかできません。しかし、クラウド化してインターネット上で利用できるようになれば、社員はインターネット環境のある場所ならどこからでもシステムにアクセスして働けるようになります。
とりわけ近年では、少子高齢化による労働人口不足への懸念から、企業に対して「働き方改革」の推進が求められています。システムのクラウド化は、この働き方改革の一例としても挙げられる、テレワークの導入に役立つでしょう。
テレワークといえば、社員が自宅から業務に臨む「在宅勤務」をまず連想しますが、移動中や外出先にてモバイル端末などからアクセスして働く「モバイルワーク」や、郊外のオフィスなどで業務を行う「サテライトオフィス勤務」などもテレワークに含まれます。こうした場所にとらわれない働き方を可能にするテレワークは、従業員のエンゲージメントを高め、就活市場における自社のアピールポイントにもなるでしょう。
BCP対策
基幹システムをクラウド化することは、事業の安定的持続を可能にするBCP対策にもつながります。インターネット上で自社システムやデータを扱うクラウドシステムは、オンプレミスに比して、データのセキュアな保全に課題があるといわれがちです。しかし、オンプレミスのみでデータの保存などを行っている場合も、それはそれで、いざというときに困った事態になる可能性は否めません。
たとえばクラウドシステムを利用していない企業は、自社の貴重なデータをすべてオフィスのPCやサーバーに置いているため、ローカルハードウェアに故障などの問題が発生した場合、データを永久に失うリスクがあります。地震や火事などの災害をはじめ、ウイルス感染やハードウェアの経年劣化、ユーザーの単純なミスなど、故障原因はさまざまです。
一方、クラウドのサーバーは、自動でバックアップを取得して保管したり、別のデータセンターで起動したりできるようになっています。つまり、クラウドシステムの場合は、災害などで一部のデータセンターが利用できなくなった際も、別のデータセンターにデータを保管しているため復旧が早く、企業の業務停止リスクを抑えられるのです。
また、先述したテレワークも地震や台風、大雪などで交通機関が麻痺した場合のBCP対策として有効です。新型コロナウイルスをはじめとする感染症対策としても役立つことは、近年の状況を鑑みれば語るまでもないでしょう。
基幹システムをクラウド化するデメリット
このように数々のメリットをもつクラウド化ですが、その運用に際しては、いくつかデメリットないし注意点があります。以下のポイントを押さえ、適切な運用を心がけましょう。
月額のランニングコストがかかる
クラウドサービスの利用にあたっては、サービス利用料として月々のランニングコストが発生します。また、基本的なセキュリティ機能はベンダー側が提供しているとはいえ、場合によってはユーザー企業側が独自のセキュリティ対策を講じる必要もあるでしょう。それゆえ、高度なセキュリティ機能や追加機能などをシステムに搭載させることで、さらにランニングコストがかさむことも考えられます。
システムのカスタマイズがしづらい
基幹システムをクラウド化するデメリットとして、システムのカスタマイズがしづらい点も挙げられます。自社で独自の環境を作るオンプレミスの場合、自社の業務に基づいてシステムを自由にカスタマイズできます。しかしクラウドの場合は、すでに出来上がったパッケージを利用することが多く、カスタマイズの自由度が低い傾向にあります。とりわけSaaS型のクラウドサービスでは、完成済みのアプリケーションを使うことになるため、その傾向はより顕著です。
仮にカスタマイズできたとしても、追加の開発費が必要になる場合もあるため、「結局オンプレミス環境を最初から用意すればよかった」ということにならないとも限りません。後々困ることのないよう、柔軟な運用が可能かどうか、事前によく確認することが大切です。
まとめ
基幹システムのクラウド化は、システムの運用コストやIT担当者の業務負担を軽減し、柔軟性のあるシステム運用を可能にします。特にSAP HECにおいては、SAPに精通したITスタッフが導入サポートをしてくれるので、IT担当者は安心して導入できます。
リアルテックジャパン株式会社はSAPシステムの専門家として、SAP S/4 HANAの導入・移行をはじめ、SAP製品に関連したコンサルティングや運用サポートを広く手掛けています。クラウド化やSAP製品の導入において課題を抱えている場合は、ぜひ導入コンサルティングサービスをご検討ください。
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