SAPクラウドソリューション(2021年)

 2021.11.04  リアルテックジャパン株式会社

SAPのクラウドビジネスが今年も好調です。SAPの業績発表(SAPジャパン プレスリリース)によると、2020年度の総売上は、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受けて前年比1%増とほぼ横ばいでしたが、クラウド売上だけを見ると前年比18%増を記録し、今年も引き続き堅調です。一方ソフトウェアライセンス売上は前年比20%減と減少を続けており、SAPは完全にクラウドを主力とした企業にシフトしています。

以前に投稿"SAPクラウドソリューション"で、SAPのクラウドソリューションのサービス概要を説明しましたが、今年もクラウドに関する注目すべきトピックスがありましたので、本稿ではその一部を紹介したいと思います。

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RISE with SAP

SAPは今年1月27日に企業のクラウド移行とビジネス変革を支援する「RISE with SAP」と呼ばれる新サービスを開始しました。

RISE with SAPは、SAPが今まで推進してきたクラウドファーストやクラウドシフト戦略をさらに深化させ、企業のビジネス変革を強力に加速させるサービスの集まりです。企業のビジネスプロセスの再設計、既存アプリケーションのクラウド移行、SAPがビジネス変革として提唱するインテリジェントエンタープライズの実現まで、その一連の取り組みに必要な技術とサービスをオールインワンで提供します。

RISE with SAPには、以下のサービスや製品が含まれています。

インフラ IaaS(SAPデータセンター/パブリッククラウド)
プラットフォーム SAP Business Technology Platform(アプリケーション統合/開発/データ分析)
ネットワーク SAP Business Network Starter Pack(SAP Aribaのサプライチェーンネットワーク)
アプリケーション SAP S/4HANA Cloud(プライベートエディション(*1)/パブリックエディション)

RISE with SAPが登場した背景は、SAPはこれまでビジネス変革を目指す企業に対して、S/4HANA Cloud、SAP Cloud Platform(PaaS)、LoBアプリケーション(SaaS)、プライベートクラウド/マルチクラウド(IaaS)といった様々なサービスや製品を展開してきましたが、多くは新規導入顧客であり、カスタマイズされたSAP ERPやデータを利用する既存顧客への浸透は伸び悩んでいました。各サービスやアプリケーションが複雑で料金体系も分かりにくいことから、SAPは顧客がビジネス変革を実現するための道標として、シンプルな1つのパッケージを展開することにしました。SAPはRISE with SAPを“Business Transformation as a Service”(ビジネス変革を提供するサービス)と提唱し、今後はRISE with SAPによって、既存顧客に向けて、S/4HANA化(ビジネス変革の基盤)/インテリジェントエンタープライズ化(ビジネス変革の実現)を強力に推進していくことが予想されます。

最後に、興味深い点として、SAPがクラウドからビジネス変革へ焦点をシフトしていることです。古くは"HANA"を推し進めていた時代から、それが"クラウド"に代わり、そして現在は"ビジネス変革"をクラウド以上の付加価値として顧客にアピールしています。今回のRISE with SAPに含まれる"SAP Business Technology Platform"が、最初に"SAP HANA Cloud Platform"として登場し、途中で"SAP Cloud Platformに改称され、そして現在は"SAP Business Technology Platform"へブランド名を変更したことでも分かります。このような動きはSAPの事業トレンドを反映しており、今後の展開が注目されます。

*1 SAP S/4HANA Cloud プライベートエディションは、カスタマイズ可能な柔軟性を備えたS/4HANA Cloud Extended Editionとほぼ同じ製品であり、SAP ERPを利用する企業に既存のアドオンやデータをS/4HANAへ移行する際の課題を低減する選択肢を提供します。S/4HANA Cloud Extended Editionの詳細は投稿"SAPクラウドソリューション"を参照ください。

SAPデータコピーツール Data Sync Manager
ServiceNow&TM連携ソリューション資料

Enhanced Maintenance Planner

Maintenance Planner(メンテナンス・プランナー)は、昨年7月に新機能が追加されており、Fioriベースの新しいユーザーインタフェースでリニューアルされています。

SAPMaintenancePlanner

追加された機能は、主にクラウド利用を前提とした以下のものです。

機能 概要
Hybrid Landscape Visualization システムランドスケープの可視化
Product Analytics クエリを使用した製品のランドスケープ分析
Plan for Cloud Integration Scenario Cloud Integration Automation Service(CIAS)を使用したクラウド/ハイブリッドの計画

Maintenance Plannerは、ご存じのように新しいシステムの計画やS/4HAHA移行のような既存システムのメンテナンスには必須のツールであり、以前にSolution Managerで提供されていたMaintenance Optimizer(メンテナンス・オプティマイザー)の後継ツールです。詳細は投稿"Maintenance Planner が GA になりました"をご覧ください。

この新しいMaintenance Planner(Enhanced Maintenance Planner)は、最近まで希望する一部の顧客に対してのみ提供されていたのですが、今年の9月からすべての顧客が自動的に利用できるようになりました。また従来のMaintenance PlannerがSAPのサポートポータルを通じて提供されているのに対して、Enhanced Maintenance Plannerは、AWSのSAP Business Technology Platformのクラウドサービスを通じて提供されるように変わりました。そのため顧客のシステムランドスケープデータがAWSに保有されるようになりますが、セキュリティ等の観点でこれを望まない場合は、従来のMaintenance Plannerに戻すことも可能です(その場合はSAPへ依頼する必要があります)。

Enhanced Maintenance PlannerのURLは、以下のように変更されています。

従来のMaintenance Plannerを呼び出すと、新しい機能に関するポップアップが初回のみ表示され、Enhanced Maintenance Plannerへ遷移できます。また、右上のユーザー名をクリックし、"Switch Interface"で、従来のUIと新しいUIを切り替えることが可能です。

SAPシステムのクラウド利用によって、システムランドスケープが様々なインフラストラクチャで展開され複雑化しています。Maintenance PlannerはStack XMLの生成だけに使用している方が多いかもしれませんが、完全にEnhanced Maintenance Plannerへシフトしていくことが予想されますので、今後は、新しい機能をキャッチアップしていくことが重要となります。

SAP Landscape Management Cloud

SAP Landscape Management Cloud(SAP LaMa Cloud)が、パブリッククラウド上のSAPランドスケープ管理向けに、今年の1月にリリースされています。

SAP LaMaといえば、2013年にランドスケープ管理ツールとして、前身のSAP Landscape Virtualization Management(SAP LVM)としてリリースされ、2017年に名称がSAP Landscape Management(SAP LaMa)に変更され、現在はSAP LaMa 3.0が最新バージョンになります。SAPおよびNon-SAPシステムの起動停止やシステムコピー自動化、またHANAタスクの自動化といったシステム運用を一元管理するための製品です。一方のSAP LaMa Cloudは、ランドスケープ管理のコンセプトは同じですが、主にパブリッククラウド上のIaaSコスト管理に特化したSAP LaMaとは異なる特徴を持っており、SAP Business Technology Platformのアプリケーション(SaaS)として提供される別製品となります。

SAP LaMaとSAP LaMa Cloudの主な違いは以下のとおりです。

  SAP LaMa SAP LaMa Cloud
ライセンス 従来型ライセンス (Standard Edition or Enterprise Edition) 月額サブスクリプション
提供方法 SAP NW 7.5 JAVAのアドオン SAP Business Technology Platformアプリケーション(SaaS)
ランドスケープ オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウド(AWS/Azure/GCP)、ハイブリッド パブリッククラウド(AWS/Azure)
特徴 ハイブリッドSAPランドスケープの管理
起動停止やシステムコピー等のSAPベーシス運用の自動化
SAP HANAおよびSAP S/4HANAの管理の簡素化
カスタマイズ可能(スクリプト作成によるNon-SAP対応など)
クラウドSAPシステムの自動起動/停止によるIaaSコストの削減
サーバの自動スケールイン/アウトによるIaaSコストの効率化
SAP Analytics Cloud機能による使用状況分析によるIaaSコスト分析
IaaSコスト削減額のシミュレーション

SAP LaMa Cloud登場の背景は、SAPシステムのクラウド移行に伴って、IaaSコストの高騰に課題を持つユーザーが増えていることがあげられます。一般的にパブリッククラウド上の運用コストはオンプレミスの運用コストより低くなりますが、期待するほどコスト削減できないケースが見られます。SAP LaMa Cloudを活用することにより、従量制のIaaSコストの潜在的な無駄を排除し、また継続的に使用状況を分析・コントロールすることで、コスト改善を実現していくことが狙いです。IaaSコストの削減方法については、また別の記事で詳しく紹介したいと思います。

最後に、SAP LaMa Cloudのプライスですが、以下によると、1か月あたり2021年11月4日現在およそ40,000円程度です。

参考:https://www.sapstore.com/solutions/80001/SAP-Landscape-Management-Cloud

無料版(Try Free)も提供されているため、SAP LaMa Cloudについて興味のある方は実際に使用されることをお勧めします。またSAP LaMaは、Standard Editionが機能は限定されますが無料であるため(1つ以上のアクティブなSAPアプリケーションライセンスを持つことが条件)、こちらはインストールする手間は掛かりますが、お試しで導入されるのもよいと思います。

最後に

SAPのクラウドソリューションは今後も新しいテクノロジーの発展とともに進化していくことが予想されます。新しいサービスや製品、新しい変化を俊敏に感じ取り、現場のビジネスへ取り込むアジリティが求められていきます。SAPの幅広い経験と知見を持つパートナーとして、ぜひリアルテックジャパンにご相談ください。リアルテックジャパンでは、お客様にとって最適なクラウド活用をご支援します。


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