
オンプレミスからクラウドへの移行は、企業のDX推進において不可欠です。クラウド移行を成功させる結論は、現状分析に基づく綿密な計画策定と、AWSやMicrosoft Azureなどの適切な環境選定にあります。
本記事では、システムの可視化から運用自動化までを網羅的に解説します。お読みいただくことで、安全かつ効率的なクラウドシフトを実現するための具体的な道筋が明確になります。
この記事で分かること
- クラウド移行が求められる背景と目的
- 失敗しないための具体的な移行手順
- 移行戦略の立案とテスト検証の方法
- 移行後のコスト管理と運用最適化
- セキュリティなど移行時の注意点と課題
クラウド移行が求められる背景と目的
近年、多くの企業がオンプレミス環境からクラウド環境への移行を進めています。その背景には、単なるITインフラの刷新にとどまらず、企業全体のビジネスモデルを変革し、市場競争力を高めるという明確な目的があります。特に、SAPをはじめとする主要な基幹システムにおいても、クラウドを主力としたサービスへのシフトが鮮明になっています。
クラウドシフトによるビジネス変革の重要性
クラウド移行の最大の目的は、最新のデジタルテクノロジーを活用してビジネス変革(DX:デジタルトランスフォーメーション)を実現することにあります。従来のオンプレミス環境では、システムの維持・保守に多くのリソースが割かれ、新たなビジネス要件に対する柔軟な対応が困難でした。しかし、クラウド環境へ移行することで、最新のテクノロジーを迅速に取り入れ、市場の変化に俊敏に対応するアジリティを獲得することが可能になります。
たとえば、企業のクラウド移行とビジネス変革を支援する包括的なサービスとして「RISE with SAP」が提供されています。これは、クラウドファースト戦略をさらに深化させ、企業のビジネス変革を強力に加速させるものです。ビジネスプロセスの再設計から既存アプリケーションのクラウド移行、そしてインテリジェントエンタープライズの実現までの一連の取り組みをオールインワンで提供し、顧客のビジネス変革を支援しています。
このようなクラウドシフトによるビジネス変革を推進する上で、クラウドサービスは単なるインフラの代替ではなく、総務省の令和4年版情報通信白書でも指摘されているように、データ駆動型ビジネスを進めるための重要な基盤として位置づけられています。クラウドを活用して実現できるビジネス変革の具体例は、以下のとおりです。
- ビジネスプロセスの再設計と最適化
- 既存アプリケーションの迅速なクラウド移行
- インテリジェントエンタープライズの実現に向けたデータ活用
運用コストの削減と効率化
クラウド移行が求められるもう1つの大きな背景は、運用コストの削減とITリソースの効率化です。オンプレミス環境では、ハードウェアの調達から保守、システムの運用管理に至るまで多大なコストと人的リソースが必要でした。クラウドへ移行することで、これらの物理的なインフラ管理から解放され、より戦略的なIT投資へとリソースを振り分けることができます。
クラウド環境における運用効率化とコスト削減のポイントは、下表のとおりです。
| 目的 | クラウド移行による効果と具体例 |
|---|---|
| インフラコストの最適化 | 従量課金制による不要なリソースの削減。パブリッククラウド上のIaaSコスト管理ツール(SAP Landscape Management Cloudなど)を活用した、サーバの自動起動・停止や自動スケールイン・アウトによるコスト効率化。 |
| システム運用管理の効率化 | システムの起動停止やシステムコピー自動化など、定型的な運用タスクの自動化。SaaS型アプリケーションの導入による、ソフトウェアのアップデートやパッチ適用の自動化。 |
| システムランドスケープの可視化 | クラウド利用を前提としたメンテナンス計画ツール(Enhanced Maintenance Plannerなど)を用いた、複雑化するハイブリッド環境やマルチクラウド環境の統合的な可視化と分析。 |
一般的にパブリッククラウド上の運用コストはオンプレミスの運用コストより低くなりますが、期待するほどコスト削減できないケースも見られます。そのため、従量制のIaaSコストの潜在的な無駄を排除し、継続的に使用状況を分析・コントロールすることが重要です。クラウドの利点を最大限に引き出すためには、単にシステムを移行するだけでなく、クラウドの特性に合わせた運用プロセスの最適化が不可欠となります。
クラウド移行の具体的な手順
移行計画の策定と現状分析
システム環境の可視化
既存のシステム環境を正確に把握し、可視化することがクラウド移行の第一歩です。特に基幹システムを利用している場合、システムランドスケープが複雑化していることが多く、正確な現状分析が欠かせません。
たとえば、「Enhanced Maintenance Planner」を活用することで、ハイブリッドランドスケープの可視化や、クラウド利用を前提とした計画の策定が可能です。
- システムランドスケープの可視化
- クエリを使用した製品のランドスケープ分析
- クラウドやハイブリッド環境の計画策定
このようなツールを用いて、現状のシステム構成や依存関係を洗い出し、移行に向けた正確な現状把握を行います。
クラウド環境の選定と評価
次に、移行先となるクラウド環境を選定します。IaaS、PaaS、SaaSのどれを利用するか、またパブリッククラウド(AWS、Azure、Google Cloudなど)やプライベートクラウドのどれが自社の要件に合致するかを評価します。
セキュリティ要件やパフォーマンス要件、将来の拡張性を考慮し、自社のビジネスモデルに最適なクラウド環境を選択することが重要です。
移行戦略の立案
パッケージ化された移行支援サービスの活用
クラウド移行を成功させるためには、包括的な移行戦略の立案が必要です。この際、パッケージ化された移行支援サービスを活用することで、移行の確実性を高めることができます。
たとえば、SAPが提供する「RISE with SAP」は、企業のクラウド移行とビジネス変革を支援するオールインワンのパッケージサービスです。このサービスには、下表のとおりの要素が含まれています。
| カテゴリ | 提供内容の例 |
|---|---|
| インフラ | IaaS(SAPデータセンター、またはパブリッククラウド) |
| プラットフォーム | SAP Business Technology Platform(アプリケーション統合、開発、データ分析) |
| ネットワーク | SAP Business Network(サプライチェーンネットワーク) |
| アプリケーション | SAP S/4HANA Cloud |
このようなサービスを利用することで、既存システムのクラウド移行から、インテリジェントエンタープライズの実現までをスムーズに進めることが可能です。
テスト環境での検証と移行の実行
移行戦略が固まったら、本番環境への影響を最小限に抑えるため、まずはテスト環境での検証を行います。
テスト環境でデータの整合性やシステムの動作確認を行い、問題がないことを確認したうえで、段階的または一括で本番環境の移行を実行します。移行中は、予期せぬトラブルに備えてロールバックの計画も準備しておくことが求められます。
移行後の運用と最適化
コスト管理と継続的な改善
クラウド移行後は、従量課金制となるため、コスト管理と継続的な改善が不可欠です。一般的にパブリッククラウド上の運用コストはオンプレミスより低くなりますが、期待したほどコストが削減できないケースも見られます。
そのため、リソースの使用状況を定期的に分析し、無駄を排除する必要があります。「SAP Landscape Management Cloud」などの管理ツールを活用することで、パブリッククラウド上のIaaSコストを分析し、潜在的な無駄を可視化することが可能です。
運用自動化ツールの活用
運用コストの削減と効率化を図るために、運用自動化ツールの活用も検討します。システムの自動起動や停止、サーバーの自動スケールイン・スケールアウトなどを設定することで、運用負荷を大幅に軽減できます。
- クラウドシステムの自動起動・停止によるIaaSコストの削減
- サーバーの自動スケールイン・アウトによるリソースの最適化
- 使用状況分析に基づく継続的なコスト改善
このように、クラウド移行は単なるシステムの移動ではなく、移行後の運用最適化までを見据えた計画を立てることが、ビジネス変革を成功に導く鍵となります。
クラウド移行における注意点と課題
クラウド移行は多くのメリットをもたらしますが、同時にいくつかの注意点と課題も存在します。特に、既存のオンプレミス環境からクラウド環境へ移行する際には、事前にリスクを把握し、適切な対策を講じることが重要です。ここでは、クラウド移行において直面しやすい主な課題について解説します。
セキュリティとガバナンスの確保
クラウド環境へ移行する際、最も懸念される課題の1つがセキュリティとガバナンスの確保です。システムやデータが社外のデータセンターやパブリッククラウド上に保有されるようになるため、従来型の境界防御だけでは十分な安全性を担保できません。サイバー攻撃や情報漏えいのリスクに対して、クラウドに適したセキュリティ対策を再構築することが不可欠です。
また、セキュリティ要件の厳しい企業では、システムランドスケープデータがパブリッククラウド上に保有されること自体を望まないケースもあります。そのため、自社のセキュリティポリシーに準拠したクラウドサービスを選定し、適切なアクセス制御やデータの暗号化を実施する必要があります。
総務省が公表しているクラウドサービスを利用する際の情報セキュリティ対策など、公的な指針を参考にしながら、自社のガバナンス体制を強化することが推奨されます。
クラウド移行におけるセキュリティ対策のポイントは、下表のとおりです。
| 対策項目 | 概要と具体的な取り組み |
|---|---|
| アクセス制御の強化 | 多要素認証の導入や、最小権限の原則に基づいたアクセス権の付与を行います。 |
| データの暗号化 | 通信経路および保存データの暗号化を実施し、情報漏えいを防ぎます。 |
| ログの監視と監査 | システムの操作ログを継続的に監視し、不正アクセスを早期に検知する仕組みを構築します。 |
複雑化するシステムの統合管理
クラウド移行が進むにつれて、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドが混在するハイブリッド環境や、複数のクラウドサービスを組み合わせたマルチクラウド環境が一般的になっています。これにより、システムランドスケープが様々なインフラストラクチャで展開され複雑化するという課題が生じています。
例えば、基幹システムとしてSAP S/4HANAなどを利用している企業がクラウドへ移行する場合、既存のアドオンやデータを新しい環境へ移行する際の課題を低減する選択肢を慎重に検討する必要があります。システムが複雑化すると、運用管理の負担が増大し、パブリッククラウド上の運用コストはオンプレミスの運用コストより低くなると期待していても、実際には期待するほどコスト削減できないケースが見られます。
このような複雑化したシステムを効率的に運用するためには、システム運用を一元管理するための仕組みが求められます。複雑化するシステムの統合管理において留意すべき点は以下のとおりです。
- オンプレミスとクラウドを統合的に監視できるツールの導入
- システム起動停止やシステムコピーなどの運用業務の自動化
- 従量制のクラウドインフラストラクチャコストの継続的な分析と最適化
- 各システム間のデータ連携と統合プロセスの標準化
システムのクラウド利用によって複雑化する運用課題を解決するためには、ランドスケープ全体を俯瞰し、一元的に管理できる体制を整えることが、ビジネス変革を成功させるための重要な鍵となります。
クラウド 移行 手順に関するよくある質問
移行期間はどのくらいかかりますか?
システムの規模によりますが、一般的に数ヶ月から1年程度かかります。
初期費用はいくらですか?
既存環境により大きく変動するため、事前の詳細な見積もりが必須です。
移行中の業務停止は防げますか?
段階的な移行や並行稼働により、業務への影響を最小限に抑えられます。
オンプレミスとの併用は可能ですか?
ハイブリッドクラウド環境を構築することで併用が可能です。
移行後のセキュリティ対策はどうすればよいですか?
提供される機能に加え、自社要件に合わせた独自の対策が必要です。
まとめ
クラウド移行を成功させるには、現状分析から移行計画、テスト検証、移行後の最適化まで、段階的な手順を踏むことが重要です。また、移行後の運用コスト管理やセキュリティの確保も欠かせません。当社はSAPのスペシャリストとして、豊富な知見と実績をもとに、最適なソリューションをご提案します。SAPに関するご相談やお見積りのご依頼は、ぜひお気軽にリアルテックジャパンにお問い合わせください。
【本記事の監修体制について】
執筆:Professional Service 部
監修:リアルテックジャパン株式会社 SAPソリューション事業
この記事は、SAP導入プロジェクトの豊富な経験を持つ当社の専門部門が内容を精査し、 以下の最終承認プロセスを経て公開しています。
最終監修責任者:リアルテックジャパン株式会社 代表取締役社長 松浦 一哉
企業の代表として、お客様の課題解決に繋がる有益で正確な情報発信に責任を持って取り組んでまいります。
- カテゴリ: SAP情報
- キーワード:クラウド ERP



