SAP S/4HANAの選択的データ移行

 2020.09.03  リアルテックジャパン株式会社

昨今、次世代ERP製品と言われるSAP S/4HANAの移行を本格的に検討を進める企業が増えてきています。しかし、SAP S/4HANAの移行には多くの困難があると言われており、移行に伴うダウンタイムの延伸やコストの肥大化など、解決すべき問題が付きまといます。SAP S/4HANAの移行には十分な準備期間が必要であり、企業ごとに最適な移行方法を評価し決定していくことが重要です品と言われるSAP S/4HANAの移行を本格的に検討を進める企業が増えてきています。しかし、SAP S/4HANAの移行には多くの困難があると言われており、移行に伴うダウンタイムの延伸やコストの肥大化など、解決すべき問題が付きまといます。SAP S/4HANAの移行には十分な準備期間が必要であり、企業ごとに最適な移行方法を評価し決定していくことが重要です。

本稿では、そのような多くの問題に対するアプローチとして期待される、データ選択に焦点をあてたS/4HANA移行について解説します。

SAP S/4HANAの移行ルート

SAP S/4HANAへ移行する際の選択肢としては、大きく分けて「リユース(Reusing)」と「リエンジニアリング(Re-engineering)」のルートがあります。

「リユース(Reusing)」は現行SAPシステムをS/4HANAへ変換する方法となり、従来のERP(R/3)のアップグレードに近いイメージです。ブラウンフィールドアプローチとも呼ばれます。現行のデータや設定を最大限に再利用しますが、S/4HANAではデータ構造に根本的な変更があり、またデータベースはHANAで実行する必要があるため、SAPはシステム変換(System Conversion)と呼んでいます。このルートでは実際のデータ移行(物理的な抽出)は必要ありませんが、代わりに技術的なデータ移行(データ構造の変換)が実施されます。

「リエンジニアリング(Re-engineering)」はS/4HANAを新規導入して、ビジネスやプロセスの再設計や簡素化を実施する方法となり、SAPの初期実装や作り直しに近いイメージです。グリーンフィールドアプローチとも呼ばれます。業務をSAPの標準ベストプラクティスに合わせることを目標としていますので、SAPは新しい実装(New Implementation)と呼んでいます。このルートでは現行のデータや設定は基本的に持って行かず、最小限のデータ(マスターデータなど)を移行します。

この「リユース(Reusing)」と「リエンジニアリング(Re-engineering)」の再利用と再設計のバランスをうまく取った第三のルートがあります。現行のデータを選択的に再利用しながら一部のプロセスを再設計するようなイメージです。このルートについて、以前、SAPはランドスケープ変換(Landscape transformation)と呼んでいましたが、現在は選択的データ移行(Selective Data Transition)と名称を変更しています。

s4hana_route_01

次項では、この選択的データ移行(Selective Data Transition)についてご説明します。

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選択的データ移行(Selective Data Transition)

企業が選択的データ移行(Selective Data Transition)を選ぶ理由には、再利用と再設計のそれぞれが抱える問題を解決したいという、以下のようなニーズがあります。

  • 全部を再設計するにはコストが高い、また全部を再利用するとS/4HANAの新しい価値を十分に得られない、そのため一部を再利用しながら他の領域だけ再設計したい(たとえば、現行のロジスティクス業務は可能な限り再利用して、財務はS/4HANA上で再設計する)
  • ビックバン的な一括切り替えはリスクが高いので、段階的に切り替えたい(たとえば、国や事業単位ごとに順番にS/4HANAへ移行する)
  • 大量の古いデータを排除して、移行におけるダウンタイムを極力短縮したい(たとえば、法的、監査的に必要な2年分を移行し、残りは現行システムやデータウェアハウスでレポートする)
  • 不適切なデータがあればコンプライアンス上のリスクがあるため排除したい(たとえば、複数領域で重複するようなデータや不正確なエラーデータを移行せず削除する)
  • 複数の会社や組織を分割または統合したい

そのため、選択的データ移行(Selective Data Transition)では、企業のビジネス要件とデータ戦略に基づく意図的なデータ選択が非常に重要となります。具体的には、S/4HANAで必要/不要なデータの選択、必要なデータの移行方法(変換やクレンジング)、不要なデータの管理方法などを決定していきます。

しかしながら、SAPの複雑なデータ構造から必要なデータを漏れなく抽出し、S/4HANAに合わせるのは容易ではありません。そのため、SAPが提供するツールを活用していきます。

選択的データ移行(Selective Data Transition)では、以下のツールを主に利用します。

  • SAP Data Services
  • SAP Data Management and Landscape Transformation
  • SAP S/4 HANA Migration Cockpit / Migration Object Modeler
  • SAP Agile Data Preparation

各ツールにはそれぞれ特徴があり、対象データの種類や範囲、またS/4HANAがクラウドかオンプレミス版かなど、状況によって使い分けが必要となります。たとえば、SAP Data Servicesには優れたデータ品質検証(データのバリデーション)がありますが、別途ライセンスの購入やインストールの手間が掛かります。

今回は、S/4HANAシステムに組み込まれており、直ぐに利用可能なSAP S/4HANA Migration Cockpitについてご説明します。

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SAP S/4HANA Migration Cockpit

SAP S/4HANA Migration Cockpitは、S/4HANAシステムに組み込まれており、追加のライセンスやセットアップが必要なく、SAPまたは非SAPシステムからSAP S/4HANAへのデータ移行を支援します。S/4HANAのオンプレミスとクラウド版の2種類があり、機能や手順が異なります。たとえば、オンプレミス版はトランザクションLTMCを使用して開始し、クラウド版はFioriアプリケーションから実行します。

移行方法

SAP S/4HANA Migration Cockpitでは、「ファイル」、「ステージング」、「直接」の3種類の移行方法が提供されています。

s4hana_migration_cockpit_01

ファイルは、エクセルのスプレッドシート(XML)に移行データ情報を入力して移行します。ステージングは、現行システムから中間テーブルへデータを抽出し、ステージング領域でデータ変換を実行してS/4HANAシステムへロードします。直接は、S/4HANAの最新版(1909)で利用可能な方法となり、現行システムはSAPに制限されますが、SAPシステムから直接データ移行ができます。

移行オブジェクト

SAP S/4HANA Migration Cockpitでは、移行可能なデータを移行オブジェクトとして提供しています。たとえば、銀行マスタ(Bank)や購買発注(Purchase Order)など全部で100種類以上あります。このオブジェクトには関連するソース構造とターゲット構造、およびこれらの構造間の関係に関する情報が含まれており、このオブジェクトのルールや規則に従ってデータ移行が実施されます。移行オブジェクトの内容はS/4HANAのバージョンごとに異なり、またオンプレミスとクラウド版でも異なります。オンプレス(1909)版の移行オブジェクトは以下から確認できます。

Available Migration Objects(SAP S/4HANA 1909版)

移行手順

SAP S/4HANA Migration Cockpitにおける移行の手順は概ね以下のような流れです。

  1. プロジェクト設定
  2. 移行オブジェクトの設定
  3. データの検証(依存関係や前提条件のチェック)
  4. データの転送(値の変換、シュミレーション、本実行)

転送する前に全ての移行オブジェクトの依存関係や前提条件をチェックするため、S/4HANAシステムにとって不整合なデータをエラーとし排除できます。たとえば、購買発注データを転送するには、総勘定元帳(G/L)勘定や原価センタ、品目マスタなどが事前に存在することが必要です。

SAP S/4HANA Migration Object Modeler

提供された移行オブジェクトでデータ要件を満たしていない(項目が足りないなど)、またオブジェクト自体がまだ提供されていないために、SAP S/4HANA Migration Cockpitでデータを移行できないケースがあります。SAP S/4HANA Migration Object Modelerでは、元のオブジェクトをコピーして新しい移行オブジェクト(カスタムオブジェクト)を作成することができます。トランザクションLTMOMから開始します。必要に応じてSAP S/4HANA Migration Object Modelerを組み合わせることで柔軟にデータを移行することができるようになります。

SAP S/4HANA Migration Cockpitは、新しいバージョンごとに機能や移行可能なデータ範囲を拡大しています。移行オブジェクトの種類もバージョンごとに増やしており、SAP S/4HANAへの移行戦略において、より欠かせないツールになっていくことが予想されます。

リアルテックジャパンにご支援できること

SAP S/4HANAの「再利用」と「再設計」の極端に異なる移行ルートではなかなかシステム刷新に踏み切れない企業にとって、選択的データ移行(Selective Data Transition)はより優れた移行の選択肢となります。リアルテックジャパンでは、SAP S/4HANAの導入コンサルティング、移行アセスメントサービス、検証構築サービスをご提供しており、お客様に最適な移行計画をご支援します。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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