【SAP HANAが10周年】HANA 1.0サポート終了まで1年を切るため、HANA 2.0の移行を考える

 2020.10.22  リアルテックジャパン

SAP HANAが2011年に登場してから、10年が経ちました。HANAはSAPアプリケーションで使用されるDB基盤から分析・レポーティングなどのデータ活用基盤まで幅広い役割を担うプラットフォームとして、今では多くの企業が利用しています。

現在1.0と2.0の2つのバージョンが並行で提供されていますが、旧バージョンの1.0が2021年6月にサポート終了のため、継続あるいは2.0へアップグレードする必要があります。本稿では、HANA 1.0から2.0へ移行を計画されているお客様、2.0の新機能を活用したいお客様に対して、HANAの移行に関するポイントと2.0で強化された主要な機能についてご紹介します。

SAP HANAサポート方針

SAP HANAのサポート方針について、簡単におさらいしたいと思います。HANA 1.0では年2回のサイクル(通常12月と6月)で新しい機能追加を伴うSPS(サポートパッケージスタック)をリリースし、サポート対象は最新SPSの1つ前のSPSまでとなり、サポート期間は短く設定されていました。HANA 1.0の最終バージョンは2016年5月にリリースされたSPS12となり、最終SPSは5年間の長期サポートの対象となるため、2021年6月に終了する予定です(2021年5月までが1ヶ月延長されました)。そのSPS12は既に新しい機能追加は終了しバグ修正のパッチ提供のみの長期保守期間に入っており、既存アプリケーションの安定稼働バージョンとして利用されています。

一方、SAP HANA 2.0は最新テクノロジーや新しい機能追加の役割を1.0から引き継ぐ形で、2016年11月に並行リリースされました。HANA 2.0では年1回のサイクル(通常Q2)でSPSをリリースし、SPSのサポート期間は2年(SPS02以降)とし、HANA 1.0より余裕のあるサポート方針としています。HANA 2.0の現在の最新SPSは、今年6月にリリースされたSPS05です。SPS05は5年間の長期サポートが約束されており、2025年6月までサポートされる予定です。しかしSPS05はHANA 2.0の最後のSPSと決定していません(これまで通りなら来年SPS06がリリースされる予定です)。ERPのサポート期限が2025年から2027年に延長されたようにサポートのタイムラインを長くする流れと推測しています。また1つ前のSPS04のサポート期限が2ヶ月延長されてSPS12と同様の2021年6月に変更されました。これらの動きはHANA 1.0を使用する企業にHANA 2.0へ移行する準備期間を提供していると見られます。

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SAP HANA 1.0から2.0のアップグレード

SAP HANA 2.0は上位互換性があるため、通常のリビジョン更新と同じ要領で1.0から2.0へアップグレードすることが可能です。但し、1.0から2.0へアップグレードする際に次のような点について考慮する必要があります。

アプリケーション/ハードウェア/OS要件

HANAデータベースを実行するハードウェアやハイパーバイザやOS、またHANAデータベースで実行されるアプリケーションがHANA2.0をサポートしているか確認します。ハードウェアはSAP HANA hardware directory、OSはSAPノート2235581、SAPアプリケーションはSAP Product Availability Matrixより確認できます。Intelマシンは、Intel Haswell CPU以上(最新の世代)が推奨です。IBM Powerマシンは、HANA 2.0がビッグエンディアン(BE)アーキテクチャをサポートしないためリトルエンディアン(LE)へ移行する必要があります。必要に応じてアップグレードの前にOSをアップグレードする必要があります。

マルチテナントデータベース

HANA 1.0 SP09より導入されたMDC(マルチテナントデータベースコンテナ)のオプションですが、HANA 2.0からは唯一の構成モードです。そのため既存のHANAがSDC(シングルテナントデータベースコンテナ)の場合は、マルチテナントデータベースに変換する必要があります。

この変換はアップグレード中に自動的に実行され、使用ポートなどが引き継がれるのでアプリケーションに大きな影響はありませんが、システムDBとテナントDBと分けられるため、監視やバックアップ運用で影響が生じる可能性があります。(例えばシステムDBのバックアップや監視の追加、バックアップScriptのテナントDBへの明示的な接続変更など)

HANAバージョン互換性

HANA 2.0へ直接アップグレードが可能なのはHANA 1.0 SPS10以上です。そのためHANA SPS09以下の場合は、まずHANA SPS10以上へ更新する必要があります。

但し、HANA 1.0 SPS10と11は2.0へのアップグレード制限がいくつかあり、実質SPS12を経由した2段階アップグレードとなります。詳しいアップグレード手順は、SAPノート2372809より確認できます。

さらにHANA 1.0 SPS12からアップグレードする場合、特定のメンテナンスリビジョン(パッチ提供のリビジョン)に関する制限に注意する必要があります。詳細はSAPノート1948334より確認ができます。(例えばHANA 1.0 SPS12の最新パッチへ更新後、HANA 2.0 SPSXXの最新より古いリビジョンへアップグレードが出来ない場合があります)

HANA永続性フォーマット互換性

HANAのメタデータや列ストアテーブルの永続性フォーマットがHANA2.0で変更されたため、必要に応じてアップグレードの前に新しいフォーマットに移行する必要があります。確認方法や移行方法の詳細は、SAPノート2372809より確認できます。

SAP HANA eXtended Application Services(XS) Advancedへの移行

HANAには独自の組み込みアプリケーションサーバー(XSC)が付属されており、HANA 1.0 SPS11よりXS Advanced(XSA)と呼ばれる新しいアプリケーションサーバーが並行で提供されています。

HANA 2.0以降、まだ両方のアプリケーションサーバーが含まれていますが、XSAがデフォルトのアプリケーションサーバーとなっています。

将来的に古いXSCの機能廃止・サポート終了が予定されているため、XSCモデルで開発したオブジェクトは必要に応じてXSAモデルへ移行する必要があります。

変換方法の詳細は、SAPノート2465027と移行手順(SAP HANA XS Advanced Migration Guide)より確認できます。

SAP HANA Cockpit 2.0への移行

HANAの管理や開発で使用されてきたSAP HANA Studioは、既にHANA 1.0 SPS12で開発が終了しており、HANA 2.0でも引き続き利用可能ですが新しい機能には対応していません。

CockpitはHANA 1.0 SPS09より提供されたHANAのWebベースの管理ツール(ブラウザ利用)であり、HANAクラウド環境で使用されるツールでもあるため、今後はStudioの後継として利用が推奨されます。

CockpitはSAP HANA Expressエデータベースと共にLinuxサーバ上にインストールするのが通常でしたが、Cockpit 2.0 SP07より、既存のHANAシステムのテナントデータベースとしてインストールすることが可能です。

SAP Web IDE for HANA(またはBusiness Application Studio)への移行

HANA開発やモデリングにSAP HANA StudioまたはHANA Web Workbench(Webベース)を利用している場合、両ツールはXSCベースの開発のみで使用できます。

XSAアーキテクチャの導入で、新しい開発ツールとしてSAP Web IDE for HANAツールが導入されています。XSAとCockpit 2.0への移行と合わせて、開発ツールをSAP Web IDE for HANAへ移行することが推奨されます。

また今年に最新の開発ツールとしてBusiness Application Studioが提供されました。クラウドプラットフォーム上の最新ツールもBusiness Application Studioへ統一されるため、最終的にBusiness Application Studioへ移行することを検討します。

EPM-MDSプラグインのインストール

HANA 1.0では、SAP BusinessObjectsなどのBIアプリケーションからHANAモデルに対してHTTP(S)接続する際に必要となるコンポーネント(InformationAccess(InA)またはMultiDimensional Services(MDS))が付属されていました。

HANA 2.0では個別のHANAプラグイン(EPM-MDS プラグイン)として提供されるようになったため、必要に応じてSAP HANA EPM-MDSコンポーネントをインストールする必要があります。インストールの詳細は、SAPノート2456225より確認できます。

バックアップリストア方式

HANA 1.0のバックアップを使用して、直接HANA 2.0へリストアすることが可能です。1.0のバックアップはSDC(≧SPS10)でもテナントデータベースでも問題ありません(SAPノート2653155)。

但し、上述のHANAバージョン互換性や永続性フォーマット互換性について事前に対応を実施してからバックアップを取得する必要があります。ハードウェアの移行やSAPシステムのマイグレーション・バージョンアップなどと一緒にHANAを2.0へ移行するケースでは、当手法が選択肢になります。

Solution Managerの変更

既存HANA1.0環境をSolution Managerで監視しており、2.0へアップグレード後も引き続き監視する場合は、Solution Managerに変更を加える必要があります。変更の詳細は、SAPノート2403493より確認できます。

テスト

HANA 2.0は上位互換性があるため、HANAをアップグレードしても利用可能な機能が損なわれることはありませんが、いくつかのアーキテクチャとコンポーネントの変更により動作に影響を与える場合があります。HANAの動作に影響を与える変更については、SAPノート2679360より確認できます。

参考サイト(一部のリンク先閲覧のためには、SAP社Marketplace IDが必要です):
SAP HANA hardware directory
SAP Product Availability Matrix
SAP Note.2235581 - SAP HANA: Supported Operating Systems
SAP Note.2399995 - Hardware requirement for SAP HANA 2.0
SAP Note.2554012 - FAQ: SAP HANA Big Endian to Little Endian Migration for IBM Power
SAP Note.2372809 - Mandatory Preparation Steps for Upgrading a SAP HANA 1 System to SAP HANA 2
SAP Note.1948334 - SAP HANA Database Update Paths for SAP HANA Maintenance Revisions
SAP Note.2465027 - Deprecation of SAP HANA extended application services, classic model and SAP HANA Repository
SAP HANA XS Advanced Migration Guide(HANA 2.0 SPS05)
SAP Note.2456225 - Installation and update of the SAP HANA EPM-MDS component
SAP Note.2653155 - Using backup and recovery to upgrade HANA 1.0 to HANA 2.0
SAP Note.2403493 - Solution Manager: Enabling the Monitoring of HANA 2.0
SAP Note.2679360 - Central Note for Behavioral Changes in SAP HANA

 

SAP HANA 2.0の強化機能

HANA 2.0では新しい機能や強化された機能がたくさんあります。それらの機能から主要なもの(一部)をご紹介したいと思います。

高速再起動オプション

HANA 2.0 SPS04より高速再起動という新しいオプションが提供されました。HANAはインメモリDBによる高速処理を実現していますが、DB再起動時にデータをディスクからメモリに再ロードするのに時間を要します(データ量に依存)。HANA 1.0では行ストア(Rowテーブル)のメモリ保持の仕組みはありましたが、この高速再起動オプションはOS機能(tmpfs)の仕組みを利用して列ストア(Columnテーブル)を再起動中にメモリに保持できるようになります。HANAデータのほとんどは列ストアにありますので、HANAのメンテナンス時の再起動時間を高速化することができるようになります。

永続メモリ(Persistent Memory)

HANA 2.0 SPS03よりインテルの不揮発性メモリ(Intel Optane DC persistent memory)に対応しました。HANAのデータの一部を不揮発性メモリに配置することで、HANAやOSの再起動、さらにサーバダウン時でもメモリ上のデータが失われず高速にDBを再起動できるようになります。この不揮発性メモリはハードウェア対応となるため調達コストやサイズ設定が必要となり、また通常の動作パフォーマンスに影響を与える可能性もあるため、導入には慎重な計画が必要となります。

ネイティブストレージ拡張(Native Storage Extension)

HANA 2.0 SPS04よりSAP HANA Native Storage Extension(NSE)というインメモリのディスクベース拡張機能が提供されました。ホットデータは高速処理のために完全にメモリ内に常駐し、アクセス頻度の低いウォームデータの一部はメモリ(バッファキャッシュ)にあり一部はディスクに保持する仕組みです。HANAはインメモリデータベースのサイズが大きくなればライセンス費用が増加します。HANA 1.0ではDynamic Tiering(動的階層化)による同様の仕組みを提供していましたが、追加のライセンスやセットアップが必要でした。NSEはネイティブとあるとおり、HANAの標準機能によってインメモリデータベースのサイズを削減して費用を抑えながらデータ容量を増やすことができるようになります。さらにSPS05よりスケールアウト環境もサポートとなりました。

※S/4HANAはNSEをサポートしています

システムレプリケーション - アクティブ/アクティブ(読み取り専用) と マルチターゲット

HANA 2.0 SPS01よりシステムレプリケーションのセカンダリシステムを読み込み専用のデータベースとしてクライアントからのクエリを処理できるようになりました。HANA 1.0ではセカンダリは完全な待機システムとして利用できず、一方でハードウェア等の費用は必要でした。このアクティブ/アクティブ(読み取り専用)ではシステム全体でリソースを有効に利用することが可能となります。またHANA 1.0では多層システムレプリケーション(A->B->C)はありましたが、HANA 2.0 SPS03よりプライマリから複数のセカンダリにレプリケートするマルチターゲットレプリケーション(A->B、A->C)の機能が追加されました。アクティブ/アクティブ(読み取り専用)とマルチターゲットを組み合わせることにより、本番データのコピーを複数の場所(BとC)に配置して読み取り処理を分散させて、システム全体のパフォーマンスと可用性を同時に高めることができます。

※S/4HANAはアクティブ/アクティブ(読み取り専用)をサポートしています

セキュリティ - データマスキング と 暗号化

HANA2.0 SPS01よりデータマスキング(ビューレベル)のセキュリティ機能が提供され、HANA2.0 SPS03ではテーブルレベルでデータをマスクできるようになりました。データマスキングは基になる保存されたデータは変更せず、権限のないユーザに対してデータが部分的にしか表示されないようにする第2の保護レイヤーの仕組みです。例えば、管理者は従業員のデータにアクセスできる権限を持ちますが、クレジットカードなどの機密データを見れないようにマスクされた値(###など)を表示させます。暗号化機能は、HANA1.0でデータの暗号化は可能でしたが、HANA 2.0 SPS00でログデータの暗号化、SPS01でバックアップデータの暗号化ができるようになりました。最新のSPS05では、データとログボリュームの暗号化をテナントデータベース作成時に有効化することが可能となりました(これまではデータベース作成後に有効化が必要)。

ハードウェアおよびクラウド測定ツール(HCMT)

HANA 1.0では、HANAを実行するハードウェアがSAPによって定義されたパフォーマンス要件に準拠しているか測定するツールとして、HANAハードウェア構成チェックツール(HWCCT)を提供していました。このHWCCTは2019年にサポートを終了しており、現在HANA 2.0で使用できる後継ツールは、HANAハードウェアおよびクラウド測定ツール(HCMT)です。主な変更点は、サーバへのインストールが必要(以前はメディア解凍のみ)、CPUベンチマークテストの追加、測定結果をSAP HANA Hardware and Cloud Measurement Analysisにアップロードしてブラウザより分析を行います(以前はテキストファイル) 1.0では、HANAを実行するハードウェアがSAPによって定義されたパフォーマンス要件に準拠しているか測定するツールとして、HANAハードウェア構成チェックツール(HWCCT)を提供していました。このHWCCTは2019年にサポートを終了しており、現在HANA 2.0で使用できる後継ツールは、HANAハードウェアおよびクラウド測定ツール(HCMT)です。主な変更点は、サーバへのインストールが必要(以前はメディア解凍のみ)、CPUベンチマークテストの追加、測定結果をSAP HANA Hardware and Cloud Measurement Analysisにアップロードしてブラウザより分析を行います(以前はテキストファイル)。

SAP HANA Hardware and Cloud Measurement Analysis

アップロードした測定結果は異なる複数のSユーザで共有もできます。

リアルテックジャパンにご支援できること

SAP HANA 1.0から2.0の移行に着目してきましたが、データベース変更のHANA化や近年加速しているS/4HANA化、さらにオンプレミスからクラウドのHANA Cloud化など、多様な選択肢の先にはビジネス基盤となるHANAの活用が不可欠です。リアルテックジャパンはSAP HANAのプロフェッショナルとして、これまで様々な業種のお客様でSAP HANA導入を支援させていただいています。すでにSAPを利用しているお客様からHANAから初めてSAPシステムを導入するお客様まで、お客様の要件にお応えしその戦略の策定・実施を支援します。

SAP HANAやS/4HANAについてもっと知りたい、具体的な検討がしたいという方は、ぜひ当社リアルテックまでご相談ください。

 

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