ID管理の重要性とは?
システム選びのポイントや注意点を解説

 2024.03.29  リアルテックジャパン株式会社

現代の企業は、日常的にさまざまなITサービスを活用しています。そのような中で実務的にもセキュリティ的にも問題になってくるのが、複雑で手間のかかるID管理です。本記事では、ID管理の重要性やよくある課題、そして課題解決に役立つID管理システムについて紹介します。

ID管理の重要性とは?システム選びのポイントや注意点を解説

ID管理とは?

そもそもIDとは、「identification(身元証明)」という英語に由来しており、ITシステムにおいては個々のユーザーを識別するための情報を指します。具体的には、メールアドレスや利用者番号などが該当します。

企業内でシステムやクラウドサービスを利用する際、まずは従業員ごとにユーザーアカウントを登録し、IDとパスワードで認証するのが一般的です。ID管理とは、こうしたアカウント情報を適切に管理・運用することを指します。

IDを管理する目的と重要性

ID管理は、アカウント情報を効率的に管理し、不正アクセスや情報漏えいなどのセキュリティリスクを防ぐうえで重要な対策と捉えられます。

情報を適切に管理して保護する目的がある

ID管理の目的は、アカウント情報を効率的かつセキュアに管理・保護することです。ID管理業務は、従業員数や利用するシステムが増えるほど煩雑になります。現代の企業は多数のシステム・ツールを業務で利用しているため、ID管理において登録漏れや更新間違いなどの人的ミスが発生しやすくなっている状況です。

システムへのログインができなければ業務遂行に大きな支障が出る可能性があり、退職社員のアカウント情報がそのまま放置されていれば情報漏えいのリスクが拡大します。そこで、こうしたリスクを低減するために、ID管理に取り組む必要があります。

企業の情報漏えいを防ぐために重要

上記でも触れましたが、適切なID管理体制の構築は情報漏えいを防ぐためにも非常に重要です。企業が利用しているシステムの中には、社外に流出させてはならない個人情報や機密情報が大量に存在します。IDは、こうしたシステムにアクセスするための鍵のようなものであり、これを不適切な方法で管理することは非常に危険です。

ID管理を適切に実施することで、管理者は誰がどのシステムを利用しているのか把握しやすくなります。また、部署や役職などに応じてアクセスできるデータに制限をかけることも可能です。こうした対策によって、不正アクセスや情報漏えいを防ぎやすくなります。また、研修などを通して従業員のセキュリティ意識を高め、さらなるリスクの軽減につなげることも重要です。

企業ブランドの価値も向上する

セキュアなID管理体制の構築は、企業ブランドの価値向上にもつながります。現代のビジネス環境では、サイバーセキュリティ対策が非常に重要であり、これに対応しなければビジネスの継続が困難になることもあります。たとえば顧客の個人情報を漏えいさせてしまった企業は、社会的信用に大きな打撃を受ける恐れがあります。

また、サプライチェーンリスクの観点から、サイバーセキュリティ対策が十分ではない企業は、将来的に取引先から排除されかねません。このように、ID管理を適正に実施することはブランド価値の保護という観点からも重要です。

ID管理が不十分だとどうなる?

ID管理の不備は、企業へ深刻な結果をもたらす可能性があります。

情報漏えい/紛失事故につながる

先述のように、不適切なID管理は、機密情報の漏えいや紛失事故のリスクを拡大させる要因となります。東京商工リサーチの調査報告によると、2023年に発生した個人情報の漏えい・紛失事故は175件(前年比6.0%増)で、約4,091万人分(前年比590.2%増)もの個人情報が漏えいしたとされています。そして、その5割以上が昨年同様ウイルス感染や不正アクセスが原因です。

情報漏えいが発生した場合、事件の調査や対策には多大な時間と費用がかかります。また、顧客からの信頼を失ったり、損害賠償責任を負ったりすることも懸念されます。

参照元:東京商工リサーチ|2023年の「個人情報漏えい・紛失事故」が年間最多 件数175件、流出・紛失情報も最多の4,090万人分 ~ 2023年「上場企業の個人情報漏えい・紛失事故」調査 ~

情報漏えいさせた企業の法的責任

個人情報保護法によって、企業には個人情報を適正に管理する責任が課されています。これに違反した企業には、個人情報保護委員会による立入検査や改善命令などが行われます。この改善命令にも従わなかった法人には、1億円以下の罰金が科されます(個人の場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金)。このように、個人情報の取り扱いにおける不備は、重大な法的責任を伴うものです。

昨今では、情報漏えいなどに伴う法律上の負担に備えるため、「サイバー保険」が注目されています。サイバー保険とは、サイバー事故によって生じた第三者への損害賠償責任や事故時に必要となる費用、自社の逸失利益などを補償する保険です。サイバー保険に加入する際の審査や保険料は、企業の売上高や事業内容、補償内容によって異なります。また、情報漏えいによって失った社会的信用は保険金では補えないので、情報漏えいの発生自体を防ぐことが大切です。

参照元: e-Gov法令検索|個人情報の保護に関する法律(148条、178条、184条)

ID管理の課題とは?

上記のように適切なID管理体制の構築は企業にとって不可欠ですが、それを実現するためには様々な課題が生じます。ここでは、管理者とユーザー、そしてセキュリティリスクの観点から見たID管理の主な課題を紹介します。

管理者からみたID管理の課題

企業内での人事異動や組織編成のたびに発生するIDの登録・変更作業は、管理者にとって大きな負担となり得ます。これは特に従業員の数が多く、使用するシステムやサービスが多い企業ほど顕著です。

また、ヘルプデスク対応も負担になることが多い要素です。パスワード忘れやアカウントロックなどの問い合わせが多いと、担当者はその他のより生産性の高い業務に回すリソースを確保できなくなります。

さらに、内部監査への対応も大きな課題です。ITシステムのアクセス管理は内部監査の重要な評価項目であり、ID情報やログイン履歴の出力・照会などの棚卸し作業は、管理者にとって時間と労力を要する作業です。特に、これらの作業が手作業で行われている場合、その負担は非常に大きなものになります。

利用者からみたID管理の課題

効率的なID管理体制が構築されていないと、利用者側の利便性や業務効率にも悪影響が出ます。「複数のID・パスワードを覚えることが負担になっている」「システムごとに申請方法が変わるため煩雑である」といった課題や不満につながりかねません。

複数のクラウドサービスや社内システムを使用する現代の職場環境では、利用者はサービスごとにログイン情報を管理する必要があります。そのため、複数のID・パスワードを記憶し、ログインごとにそれらの情報を入力する手間が生じます。これは利用者にとって非常に負担が大きく、パスワード忘れやアカウントロックなどにもつながります。

また、アカウントに関する申請方法がシステムごとに異なるのも、利用者にとって大きな負担です。メールやExcelのリスト、専用ツールなど、異なる方法での申請が必要になることもあり、これも利用者にとってストレスになります。

セキュリティリスクの課題

ID管理を行う際には、セキュリティ面も慎重に考慮することが重要です。

複数サービスのID・パスワード情報を管理する負担に悩む従業員は、単純なパスワードを登録したり、使い回したりすることがあります。また、パスワードを付箋にメモして、目に見える場所に貼り付ける行為も少なからず見られます。言うまでもなく、これらはいずれも不正アクセスのリスクを増大させる行為です。

なかには、ExcelでID・パスワード情報をリスト化して管理している人もいるかもしれません。しかし、これに関しても、そのファイル自体が適切に管理・保護されていないと危険なことには変わりありません。

IDを適切に管理する方法とは?

上記のような課題を解決し、IDを適切に管理するためには、ID管理システムの導入が非常に効果的です。ID管理システムとは、登録したサービスと連携し、ユーザーのアカウント情報を一元的に管理するためのツールです。IAM(Identity and Access Management)やIDaaS(Identity as a Service)という名称で呼ばれることもあります。

ID管理システムによくある機能としては、IDの一元管理をはじめ、シングルサインオン、多要素認証、アクセス制御、プロビジョニングなどが挙げられます。こうした機能を活用することで、複数のサービスを横断してIDの登録・変更・削除を同じダッシュボード上で行ったり、ユーザーの属性にあわせてアクセス制限をかけたりすることが可能です。これにより、企業は社内システムやクラウドサービスなどのID管理・アクセス管理を安全かつ効率的に行いやすくなります。

ID管理システムのメリット

ID管理システムは、その多様な機能によって管理者と利用者双方に以下のようなメリットをもたらします。

管理者のメリット

ID管理システムは、IDの一元管理や管理作業を自動化し、管理者の業務負担を大きく軽減させます。複数のシステムに分散したアカウント情報をID管理システムに集約することで、各ユーザーのID管理やセキュリティポリシーの適用を一気通貫で行えるようになります。

さらに、人事システムなどのデータと連携することで、従業員の入社・退社、人事異動に伴うアカウントの作成・変更・削除などの作業を自動化することも可能です。これによって、効率的かつ適切にID管理を実施しやすくなり、管理者の業務負担軽減とセキュリティ強化を両立させられます。

利用者のメリット

ID管理システムの導入によって、利用者の利便性向上も可能です。たとえば、ID管理システムの中には「シングルサインオン」という機能が含まれていることがあります。これは一組のID・パスワード情報を入力することで、複数のシステム・サービスにログインできるようにする機能です。

これにより、従業員は複数のパスワードを記憶したり手入力したりする必要がなくなり、快適に業務を行いやすくなります。また、パスワード忘れなどの問い合わせが減り、ヘルプデスクの負担が少なくなる効果や、パスワードをメモに書くなどのセキュリティ的に問題のある行為が抑制される効果も期待できます。

ID管理システム選びのチェックポイント

ID管理システムの導入効果を最大化するためには、自社に適したシステム選びが欠かせません。ID管理システムの選定ポイントとしては、「機能」「セキュリティ」「予算」の3つが挙げられます。

ポイント1:自社が求める機能が搭載されているか

第一に確認したいのが、導入候補のID管理システムに、自社が必要とする機能が搭載されているかです。企業規模や業種によって、重視すべき機能は異なります。たとえば、大企業では膨大な数のIDを管理する高度な機能が必要であり、業種によっては通常よりも強固なセキュリティ機能が求められることもあります。

また、システムの提供形態がオンプレミス型かクラウド型かによっても、導入コストやシステムの拡張性が変わるので注意が必要です。そのため、まずは自社の優先課題やニーズを明確化し、それに合致したシステムを探すようにしましょう。

ポイント2:十分なセキュリティ対策が講じられているか

導入候補のID管理システムのセキュリティ対策が信頼できるかどうかも検討が必要です。たとえば、認証セキュリティを強化する代表的な機能として「多要素認証」というものがあります。これはID・パスワードに加えて、生体認証やスマホなどの所持品による認証操作を利用者に要求する機能です。これによって、万が一ID・パスワード情報が流出しても不正アクセスを防げます。

また、ID管理システム自体のセキュリティにも要注意です。ID管理システムには複数のシステムのアカウント情報が集約されているので、ID管理システムがサイバー攻撃されたり、何らかの障害が発生したりすると被害が大きくなります。これと関連して、トラブルが発生したときに迅速にサポートを受けられるか確認することが重要です。

ポイント3:機能と価格のバランスは取れているか

機能と価格のバランスを考慮することも必要です。通常、システムの価格はその性能や機能の充実度に比例して高くなります。しかし先述のように、システムに求める機能や性能は企業ごとに異なるので、必要以上に高機能な製品を導入してもコストばかり高くなって持て余すことになりかねません。

また、導入コストだけでなく、ランニングコストにも注目する必要があります。ID管理システムは、一度導入したら長期的に運用し続けることが想定されます。そのため、システムの維持管理やアップグレードにかかるコストも含めて、無理のない予算を設定しましょう。

まとめ

複数のシステム・サービスを使い分けるのが当たり前になっている現代の企業において、管理者と利用者の双方にとって使いやすく、セキュアなID管理方法の構築は喫緊の課題です。その点、ID管理システムの導入は、管理者の業務負担軽減と負担軽減に付随する管理コストの軽減、セキュリティの強化、シングルサインオンによる利用者の利便性向上、リスク分析や不正検知機能によるセキュリティリスクの予防・発見など、数多くのメリットをもたらします。

またID管理はユーザーのアクセス管理とも密接に関連し、相互利用することで更なる相乗効果を期待できます。

ID管理やアクセス権限管理などに課題を抱えている場合は、是非リアルテックジャパンが提供する「SAP GRC Access Control(AC)」や「SAP Identity Management(IdM)」といったID・アクセス管理ソリューションの導入をご検討ください。


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