クラウドサービスの普及に伴い、ID管理は複雑化しセキュリティリスクも増大しています。本記事では、その解決策である「IDaaS」の基本から、IAM・IGAとの違い、主要製品の比較までを網羅的に解説。結論として、統合的なIDガバナンスを実現するOne Identity Managerが、いかに企業のセキュリティ強化と業務効率化に貢献するのか、その機能と導入メリットを詳しくご紹介します。
IDaaSが求められる背景とは?クラウド時代のID管理における課題
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や働き方改革により、多くの企業でクラウドサービスの活用とテレワークが急速に普及しました。ビジネス環境が大きく変化する中で、従来のID管理手法では対応しきれない数々の課題が顕在化しています。本章では、まずIDaaSの基本的な定義と役割を解説し、なぜ今、IDaaSが多くの企業にとって不可欠なソリューションとなっているのか、その背景にある具体的な課題を深掘りします。
IDaaSの基本的な定義と役割
IDaaS(アイダース)とは、「Identity as a Service」の略称で、ID認証やアクセス管理の機能(ID認証基盤)をクラウドサービスとして提供するモデルを指します。従来、企業が自社内(オンプレミス)で構築・運用してきたID管理システムを、サブスクリプション型のクラウドサービスとして利用できるのが最大の特徴です。
IDaaSが担う主な役割は多岐にわたりますが、代表的な機能は以下の通りです。
機能 | 概要 |
---|---|
ID連携 / プロビジョニング | 人事情報などに基づき、複数のクラウドサービスや社内システムに対して、ユーザーアカウントの作成・変更・削除を自動的に同期・反映させます。 |
シングルサインオン(SSO) | 一度の認証で、連携している複数のサービスへ追加のログイン操作なしでアクセスできる機能です。ユーザーの利便性を大幅に向上させます。 |
多要素認証(MFA) | ID・パスワードだけでなく、SMSコードや生体認証、専用アプリなど、複数の要素を組み合わせて認証を強化し、不正アクセスリスクを低減します。 |
アクセス制御 | ユーザーの役職や所属部署といった属性情報に基づき、「誰が」「どの情報やシステムに」アクセスできるかを細かく制御します。 |
監査ログ / レポート | 「いつ、誰が、どのシステムにアクセスしたか」といったログを収集・記録し、監査やコンプライアンス要件に対応するためのレポートを作成します。 |
これらの機能を活用することで、企業はセキュリティを強化しながら、ID管理にまつわる運用負荷を大幅に削減できます。
SaaSの普及とテレワークで複雑化する従来のID管理
かつてのID管理は、社内ネットワークに設置されたActive Directory(AD)などを中心に、比較的閉じた環境で完結していました。しかし、ビジネス環境の変化が、この「境界型」の管理モデルを限界に追い込んでいます。
特に大きな変化は、Microsoft 365やGoogle Workspace、SalesforceといったSaaS(Software as a Service)の爆発的な普及です。業務に必要なアプリケーションが社内からクラウド上へと移行し、管理すべきIDが社内外に散在するようになりました。さらに、テレワークが常態化したことで、従業員は社外の様々な場所・デバイスからこれらのサービスにアクセスするようになり、セキュリティの境界線は曖昧になっています。
こうした変化は、従来のID管理手法に以下のような深刻な課題をもたらしました。
課題の種類 | 具体的な内容 |
---|---|
管理者側の課題 |
・ID管理業務の煩雑化と工数増大:入社・異動・退職のたびに、SaaSごとに手作業でアカウントを発行・停止する必要があり、管理者の負担が激増。 |
従業員側の課題 |
・生産性の低下:利用するSaaSごとに異なるIDとパスワードを記憶・管理せねばならず、ログインの手間が業務効率を低下させる。 |
IDaaSは、まさにこうしたクラウド時代の複雑な課題を解決するために生まれました。点在するIDをクラウド上で一元的に管理し、統一されたセキュリティポリシーを適用することで、管理者の負担を軽減し、従業員の利便性を向上させ、企業全体のセキュリティレベルを引き上げる重要な役割を担っているのです。
IDaaSとIAM・IGAの違いをわかりやすく解説
IDaaSについて理解を深める上で、しばしば混同されがちな「IAM」や「IGA」といった用語との違いを明確に把握しておくことは非常に重要です。これらの用語はすべてID管理に関連していますが、それぞれ異なる概念や領域を指しています。ここでは、IDaaS、IAM、IGAのそれぞれの定義と役割を解説し、その違いを明らかにします。
IDaaS(Identity as a Service)
IDaaS(Identity as a Service)は、その名の通り「サービスとしてのID管理」を意味します。これは、ID認証やアクセス管理といった機能をクラウドサービスとして提供する形態に焦点を当てた言葉です。従来、企業が自社内(オンプレミス)で構築・運用していたID管理システムを、サービス事業者が提供するクラウドプラットフォーム上で利用できるようにしたものです。
IDaaSの主な機能には、複数のクラウドサービスに一度のログインでアクセスできる「シングルサインオン(SSO)」、IDとパスワード以外の要素で本人確認を行う「多要素認証(MFA)」、そして各SaaSアプリケーションへのID情報の自動連携(プロビジョニング)などがあります。導入企業はサーバーの構築やソフトウェアの管理といった手間から解放され、迅速かつ比較的低コストで高度なID管理環境を導入できる点が大きなメリットです。
IAM(Identity and Access Management)
IAM(Identity and Access Management)は、直訳すると「IDとアクセスの管理」となり、「誰が(Identity)」「何に(Resource)」「どのような権限で(Access)」アクセスできるかを管理するための仕組みや概念そのものを指す広義の言葉です。IDaaSが「提供形態」を指すのに対し、IAMはID管理における「機能や目的」に焦点を当てています。
IAMの目的は、適切な権限を持つユーザーだけが情報資産にアクセスできるように制御すること(認可)と、アクセスしようとしているユーザーが本人であることを確認すること(認証)です。この仕組みは、オンプレミス環境で専用のソフトウェアを使って構築することも、IDaaSというクラウドサービスを通じて利用することも可能です。つまり、IDaaSはIAMを実現するための有力な選択肢の一つと位置づけられます。
IGA(Identity Governance and Administration)
IGA(Identity Governance and Administration)は、「IDガバナンスと管理」を意味し、IAMの概念をさらに発展させ、コンプライアンス遵守やセキュリティ監査といった「統制(ガバナンス)」の側面を強化する概念です。IAMが「アクセスできる・できない」という制御に主眼を置くのに対し、IGAは「そのアクセス権は本当に適切か」「誰がいつ承認したのか」「不要な権限はないか」といった管理・監査プロセスに重きを置きます。
IGAの主要な機能には、以下のようなものがあります。
- アクセス権の棚卸し(レビュー): 定期的に従業員のアクセス権を見直し、不要な権限を削除するプロセスを自動化します。
- 職務分掌(SoD): 不正行為のリスクを低減するため、利益相反する権限(例:申請と承認)が同一人物に付与されるのを防ぎます。
- レポーティングと監査対応: 「誰が、いつ、どの情報にアクセスしたか」といったログを収集・分析し、監査に対応できるレポートを作成します。
One Identity Managerのような高度なソリューションは、このIGAの領域をカバーしており、厳格なセキュリティポリシーや法規制への対応が求められる企業にとって不可欠な存在となっています。
これらの違いをまとめると、以下の表のようになります。
比較軸 | IDaaS | IAM | IGA |
---|---|---|---|
焦点 | 提供形態(クラウドサービス) | アクセス制御の仕組み・概念 | ID管理の統制(ガバナンス) |
主な目的 | クラウド経由でのID管理機能の提供、利便性向上、運用負荷軽減 |
適切なユーザーへの適切なアクセス許可(認証・認可) |
ポリシー準拠、リスク管理、監査対応、コンプライアンス強化 |
提供形態 | 主にクラウドサービス | オンプレミス、クラウド(IDaaSの一部として提供されることも多い) | オンプレミス、クラウドサービス(高機能なソリューションが多い) |
代表的な機能 |
シングルサインオン(SSO)、多要素認証(MFA)、ID連携 |
認証、認可、IDライフサイクル管理 |
アクセス権レビュー、職務分掌(SoD)、監査レポート |
IDaaS・IAM・IGAの比較
このように、IDaaSはIAMやIGAの機能を提供する「手段」であり、IAMはID管理の基本的な「仕組み」、IGAはそれをさらに強化し、統制を効かせるための「高度な仕組み」と理解すると、それぞれの関係性が明確になります。
主要IDaaS・IGAソリューションを比較|自社に合う製品は?
IDaaSやIGA(IDガバナンス&管理)の市場には、多種多様なソリューションが存在します。それぞれに得意分野や特徴があり、自社の規模、業種、既存システム環境、そして解決したい課題によって最適な製品は異なります。やみくもに多機能な製品を選ぶのではなく、自社の要件を明確にした上で、各ソリューションを比較検討することが成功の鍵となります。
ここでは、IDaaSおよびIGA分野で主要なソリューションを取り上げ、その特徴を比較します。この比較を通じて、数ある製品の中から自社に最適な選択肢を見つけるための指針を提供します。特に、本記事で注目する「One Identity Manager」が市場でどのような位置づけにあるのかも明らかにしていきます。
主要ソリューション5社の特徴比較表
ID管理とガバナンスを実現する代表的な5つのソリューションについて、それぞれの特徴を一覧表にまとめました。各製品がどのような強みを持ち、どのような企業に適しているのかを把握しましょう。
製品名 | 提供ベンダー | 強み・特徴 | 主な機能 | 適した企業像 |
---|---|---|---|---|
One Identity Manager (OIM) | One Identity | IGAと特権アクセス管理(PAM)を単一プラットフォームで提供。オンプレミスとクラウドが混在する複雑な環境に強く、柔軟なカスタマイズ性を持つ。 | ユーザーライフサイクル管理、アクセス権限申請・承認ワークフロー、アクセスレビュー、SSO連携、特権ID管理 | ハイブリッド環境を持つ中規模から大規模企業。厳格なコンプライアンスとガバナンス、特権ID管理までを統合したい企業。 |
Okta Identity Cloud | Okta |
IDaaS市場のリーダー。強力なSSO/多要素認証(MFA)と、7,000を超える豊富なアプリケーション連携(OIN)が特徴。ユーザー中心の直感的な操作性。 |
シングルサインオン(SSO)、多要素認証(MFA)、ユニバーサルディレクトリ、ライフサイクル管理(プロビジョニング) | クラウドサービス利用が中心の企業。従業員の利便性向上と迅速な導入を重視する、あらゆる規模の企業。 |
SailPoint Identity Security Cloud | SailPoint | IGA分野の専門ベンダー。AI/機械学習を活用した高度なIDガバナンス機能が強み。アクセス権の可視化や職務分掌(SoD)違反の検出に優れる。 | アクセスモデリング、アクセスレビュー(棚卸し)、プロビジョニング、コンプライアンス管理、AIによる推奨 | 厳格なコンプライアンス要件(SOX法、GDPRなど)への対応が必須な大規模企業。効率的なIDガバナンス体制を構築したい企業。 |
IBM Security Verify |
IBM |
IGA、アクセス管理、MFAを統合したプラットフォーム。IBMの他のセキュリティ製品群との連携が強力で、大規模かつ複雑なシステム環境を持つ企業向け。高度な分析とレポート機能。 |
IDライフサイクル管理、アクセス認証、リスクベース認証、コンプライアンス管理、APIセキュリティ | 既存のIBM製品を多く利用している大規模企業。オンプレミスからクラウドまでを包括的に管理したいグローバル企業。 |
Saviynt Enterprise Identity Cloud |
Saviynt |
クラウドネイティブなアーキテクチャを持つIGAソリューション。マルチクラウド環境(AWS, Azure, GCP)のガバナンスに強みを持つ。迅速な導入が可能。 |
インテリジェントなアクセス要求、職務分掌(SoD)管理、緊急アクセス管理、データアクセスガバナンス | マルチクラウド環境を積極的に活用している企業。俊敏性と拡張性を重視するクラウドファーストな企業。 |
One Identity Manager (OIM) の位置づけと強み
上記の比較表からもわかるように、各ソリューションにはそれぞれの得意領域があります。その中で、One Identity Manager (OIM) は、単なるIDaaSやIGAの枠を超えたユニークな価値を提供します。
OIMの最大の位置づけは、IDガバナンス(IGA)と特権アクセス管理(PAM)を、ビジネスプロセス中心の単一アーキテクチャで実現する点にあります。多くのソリューションがIGAとPAMを別製品として提供する中、OIMはこれらを統合。これにより、一般ユーザーからIT管理者、開発者といった特権ユーザーまで、組織内のあらゆるIDのアクセス権を、一貫したポリシーのもとで管理・統制することが可能です。
特に、以下のような強みがOIMを特徴づけています。
- ハイブリッド環境への最適化: 多くの日本企業が抱える、オンプレミスの基幹システムと複数のクラウドサービスが混在する複雑なハイブリッド環境。OIMは、こうした環境全体にわたる統一されたID管理基盤を構築することを得意としています。
- ビジネスに即した柔軟性: OIMは「ビジネスロール」の概念に基づき、人事情報(部署、役職など)と連携してアクセス権を自動で割り当てます。企業の組織構造や業務プロセスに合わせてワークフローを柔軟にカスタマイズできるため、独自の要件を持つ企業にも高いレベルで適合します。
- ガバナンスと効率の両立: 厳格なアクセス権の棚卸しや監査レポート機能でコンプライアンスを確保しつつ、IDの作成から削除までのライフサイクルを自動化することで、IT部門やヘルプデスクの運用負荷を大幅に削減します。セキュリティ強化と業務効率化を同時に実現できる点が大きな強みです。
このようにOIMは、クラウドサービスの利便性を享受しつつも、オンプレミスを含めたシステム全体のガバナンスを厳格に維持したいと考える企業にとって、非常に強力な選択肢となります。次の章では、このOIMの具体的な機能と特徴について、さらに詳しく掘り下げていきます。
One Identity Manager (OIM) とは?機能と特徴を徹底解説
前章では主要なIDガバナンス(IGA)ソリューションを比較しましたが、本章ではその中でも特に、柔軟性と拡張性に優れた「One Identity Manager(OIM)」に焦点を当て、その全貌を徹底的に解説します。OIMは、IDaaSが提供する利便性に加え、複雑な組織の要求に応える高度なIDガバナンスと管理(IGA)機能を提供する統合プラットフォームです。オンプレミスとクラウドが混在する現代のハイブリッドIT環境において、OIMがどのようにID管理を変革するのかを見ていきましょう。
OIMの概要とコンセプト
One Identity Manager(OIM)は、単なるID管理ツールではなく、「ビジネス主導のID管理」をコンセプトに掲げる包括的なソリューションです。これは、IT部門だけでなく、現場のビジネス部門が主体となってアクセス権の要求、承認、棚卸しを行えるように設計されていることを意味します。このアーキテクチャにより、迅速かつ適切な権限付与を実現し、ビジネスの俊敏性を損なうことなくセキュリティを確保します。
OIMの核となるのは、オンプレミスのActive Directoryや基幹システムから、Microsoft 365、SalesforceといったSaaSアプリケーションまで、社内外に散在するあらゆるシステムのID情報を一元的に管理・統制する能力です。これにより、多くの企業が抱える「ID管理のサイロ化」という課題を根本から解消し、組織全体で統一されたガバナンスポリシーの適用を可能にします。
OIMの主要機能
OIMは、企業のID管理における課題を網羅的に解決するため、多岐にわたる機能を提供しています。これらの機能は、セキュリティの強化、運用業務の効率化、そして厳格なコンプライアンス要件への対応という、企業が直面する3つの主要な課題に直接的に貢献します。以下の表は、OIMが提供する主要な機能とその効果をまとめたものです。
機能カテゴリ | 具体的な機能 | 主な導入効果 |
---|---|---|
ユーザーライフサイクル管理 | 人事システム連携によるIDの自動プロビジョニング/デプロビジョニング、休職・復職時の権限一時停止・再開 | 入退社・異動時の作業自動化、セキュリティリスク(退職者アカウントなど)の排除、IT部門の工数削減 |
ロールベースアクセス制御(RBAC) | ビジネスロールに基づく権限の自動付与・剥奪、ロールの階層管理、職務分掌(SoD)ポリシーの適用 |
最小権限の原則の徹底、不正アクセスの防止、内部統制の強化 |
権限管理とコンプライアンス | アクセス権の棚卸し(レビュー)プロセスの自動化、承認ワークフローの構築、監査レポートの自動生成 | 監査対応の効率化、J-SOXやGDPRなど各種規制への準拠、権限の可視化と正当性の維持 |
SSOとの連携 |
主要なSSO/IDaaS製品(Azure AD, Okta等)との連携による認証と認可の分離、多要素認証(MFA)の強化 |
ユーザーの利便性向上と、アクセス権の厳格なガバナンスの両立、ゼロトラストセキュリティの推進 |
ユーザーライフサイクル管理
OIMのユーザーライフサイクル管理機能は、従業員の入社から退職までの一連のイベントに連動して、ID管理プロセス全体を自動化します。例えば、人事システムに新しい従業員情報が登録されると、OIMはそれをトリガーとして、Active Directoryアカウントの作成、メールアドレスの発行、業務に必要なアプリケーションへのアクセス権付与などを自動的に実行します(プロビジョニング)。
同様に、異動時には権限の変更を、退職時にはすべてのアカウントの即時無効化や削除(デプロビジョニング)を自動で行います。これにより、手作業による設定ミスや、退職者アカウントの放置といった深刻なセキュリティリスクを根本から排除し、情報システム部門の担当者を煩雑な手作業から解放します。
ロールベースアクセス制御(RBAC)
OIMは、高度なロールベースアクセス制御(RBAC)を実現します。これは、単に「営業部」や「開発部」といった部署単位の権限設定にとどまりません。「〇〇プロジェクトのリーダー」や「経費精算の承認者」といった、組織横断的で動的な「ビジネスロール」を定義し、そのロールに対して必要なアクセス権を紐づけることができます。
従業員が特定のビジネスロールに任命されると、関連するアクセス権が自動的に付与され、ロールから外れると即座に剥奪されます。この仕組みによって、常に「最小権限の原則」を組織全体で徹底し、過剰な権限付与に起因する内部不正や情報漏えいのリスクを大幅に低減させます。また、利益相反を防ぐための職務分掌(SoD)ルールの適用も自動化できます。
権限管理とコンプライアンス対応
「誰が、いつ、どの情報にアクセスできるのか」を正確に把握し、その正当性を証明することは、内部統制とコンプライアンス遵守の要です。OIMは、すべてのシステムにおけるアクセス権の状況を可視化し、定期的な棚卸し(アクセスレビュー)プロセスを自動化します。管理者は、各ユーザーの権限が適切かどうかをシステム上で簡単に確認・承認でき、そのすべての操作は監査証跡として記録されます。
この機能は、J-SOX(内部統制報告制度)やGDPR、PCI DSSといった国内外の厳格な規制や監査要件への対応を強力に支援します。監査の際には、要求に応じて迅速かつ正確なレポートを提出できるため、監査対応にかかる工数を劇的に削減し、企業としての説明責任を果たすことが可能になります。
SSO(シングルサインオン)との連携
OIMは、それ自体がSSO機能を提供するのではなく、OktaやAzure Active Directory(Azure AD)、Ping Identityといった市場の主要なSSO/IDaaSソリューションとシームレスに連携する点で大きな強みを持ちます。この連携により、「認証」と「認可(ガバナンス)」の最適な分業体制を構築できます。
ユーザーはSSOによって一度のログインで快適に各アプリケーションを利用し、その裏側ではOIMが「そのユーザーが本当にそのアプリケーションにアクセスする権限を持っているか」を厳格に管理・統制します。つまり、SSOによる利便性を享受しつつ、アクセス権のライフサイクルと正当性を継続的に担保することで、より高度なセキュリティレベルを実現します。このアプローチは、すべてのアクセスを検証する「ゼロトラスト・セキュリティ」モデルの実現にも不可欠な要素です。
One Identity Manager導入がもたらす3つのビジネスメリット
One Identity Manager(OIM)の導入は、単なるID管理ツールの導入に留まりません。セキュリティの強化、業務効率の向上、そしてコンプライアンス遵守といった多角的な側面から、企業の競争力を高める戦略的な投資となります。ここでは、OIMがもたらす具体的な3つのビジネスメリットを詳しく解説します。
メリット1:セキュリティ強化とインシデントリスクの低減
現代のビジネス環境において、サイバー攻撃はますます巧妙化・高度化しており、ID情報の窃取は深刻なセキュリティインシデントの引き金となります。OIMは、ID管理のライフサイクル全体を通じて堅牢なセキュリティ基盤を構築し、企業の重要な情報資産を保護します。
OIMは、「最小権限の原則」を徹底し、従業員が必要な情報にのみアクセスできる環境を自動的に構築します。これにより、過剰な権限付与による内部不正や、アカウント乗っ取り時の被害範囲拡大といったリスクを大幅に低減します。また、特権ID(管理者権限など)へのアクセスを厳格に管理・監視することで、最もクリティカルなシステムへの不正アクセスを防止します。リアルタイムでのアクセス監視と異常検知機能は、万が一のインシデント発生時にも迅速な対応を可能にし、事業への影響を最小限に食い止めます。
これらの機能は、近年重要視されている「ゼロトラストセキュリティ」の考え方を実現する上でも不可欠であり、企業のセキュリティ体制を根本から強化します。
メリット2:ID管理業務の自動化による工数・コスト削減
従業員の入社、異動、退職に伴うIDの発行、権限変更、削除といった一連の作業は、情報システム部門にとって大きな負担となっています。手作業による管理は、時間とコストがかかるだけでなく、人為的なミスを誘発し、セキュリティホールを生み出す原因ともなり得ます。
OIMは、これらのID管理業務を徹底的に自動化します。人事システムと連携することで、入社から退職までのユーザライフサイクル全体を人の手を介さずに管理することが可能になります。例えば、新入社員には入社日に必要なアカウントとアクセス権が自動的に付与され、退職者のアカウントは即座に無効化されるため、権限の棚卸し漏れや退職者アカウントの不正利用といったリスクを排除できます。
この自動化がもたらす効果は、以下の表のように多岐にわたります。
管理項目 | 従来の手動管理 | One Identity Managerによる自動化 |
---|---|---|
アカウント発行 | 申請書ベースの作業。発行までに数日かかり、入力ミスも発生しやすい。 | 人事情報に基づき自動発行。即日利用可能で、設定ミスがない。 |
権限変更(異動時) | 旧部署の権限削除と新部署の権限付与を手動で実施。削除漏れのリスク。 |
役職・部署の変更に応じて、関連する権限を自動で更新。不要な権限は即時剥奪。 |
アカウント削除(退職時) | 退職後のアカウント削除漏れが発生し、不正アクセスの温床となる危険性。 | 退職日に合わせて自動的にアカウントを無効化・削除。セキュリティリスクを根絶。 |
ヘルプデスク |
パスワードリセットや権限付与の問い合わせが集中し、業務を圧迫。 |
セルフサービスポータルによりユーザー自身で対応可能。問い合わせ件数が大幅に削減。 |
結果として、情報システム部門の担当者は煩雑な手作業から解放され、より戦略的なIT企画などのコア業務に集中できるようになります。これは、組織全体の生産性向上とIT運用コストの最適化に直結します。
メリット3:厳格な監査とコンプライアンス要件への対応
企業活動において、個人情報保護法、金融商品取引法(J-SOX)、GDPRといった国内外の法規制や業界標準への準拠は、社会的信頼を維持するために不可欠です。これらの規制では、データへのアクセス管理と、その正当性を証明することが厳しく求められます。
OIMは、「誰が、いつ、どの情報に、どのような権限でアクセスしたか」を正確に記録し、追跡可能な監査証跡(ログ)を一元的に管理します。これにより、内部・外部監査の際に求められるレポートを迅速かつ正確に提出することが可能になります。従来、数週間から数ヶ月を要していた監査対応の工数を劇的に削減できます。
さらに、定期的なアクセス権の棚卸し(レビュー)プロセスを自動化する機能も備わっています。各部署のマネージャーが、配下メンバーのアクセス権が業務上適切であるかをシステム上で簡単に確認・承認できるため、形骸化しがちだった棚卸し作業の実効性を高めます。これにより、常にアクセス権の最小化と正当性を維持し、企業のガバナンス体制を強化。監査への対応力を高めると同時に、企業の信頼性向上に大きく貢献します。
【導入事例】De VolksbankはOIMでID管理をどう変革したか
One Identity Manager(OIM)が、実際のビジネス環境でどのように活用され、企業の課題を解決しているのか。ここでは、オランダの大手銀行であるDe Volksbankの導入事例を取り上げ、OIMがもたらした具体的な変革とビジネス価値を深掘りします。
導入前の課題:複雑化したID管理とコンプライアンス遵守の限界
金融機関であるDe Volksbankは、厳格なセキュリティ要件とコンプライアンス規制(GDPRなど)への準拠が絶対的な使命でした。しかし、事業の成長とIT環境の複雑化に伴い、従来のID管理プロセスでは多くの課題に直面していました。
手動プロセスによる非効率性とヒューマンエラー
20,000人を超える従業員のID管理は、その多くが手動プロセスに依存していました。入社、異動、退職に伴うアカウントの発行、権限変更、削除といった一連のライフサイクル管理は、IT部門にとって大きな負担となっていました。特に、退職者アカウントの削除遅延は、重大なセキュリティインシデントに繋がりかねない危険な状態であり、迅速かつ確実な対応が求められていました。
アクセス権の可視化と棚卸しの困難さ
誰が、どのシステムの、どのデータにアクセスできるのか。その全体像を正確に把握することが極めて困難な状況でした。定期的なアクセス権の棚卸し(レビュー)作業は膨大な工数を要し、形骸化しがちでした。その結果、従業員に不要な権限や過剰な権限が付与されたまま放置される「権限の肥大化」が進行し、内部不正や情報漏洩のリスクを高めていました。
監査対応の負担増大とガバナンスの欠如
金融監督機関などからの監査要求に対し、アクセス権に関するレポートを迅速かつ正確に提出することが大きな課題でした。手作業でのデータ収集とレポート作成には多大な時間がかかり、監査対応がIT部門の業務を圧迫。統一されたガバナンスポリシーの欠如は、監査での指摘リスクを常に抱えている状態でした。
One Identity Manager選定の決め手と導入プロセス
これらの深刻な課題を解決するため、De VolksbankはIDガバナンス&管理(IGA)ソリューションの導入を決定。複数の製品を比較検討した結果、One Identity Manager(OIM)を選定しました。決め手となったのは、OIMが持つ包括的な機能と柔軟性でした。
特に評価されたのは、ビジネス視点でのID管理を実現する「ロールベースアクセス制御(RBAC)」の強力な実装力です。役職や所属部署といったビジネス上の役割に基づいてアクセス権を自動で割り当てることで、最小権限の原則を徹底し、管理を大幅に簡素化できる点が魅力でした。また、オンプレミスとクラウドにまたがるハイブリッド環境全体を一元管理できる拡張性も、将来のIT戦略を見据えた上で重要なポイントとなりました。
導入後の成果:自動化によるセキュリティ強化と業務効率化
OIMの導入により、De VolksbankのID管理は劇的な変革を遂げました。手動プロセスから脱却し、自動化されたガバナンス主導のID管理体制を構築することに成功したのです。
IDライフサイクル管理の完全自動化
人事システムと連携することで、従業員の入社から退職まで、IDライフサイクルに関わるほぼ全てのプロセス(プロビジョニング・デプロビジョニング)が自動化されました。IT部門は手作業から解放され、より戦略的な業務に集中できるようになっただけでなく、ヒューマンエラーも一掃されました。退職者アカウントは即座に無効化され、セキュリティホールとなるリスクを根本から断ち切ることに成功しました。
監査対応の効率化とコンプライアンス強化
OIMは、誰が・いつ・どの権限を要求し・誰が承認したか、という全てのアクセス履歴を記録・可視化します。これにより、監査人から要求されるレポートは、ボタン一つで生成できるようになりました。監査対応にかかる工数は劇的に削減され、GDPRをはじめとする厳しい規制要件への準拠を容易に証明できる体制が整いました。これは、金融機関としての信頼性を維持・向上させる上で非常に大きな成果です。
導入前後の比較
OIMがもたらした変化を、具体的な課題領域ごとにまとめます。
課題領域 | 導入前の状況 | One Identity Manager導入後の効果 |
---|---|---|
ユーザーライフサイクル管理 | 手動でのアカウント作成・変更・削除。IT部門の負担が大きく、対応遅延や削除漏れのリスクがあった。 | 人事情報と連携し、ID管理プロセスをほぼ完全に自動化。IT部門の工数を大幅に削減し、セキュリティリスクを低減。 |
アクセス権レビュー(棚卸し) | Excelなどを用いた手作業での棚卸し。膨大な工数がかかり、権限の肥大化を止められなかった。 |
定期的なアクセス権レビューを自動化。管理者はダッシュボードで状況を確認し、承認・否認を行うだけで完了。 |
監査とコンプライアンス | 監査レポートの作成に多大な時間を要し、正確性の担保も困難。ガバナンスが不十分だった。 | アクセスログや権限情報を一元管理し、監査レポートを即時生成。コンプライアンス要件への準拠を容易に証明可能に。 |
このように、De Volksbankの事例は、One Identity Managerが単なるID管理ツールではなく、企業のセキュリティ、コンプライアンス、そして業務効率を根底から変革する戦略的なIGAソリューションであることを明確に示しています。
まとめ
クラウドサービスの普及とテレワークの定着により、従来のID管理は限界を迎え、セキュリティリスクも増大しています。本記事で解説したように、IDaaSやIGAはこれらの課題を解決する鍵となります。特にOne Identity Manager(OIM)は、ID管理の自動化による工数削減、セキュリティ強化、厳格なコンプライアンス対応を実現する強力なソリューションです。自社のID管理体制を見直し、ビジネスを加速させるために導入をご検討ください。
OIMについてさらに詳しく知りたい方はこちらの資料をご覧ください。
- カテゴリ: ID管理