
近年、企業のグローバル化やビジネス環境の複雑化に伴い、ガバナンス・リスク・コンプライアンスを統合管理するSAP GRCへの注目が高まっています。本記事では、GRCの基礎知識から、ERPシステムにおける重要性、具体的なソリューションや機能までをわかりやすく解説します。結論として、SAP GRCを導入することで、企業リスクの可視化とコンプライアンス強化を同時に実現し、持続可能な企業成長を支える強固な内部統制基盤を構築できます。導入や運用を検討している担当者様はぜひ参考にしてください。
この記事で分かること
- GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)の基礎知識
- 近年GRCがビジネスにおいて注目されている背景
- ERPシステムにおけるGRCソリューションの必要性
- SAP GRCが提供する主な機能とセキュリティ対策
- グローバルビジネスにおけるコンプライアンス強化のポイント
GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)の基礎知識
GRCとは、「ガバナンス(Governance)」「リスク(Risk)」「コンプライアンス(Compliance)」の頭文字をとった略称で、経営体制の統合的なリスクマネジメント手法を指す概念です。現代の企業経営において、これら3つの要素は個別に管理するのではなく、相互に連携させて統合的に運用することが求められています。
ここでは、GRCを構成するそれぞれの要素について詳しく解説します。
ガバナンスの役割と透明性の確保
「ガバナンス(Governance)」は「統治」や「支配」を意味する言葉であり、ビジネスでは企業経営の透明性を確保して健全化を目指す管理体制を指します。社内ルールや監視する仕組みを整備し、それを遵守する体制を整備する施策がガバナンスです。
企業が適切に経営されるためには、外部からその企業を監視する機関(社外取締役や監査役など)を置いたり、経営の方向性を明確にしたりする必要があります。東京証券取引所が取りまとめているコーポレートガバナンス・コードにおいても、株主をはじめとするステークホルダーとの適切な協働や、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みづくりが強く求められています。
ガバナンスが十分に機能している企業は、社会的な信用を獲得しやすく、中長期的な企業価値の向上につながります。
リスク管理による不利益の回避
「リスク(Risk)」は、事業活動に不利益となる要素を分析・評価するリスクマネジメントを指します。事業活動には、情報漏洩インシデントやコンプライアンス違反、自然災害や労働災害、急激な需要変化による売上高の低迷など、さまざまなリスクが潜んでいます。
- 情報漏洩やサイバー攻撃などのセキュリティリスク
- 法令違反や不正会計などのコンプライアンスリスク
- 自然災害や労働災害による事業中断リスク
- 急激な需要変化や為替変動による財務リスク
順調に業績を伸ばしていたにもかかわらず、リスクマネジメントを疎かにしてしまったがゆえに経営破綻に追い込まれた企業も少なくありません。こうした事態を回避するべく危機管理体制を整備するのがリスクマネジメントの役割です。
下表のとおり、リスクへの対応策は状況に応じて適切に選択する必要があります。
| リスク対応の分類 | 概要と具体例 |
|---|---|
| リスク回避 | リスクを伴う活動そのものを中止・回避する(例:不採算事業からの撤退) |
| リスク低減 | リスクの発生確率や影響度を小さくする(例:セキュリティシステムの導入) |
| リスク移転(共有) | リスクを第三者に移転または共有する(例:損害保険への加入) |
| リスク保有 | 許容範囲内と判断し、あえて特段の対策を講じない(例:少額の損失リスクの受容) |
コンプライアンスの徹底と社会倫理の遵守
「コンプライアンス(Compliance)」は、ガバナンスの基本原理の1つであり、法令や社会倫理の遵守を意味する概念です。ビジネスシーンでは法令や社会倫理の遵守はもちろん、社内規定や就業規則といった組織内のルールを守り、秩序に反さずに公正・公平に業務に従事することを意味します。
近年は企業の不祥事やハラスメントが問題になることが多く、コンプライアンスの重要性が高まっています。単に法律違反を避けるだけでなく、社会の期待に応える高い倫理観を持った行動が求められます。
コンプライアンスを徹底するためには、以下のような取り組みが有効です。
- 従業員向けの定期的なコンプライアンス教育・研修の実施
- 内部通報窓口(ヘルプライン)の設置と適切な運用
- 業務プロセスの可視化と相互牽制(ダブルチェック)の仕組みづくり
ガバナンス、リスク、コンプライアンスの3つは密接に関連しており、これらを包括的に管理するGRCの考え方が、現代のシステム運用においても不可欠となっています。
なぜ今、GRCが注目されているのか?
なぜ近年になってGRCが注目を集めているのでしょうか。その理由として様々な社会的背景が挙げられますが、要因のひとつといえるのが企業の組織再編の増加や委託先の増加です。グローバル化に伴う事業の多様化や年々厳しさを増す社会的要請に対応していくためにも、GRCに基づくマネジメント手法が必要となっています。こうした社会的背景も相まって、多くの企業がGRCの導入を迫られているのです。
組織再編や事業統合による管理の複雑化
国内市場ではここ10年間でM&Aが増加傾向にあります。テクノロジーの発展によって産業構造が大きく変化するなか、激化する市場競争を生き抜く戦略のひとつとしてM&Aを選択する企業が増えているのです。
下表のとおり、日本企業においてM&Aが増加している背景には、いくつかの要因が存在します。
| M&Aが増加している要因 | 詳細 |
|---|---|
| 後継者不足の深刻化 | 経営者の高齢化に伴い、事業の存続や従業員の雇用を守るための事業承継手段として活用されています。 |
| 市場競争の激化 | テクノロジーの急速な発展や産業構造の変化に対応するため、企業買収による迅速な競争力強化が図られています。 |
| グローバル展開の推進 | 国内市場の縮小を見据え、海外市場への進出や新たな拠点の獲得を目的とした海外企業の買収が増加しています。 |
合併や経営統合による組織再編をマネジメントするためには、経営指針や企業倫理、あるいは社内規定の迅速かつ的確な構築と、それを遵守する体制の整備が求められます。とくに、異なる企業文化や業務システムを持つ組織が統合される際、社内ルールや管理プロセスは非常に複雑化するため、統合的なガバナンス体制の構築が急務となります。
グローバル化と多様化するビジネスリスクへの対応
企業を取り巻くリスクは年々多様化かつ複雑化しています。グローバル展開を進める企業は、各国の法規制や商習慣の違いに的確に対応しなければならず、コンプライアンス違反のリスクが常に伴います。さらに、デジタル化の進展に伴い、サイバーセキュリティの脅威も深刻化しています。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した情報セキュリティ10大脅威 2026によると、組織向けの脅威として以下のような事象が上位に挙げられています。
- ランサム攻撃による被害
- サプライチェーンや委託先を狙った攻撃
- AIの利用をめぐるサイバーリスク
このように次々と現れる新たな脅威へ対応し、自社だけでなくサプライチェーン全体を含めたガバナンスを効かせるためには、場当たり的な対策ではなく、GRCの統合的な管理アプローチが不可欠となっているのです。
ERPシステムにおけるGRCソリューションの必要性
GRCは事業の透明性と安全性を確保するために欠かせない概念です。そして、GRCの整備は組織の運営だけでなく、社内システムの運用においても重要な経営課題といえます。とくにERPシステムの運用・管理における内部統制の整備は最優先事項のひとつです。
基幹業務の統合管理と内部統制の最適化
ERPシステムは、財務・会計・人事・生産・販売といった基幹業務の統合管理ソリューションであり、企業活動の中核を担います。そのため、社内システムの運用・管理における内部統制の最適化に寄与するのがGRCソリューションです。GRCソリューションを導入することで、リスク管理やコンプライアンス管理、内部監査やインシデント管理といった業務の効率化を図り、組織全体における運用体制の統制が可能になります。
ERPシステムとGRCソリューションを連携させることで得られる主な効果は、下表のとおりです。
| 項目 | ERP単体での課題 | GRCソリューション導入による効果 |
|---|---|---|
| 内部監査 | 手作業によるログ確認や監査対応に多大な工数が発生する | 監査プロセスの自動化により、業務負担を大幅に削減できる |
| リスク管理 | 部門ごとにリスク情報が散在し、全社的な把握が困難になる | リスク情報を一元管理し、リアルタイムでの可視化と迅速な対応が可能になる |
| コンプライアンス | 法改正や社内規定の変更への対応が遅れがちになる | 最新の規制要件をシステムに反映し、コンプライアンス違反を未然に防ぐ |
運用ルールの明確化とデータガバナンスの整備
ERPシステムには、決して流出してはならない機密情報や重要な経営データが蓄積されています。そのため、明確な運用ルールやデータガバナンスの整備が求められます。誰が、いつ、どのデータにアクセスし、どのような操作を行ったのかを正確に追跡・監視する仕組みが不可欠です。
データガバナンスを整備する上で重要となるポイントは以下のとおりです。
- データへのアクセス権限を最小限に制限し、職務分掌を徹底する
- データの変更履歴を自動的に記録し、不正な改ざんを防止する
- 定期的なモニタリングを実施し、異常なアクセスを早期に検知する
GRCソリューションを活用することで、これらの運用ルールをシステム上で強制し、人為的なミスや不正行為を排除することが可能です。結果として、ERPシステムに蓄積されたデータの信頼性が向上し、経営層は正確な情報に基づいた意思決定を行えるようになります。
SAP GRCが提供する主なソリューションと機能
SAP社は、統合基幹システムのリーディングカンパニーとしてさまざまなソリューションを提供してきました。国内でも多くの企業がSAP社のERPシステムを自社の統合基幹システムに据えています。そんなSAP社は、ERPにおけるガバナンスを強化するソリューションの開発・販売も手掛けています。ここからは、SAPが提供するGRCソリューションについて詳しく解説します。
企業リスクとコンプライアンスの統合管理
まずは、企業リスクとコンプライアンス管理に特化したGRCソリューションについて見ていきましょう。事業活動における不利益となり得る要素を分析し、内部統制を整備するための多様な機能が提供されています。
リスクの分析と評価
事業活動における不利益となり得る要素の分析・評価に特化しているのが「SAP Risk Management」です。企業の価値を保護し、リスクを可視化して戦略的な意思決定を支援する体制を構築します。
プロセス制御と内部監査の効率化
継続的な制御監視システムを搭載する「SAP Process Control」により、プロセス制御情報の管理や主要なビジネスプロセスのリアルタイム監視を行います。また、内部統制の整備は「SAP Audit Management」が得意とし、不正取引の検出は「SAP Business Integrity Screening」が長けています。下表のとおり、各ソリューションが連携して統合的な管理を実現します。
| ソリューション名 | 主な機能と特徴 |
|---|---|
| SAP Risk Management | 事業リスクの分析・評価、リスクの可視化とモニタリング |
| SAP Process Control | ビジネスプロセスのリアルタイム監視、プロセス制御情報の管理 |
| SAP Audit Management | 内部監査の効率化、監査プロセスの合理化と品質向上 |
| SAP Business Integrity Screening | 不正取引の早期検出、コンプライアンス違反の防止 |
IDとアクセス権限のガバナンス強化
企業の基幹業務を統合管理するERPシステムには、決して流出してはならない機密情報が保管されています。そのような重要なERPシステムを、ID認証や権限管理設定で保護することが不可欠です。
ユーザー権限の適切な統制
「SAP Access Control」は、ロール設定やアクセス権限設定で情報の閲覧・編集権限を統制します。これにより、権限の分離違反を防止し、適切なユーザー権限の管理を実現します。
クラウドとオンプレミス環境の統合アクセス管理
「SAP Cloud Identity Access Governance」は、オンプレミス環境とクラウド環境のアクセス管理をシンプル化します。ハイブリッド環境においても、一貫したアクセスガバナンスを適用することが可能です。
高度なサイバーセキュリティ対策
情報通信技術の進歩とともにサイバー攻撃も年々高度化かつ巧妙化しているため、企業の情報資産を保護するためには強固なセキュリティ環境が不可欠です。
外部の脅威検知と分析
サイバーセキュリティを強化するGRCソリューションのひとつが「SAP Enterprise Threat Detection」です。これは、サイバー攻撃を事前に検知するシステムであり、外部の脅威を特定して迅速に分析します。
データプライバシー規制への対応
一方で「SAP Privacy Governance」は、データプライバシー規制を管理し、内部のセキュリティを統制するソリューションです。世界各国の複雑なプライバシー規制に対するコンプライアンスを支援します。
グローバルビジネスにおける国際取引の管理
国内市場だけでなく、海外市場にも拠点をもつ企業におすすめしたいのが、国際取引の管理を支援するGRCソリューションです。
ビジネスパートナーのスクリーニング
「SAP Watch List Screening」は、ビジネスパートナーのスクリーニングを簡潔化できるソフトウェアです。取引先が制裁対象リストに含まれていないかを自動で確認し、取引リスクを低減します。
貿易業務のコンプライアンス強化
「SAP Global Trade Services」は、貿易業務の効率化およびコンプライアンスの強化に特化しています。SAP Global Trade Servicesを活用することで、輸出入規制の遵守や関税の最適化を図ることができます。下表のとおり、国際取引におけるリスク管理とコンプライアンス強化は、グローバル展開において非常に重要です。
| ソリューション名 | 主な機能と特徴 |
|---|---|
| SAP Watch List Screening | ビジネスパートナーの自動スクリーニング、制裁リスト照合 |
| SAP Global Trade Services | 貿易業務の効率化、輸出入規制の遵守、関税管理の最適化 |
SAP GRCに関するよくある質問
SAP GRCとは何ですか?
SAP GRCは、企業のガバナンス、リスク、コンプライアンスを統合的に管理するためのソリューションです。
なぜERPシステムにGRCが必要なのですか?
基幹業務と連携することで、内部統制の最適化やリアルタイムなリスク管理が可能になるためです。
SAP GRCでアクセス権限の管理はできますか?
はい、ユーザー権限の適切な統制や、クラウドとオンプレミス環境の統合アクセス管理が可能です。
SAP GRCはサイバーセキュリティ対策に有効ですか?
外部の脅威検知やデータプライバシー規制への対応など、高度なセキュリティ対策をサポートします。
グローバル展開している企業でも導入できますか?
国際取引の管理やビジネスパートナーのスクリーニング機能により、グローバルビジネスにも対応しています。
まとめ
本記事では、SAP GRCの基礎知識から、ERPにおける重要性や主な機能について解説しました。組織再編やグローバル化によってビジネスリスクが多様化する現代において、企業リスクとコンプライアンスの統合管理は不可欠です。SAP GRCを導入することで、内部監査の効率化や高度なサイバーセキュリティ対策を実現し、企業の持続的な成長を支える強固な基盤を構築できます。当社はSAPのスペシャリストとして、豊富な知見と実績をもとに、最適なソリューションをご提案します。SAPに関するご相談やお見積りのご依頼は、ぜひお気軽にリアルテックジャパンにお問い合わせください。
【本記事の監修体制について】
執筆:リードプラス株式会社
監修:リアルテックジャパン株式会社SAPソリューション事業
この記事は、SAP導入プロジェクトの豊富な経験を持つ当社の専門部門が内容を精査し、 以下の最終承認プロセスを経て公開しています。
最終監修責任者:リアルテックジャパン株式会社 代表取締役社長 松浦 一哉
企業の代表として、お客様の課題解決に繋がる有益で正確な情報発信に責任を持って取り組んでまいります。
- カテゴリ: セキュリティ・内部統制
- キーワード:セキュリティ・内部統制




