インメモリデータベースであるSAP HANAは高速な処理能力を持ちますが、データ量の増加や運用状況により「パフォーマンスが出ない」という課題に直面することがあります。主な原因は、メモリリソースの枯渇や実行効率の悪いSQL、デルタマージの不適切な設定などが挙げられます。本記事では、パフォーマンス低下の根本原因を特定し、高速化を実現するための具体的な5つのチェックリストを解説します。標準機能を活用した分析方法も紹介しますので、現状のボトルネックを解消し、システムの安定稼働にお役立てください。
この記事で分かること
- SAP HANAのパフォーマンスが低下する3つの主な原因
- 高速化を実現するための5つの具体的なチェックリスト
- 不要なデータ削除やSQLチューニングによる改善手法
- デルタマージやパーティショニングの最適化ポイント
- 標準機能を活用したボトルネックの特定と分析方法
SAP HANAのパフォーマンスが低下する主な原因
SAP HANAはインメモリデータベースとして圧倒的な処理速度を誇りますが、その性能を維持するためには、リソースの適切な管理が不可欠です。パフォーマンスが低下する場合、メモリ使用量、CPU負荷、ネットワークといったハードウェアリソースの状況を把握することが有効です。これらは、ボトルネックの有無を判断するための基本的な観点となります。ここでは、それぞれの要因について詳しく解説します。
インメモリデータベースにおけるメモリリソースの枯渇
SAP HANAの最大の特徴は、全てのデータをメモリ上に保持して処理を行う点にあります。しかし、メモリ上に保持する以外にもディスクへの読み書きも実施しています。特にカラムストアのテーブルは、使用頻度に応じてメモリからディスクへ「アンロード」されることがあり、メモリ使用量が多い場合、アンロードは発生しやすくなります。結果、ディスクI/Oが増えてパフォーマンスが低下に繋がります。
メモリ使用量を増加させやすい主な要因は以下のとおりです。
- 不要なデータの蓄積:ログデータや一時テーブルが削除されずに残っている。
- 非効率なSQLによるメモリ消費:結合処理や集計処理において、巨大な中間結果セットが生成されている。
- 行ストア(Row Store)の肥大化:起動時にメモリロードされる行ストアのテーブルサイズが大きい
- メモリの断片化:長期間の稼働によりメモリ領域が断片化し、大きな連続領域を確保できなくなる。
特に、メモリ使用量が上限(Global Allocation Limit)に近づくと、最悪の場合はOOM(Out Of Memory)エラーが発生し、処理が停止するリスクもあります。定期的なメモリ監視と、不要データのクリーンアップが重要です。
CPUが高負荷状態になりつづける処理
SAP HANAは並列処理によって高速化を実現していますが、特定の処理がCPUリソースを占有してしまうと、他のリクエストが処理待ち(キューイング)の状態となり、システム全体のレスポンスが悪化します。
CPU高負荷状態になりつづける背景には、以下のような原因が考えられます。
| 原因 | 詳細と影響 |
|---|---|
| 実行時間の長いSQL | 複雑な結合処理を含むクエリがCPU時間を大量に消費します。 |
| デルタマージの集中 | データの更新差分(デルタストア)をメイン領域(メインストア)に統合する「デルタマージ」が、大規模テーブルに対して頻繁に発生すると負荷が高まります。 |
| 並列処理の競合 | 1つのクエリが多数のスレッドを使用する設定になっている場合、他のジョブが実行スレッド(Job Worker)を確保できず待機状態になります。 |
CPUボトルネックを解消するには、高負荷なSQLを特定してチューニングを行うことや、デルタマージの実行タイミングを制御することが有効です。詳細な分析手法については、SAP Help Portalなどの公式ドキュメントも参照してください。
ネットワーク遅延によるアプリケーションへの影響
データベースサーバー上の処理が高速であっても、アプリケーションサーバーとの間の通信に時間がかかっていれば、ユーザー体感速度は向上しません。特にクラウド環境や、データベースとアプリケーションが物理的に離れている構成では、ネットワーク遅延が無視できない要因となります。
ネットワーク起因のパフォーマンス低下は、以下のようなケースで発生しやすくなります。
- 大量データのフェッチ:
SELECT *などで必要以上の列や行を取得しており、転送データ量が膨大になっている。 - ラウンドトリップの多発:ループ処理の中で1件ずつSQLを発行するなど、アプリケーションとデータベース間の往復回数が多すぎる。
- ネットワーク帯域の不足:バックアップ処理や他のシステム間連携と帯域が競合している。
データベースの処理時間(Execution Time)が短いにもかかわらず、アプリケーション側での応答が遅い場合は、このネットワーク層での遅延を疑う必要があります。
高速化を実現する5つのチェックリスト
SAP HANAはインメモリコンピューティング技術により高速なデータ処理を実現していますが、運用を続ける中でデータ量の増加やアプリケーションの変更により、パフォーマンスが低下する場合があります。
パフォーマンスの低下を感じた際、システムリソースの増強を検討する前に確認すべき基本的なチューニングポイントが存在します。ここでは、即効性が高く、かつシステムの健全性を維持するために重要な5つのチェックリストを紹介します。
| チェック項目 | 対象領域 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 不要データの削除/アーカイブ実施 | メモリ | 空きメモリ領域の確保とロード時間の短縮 |
| SQLチューニング | CPU / メモリ | CPU使用率の低減と応答速度の向上 |
| デルタマージ最適化 | ストレージ / メモリ | 読込パフォーマンスの安定化 |
| パーティショニング | 分散処理 | 並列処理による検索速度の向上 |
| リビジョン適用 | システム全体 | 既知のバグ修正と内部処理の最適化 |
チェック1 不要なデータの削除とメモリ解放
SAP HANAは主にメモリ上でデータを処理するため、不要なデータが蓄積するとメモリ容量を圧迫し、パフォーマンス低下の直接的な原因となります。定期的に不要データの削除/アーカイブすることで、メモリリソースを有効活用できます。
なお、メモリが逼迫すると使用頻度の低いデータがディスクへ退避(アンロード)され、再アクセス時に遅延が生じる場合があります。
まずは、業務上不要となったデータや、システムが生成した一時ファイルが残存していないかを確認してください。
- 数年以上前の古いログデータやトレースファイル
- テスト目的で作成し、放置されている一時テーブル
- アプリケーション側で削除論理となっているが物理的に残っているレコード
これらを定期的に削除(ハウスキーピング)することで、メモリリソースの有効活用が可能となり、データベース全体のレスポンス維持につながります。
チェック2 実行時間の長いSQL文の特定とチューニング
CPUが高負荷状態になりつづける場合、特定の非効率なSQL文がリソースを独占している可能性があります。SAP HANAには、実行に時間のかかったSQLを特定するための機能として「高負荷SQLトレース(Expensive Statements Trace)」が用意されています。
この機能を利用してボトルネックとなっているSQLを特定し、以下の観点でチューニングを行います。
- WHERE句で適切な絞り込みが行われているか(不要に大量データを処理していないか)
- 結合条件(JOIN)が適切に定義されているか(不要なデータ結合やデータ量の増大が発生していないか)
- 計算ビュー(Calculation View)のロジックが複雑になりすぎていないか
特に、SQLの書き換えやデータモデルの見直しを行うことで、処理時間が数分から数秒に短縮されるケースも珍しくありません。
チェック3 デルタマージ処理の頻度とタイミングの最適化
SAP HANAのカラムストアテーブルは、書き込み最適化された「デルタストア」と、読み取り最適化された「メインストア」の2層構造を持っています。データ更新はまずデルタストアに行われ、その後「デルタマージ」と呼ばれる処理によってメインストアへ統合されます。
デルタストアの容量が肥大化すると、読み取り時に両方のストアを検索する必要があり、参照パフォーマンスが低下します。通常は自動で実行されますが、大量データのロード処理を行うシステムでは、意図したタイミングでマージが実行されるよう必要に応じて設定や実行タイミングの見直しを検討します。
- 大量データロード直後に明示的にデルタマージを実行する
- 自動マージのしきい値パラメータをシステム負荷に合わせて調整する
- スマートマージ機能の活用を検討する
チェック4 大規模テーブルに対するパーティショニングの適用
テーブルのレコード件数が数億件から20億件に迫るような大規模テーブルの場合、単一の※パーティションで管理していると並列処理の恩恵を十分に受けられず、検索速度が低下します。
※カラムストアテーブルの管理単位をパーティションと呼びます。デフォルトでは、自動で1パーティション(非分割状態)で管理されます。このような場合、テーブルを複数の区画に分割する「パーティショニング」を適用することで、クエリの並列実行性能を向上させることができます。
主な分割手法は下表のとおりです。データの特性に合わせて適切な手法を選択してください。
| 分割手法 | 特徴と利用シーン |
|---|---|
| ハッシュ(Hash) | データを均等に分散させ、並列処理による負荷分散を図る場合に有効です。 |
| レンジ(Range) | 「年月」などの範囲で分割します。特定期間のデータ検索や、古いデータのアーカイブ運用を行う場合に適しています。 |
| ラウンドロビン(Round-robin) | 主キーを持たないテーブルに対して、均等にデータを分散させるために使用します。 |
チェック5 最新のリビジョン適用と既知の不具合修正
ここまでのチューニングを行っても改善が見られない場合、ソフトウェア自体の不具合や、古いバージョンの非効率な内部処理が原因である可能性があります。
SAP社は定期的にSAP HANAのリビジョンアップ(SPSやパッチの提供)を行っており、これにはパフォーマンス改善やメモリリークの修正が含まれています。
SAP Noteや公式ドキュメントを確認し、現在利用しているバージョンにパフォーマンスに関する既知の問題が報告されていないかを確認してください。適用可能な最新のリビジョンへアップデートすることで、設定変更なしにパフォーマンスが劇的に改善することもあります。
【参考】パフォーマンス分析ガイド | SAP Help Portal
パフォーマンス分析に役立つ標準機能の活用
SAP HANAのパフォーマンス低下に直面した際、闇雲に設定を変更するのではなく、まずはデータベース内部で何が起きているかを正確に把握することが解決への近道です。
SAP HANAには、システムの稼働状況やリソース消費の内訳を詳細に記録するシステムビューや、SQLの処理効率を可視化する実行計画(Explain Plan)といった強力な標準機能が備わっています。ここでは、特別なサードパーティ製ツールを導入せずとも、標準機能だけで実施できる効果的な分析手法を解説します。
パフォーマンスモニタリングビューの確認方法
SAP HANAはインメモリデータベースとしての特性上、メモリやCPUの使用状況がパフォーマンスに直結します。これらのリソース消費状況や、過去に実行された高負荷な処理を特定するために、システムビューの参照が非常に有効です。
特にパフォーマンス分析において頻繁に使用するビューを下表のとおり整理しました。
| ビュー名称 | 用途と確認ポイント |
|---|---|
| M_EXPENSIVE_STATEMENTS | 実行時間が特定の閾値を超えたSQL文が記録されます。過去にシステムへ高負荷を与えたクエリを特定し、チューニング対象を選定するために最も重要なビューです。 |
| M_ACTIVE_STATEMENTS | 現在実行中のSQL文を確認できます。処理が返ってこない場合や、リアルタイムでCPU使用率が高騰している際に、その原因となっているクエリを特定します。 |
| M_SERVICE_COMPONENT_MEMORY | コンポーネントごとのメモリ使用量を確認できます。カラムストア、ローストア、システム領域など、どこでメモリが枯渇しているかの内訳を把握するのに役立ちます。 |
| M_LOAD_HISTORY | 過去のシステム負荷状況(CPU、メモリ、ディスクI/O)の履歴を確認できます。パフォーマンス低下が発生した時間帯のリソース状況を後追いで調査する際に使用します。 |
これらのビューを活用することで、「いつ」「どの処理が」「どの程度のリソースを消費したか」を客観的な数値として把握できます。
特にM_EXPENSIVE_STATEMENTSは、パフォーマンスチューニングの起点となる重要な情報源です。実行時間(DURATION_MICROSEC)やCPU時間(CPU_TIME)、メモリ使用量(MEMORY_SIZE)でソートすることで、優先的に対処すべきSQLを効率よく絞り込むことが可能です。
詳細な仕様やカラムの定義については、SAPの公式ドキュメントもあわせて参照してください。
参考:M_EXPENSIVE_STATEMENTS System View - SAP Help Portal
実行計画の分析によるボトルネック特定
モニタリングビューによって「遅いSQL」が特定できたら、次はそのSQLが「なぜ遅いのか」を分析します。ここで使用するのがSQLの実行計画(Explain Plan)です。Explain PlanはSQLの実行前に生成される推定プランを確認するための機能です。
参考:Explain Plan | SAP Help Portal実行計画を取得することで、SQLがどのような手順で処理されるか(実行計画)を確認できます。
実行計画(Explain Plan)でも処理手順の把握や分析は可能ですが、さらに実際の処理分析にはVisualize Planを使うこともできます。
Visualize Plan(PlanViz)はSQLの実行時に取得される情報をもとに、グラフィカルに可視化する機能です。
SAP HANA StudioやSAP HANA Cockpit、Database Explorerでは、SQL Consoleでステートメントを選択して「Visualize Plan」を実行することで、このVisualize Planを起動できます。
また、SQLプランキャッシュやExpensive Statementsから対象SQLを選択して実行することも可能です。
実行計画を分析する際は、主に以下のポイントを確認します。
- 演算子(Operator)の種類:データの検索にインデックスが使用されているか、それとも全件スキャン(Column Searchなど)が発生しているかを確認します。
- 結合(Join)の順序と方法:テーブルの結合順序が適切か、またHash JoinやNested Loop Joinなど、データ量に適した結合アルゴリズムが選択されているかをチェックします。
- 推定コストと実行時間:各ステップにおける処理コストの偏りを確認し、全体の処理時間の大部分を占めている箇所(クリティカルパス)を特定します。
- フィルタリングのタイミング:早い段階でデータ件数が絞り込まれているか、不要なデータを最後まで持ち回っていないかを確認します。
例えば、本来インデックスが効くはずの検索条件でフルスキャンが発生している場合、統計情報の更新漏れや、SQLの記述方法(型変換の発生など)に問題がある可能性があります。
このように、実行計画を通じてボトルネックの根本原因を特定することで、インデックスの追加やSQLの書き換え、パーティショニングの検討といった具体的な改善策を立案できるようになります。
SAP HANAのパフォーマンスに関するよくある質問
SAP HANAのパフォーマンスチューニングは自動化できますか?
完全に自動化することは困難ですが、SAP HANA Cockpitなどの管理ツールを使用することで、パフォーマンス分析や一部の設定変更を効率化することは可能です。ただし、SQLの最適化やアプリケーションロジックの見直しなど、専門的な判断が必要な領域も残ります。
メモリを増設すればパフォーマンスは改善しますか?
メモリ不足が直接的な原因であれば改善する可能性がありますが、非効率なSQLや不適切なテーブル設計が原因の場合は、メモリを増設しても根本的な解決にはなりません。まずはリソース消費の原因を特定することが重要です。
パフォーマンス監視に推奨されるツールは何ですか?
SAP標準のSAP HANA CockpitやSAP Solution Managerが推奨されます。これらのツールを使用することで、システム全体の稼働状況やリソース消費、実行時間の長いSQLなどを可視化できます。
パフォーマンス低下はハードウェアの故障が原因のことが多いですか?
ハードウェア障害が原因のケースもありますが、多くの場合はアプリケーション側のSQL処理効率や、データ量増加に伴うリソース不足、設定値の不適合などが主な要因です。
定期的な再起動はパフォーマンス維持に有効ですか?
SAP HANAはインメモリデータベースであり、データをメモリ上に保持するため、頻繁な再起動は推奨されません。再起動による一時的なメモリ解放に頼るのではなく、メモリ使用量の増加要因の特定や不要データの削除など、根本的な対処を行うべきです。
まとめ
SAP HANAのパフォーマンス低下は、メモリリソースの枯渇や実行効率の悪いSQL、デルタマージの不適切なタイミングなど、複数の要因が複合的に絡み合って発生します。本来の高速処理能力を維持し続けるためには、不要なデータの定期的な削除やSQLのチューニング、大規模テーブルへのパーティショニング適用といった対策を継続的に講じることが極めて重要です。また、標準機能を活用してボトルネックを早期に特定し、最新リビジョンを適用してシステムの安定稼働を図る運用体制も欠かせません。自社リソースだけで原因の特定や改善が難しい場合は、専門家の支援を検討することも有効な手段です。
【本記事の監修体制について】
執筆:リードプラス株式会社
監修:リアルテックジャパン株式会社SAPソリューション事業
この記事は、SAP導入プロジェクトの豊富な経験を持つ当社の専門部門が内容を精査し、 以下の最終承認プロセスを経て公開しています。
最終監修責任者:リアルテックジャパン株式会社 代表取締役社長 松浦 一哉
企業の代表として、お客様の課題解決に繋がる有益で正確な情報発信に責任を持って取り組んでまいります。
- カテゴリ: SAP クラウド
- キーワード:SAPHANA パフォーマンス



