はじめに
「【S/4HANA】プレスリリースからそのコンセプトに迫る」と「【S/4HANA】プレスリリースからその実態に迫る」という記事で、S/4 HANAの発表内容について解説しました。記事の中で、以下の3分野が革新の基軸であると書きました。
- 画面(User Experience)
- データモデル
- システム設定
上記の「 データモデル」に関して、下表で3ステップのデータモデル革新方法に整理しています。
今回は、下表No.2「モジュール内でのデータの単純化」について解説していきます。
No. | データモデル革新方法 | 内容 |
---|---|---|
1 | ERPとサテライトシステム*の統合 |
現在のERPとサテライトシステムでは多くのデータ連携をしてマスタやトランザクションを複製しています。イベント内では「データロードの40%をERPとCRMのデータ交換が占めている」と例示しており、1システムに集約することで多重データとデータ連携の冗長性を省くと力説していました。 |
2 | モジュール内でのデータの単純化 | モジュール内で使用するデータモデルを単純化することで、データサイズ圧縮を図ります。会計モジュールの例では、「1つの会計処理で、DBに対して15回更新処理を行っていたのを4回更新まで単純化した」と発表しています。 |
3 | 実績データと過去データの分離 | データを実績データと過去データに分け、実績データをインメモリのアクセスが早い領域に展開することで最適化を図るようです。 |
※画面(User Experience)については「S/4HANA構成要素について 画面編(Fioriとは)」を参照ください。
※上表、No.1「ERPとサテライトシステムの統合」については「S/4HANA構成要素について データモデル編(OLAP統合)」を参照ください。
データモデル比較(概念)
例えば会計モジュールでは下図のようにデータモデルの概念が変わっています(上が従来のERP、下がS/4HANAです)。
伝票情報の集計と索引作成が不要となることでデータモデルの単純化を達成しています。また、財務会計と管理会計の情報が統合サれている点も大きな革新です。「HANA技術によってレポーティングの早さを担保」としている部分は「S/4HANA構成要素について データモデル編(OLAP統合)」の解説と重複しますので、そちらを参照ください。
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データモデル単純化(テーブル単位)
SAP ERPでは1件の会計伝票登録時に多くのテーブルを更新します。Google検索で簡単に結果を見ただけでも複雑さがわかります。複雑なテーブルをシンプルにした比較として下図のようになります(登録/変更処理の回数とテーブルはS/4HANA発表イベント内でHasso Plattner氏が使用していたスライドの情報を元にしています)。登録処理は半減していますし、変更処理は完全になくしています。
データモデル単純化の効果
データモデルを単純化することで、以下の効果を得ることができます。
- 更新時スループット向上(3から7倍の向上とS/4HANA発表イベント内で説明されています)
- データサイズの圧縮(120GBから40GBと約1/3に圧縮されたとS/4HANA発表イベント内で説明されています)
- 保守性・拡張性の向上(情報の場所が集約されるので保守・拡張がしやすいです)
まとめ
今回はS/4HANAでデータモデル単純化をどのように実現しているかを解説しました。会計モジュールを例として説明しましたが、ロジスティクスに関しても類似した形で単純化が実現されるはずです。データモデル単純化に関しては新しい技術的要素を使っているわけではありません。ただ、地味にプログラムを書き換えているだけです。言うは易しですが、ERPの膨大なプログラムを書き換えたのは想像を絶する努力があったはずです。一技術者としては、ただ賞賛するのみです。
- カテゴリ: S/4HANA