
この記事で分かること
- SAP Cloud ALMの概要と提供される主な機能
- SAP Solution Managerとのアーキテクチャや機能の違い
- 移行が必要となる背景とスケジュール
- SAP Cloud ALMへの具体的な移行手順
- 移行時の注意点と運用プロセス見直しのポイント
SAPシステムの運用管理において、SAP Solution ManagerからSAP Cloud ALMへの移行は多くの企業にとって急務となっています。本記事では、SAP Cloud ALMの基礎知識や導入・運用管理機能から、Solution Managerとの違い、具体的な移行手順までを詳しく解説します。移行にあたっては、機能の適合性確認と運用プロセスの見直しが成功の鍵となります。この記事を読むことで、自社の環境に合わせたスムーズな移行計画を策定するための具体的なノウハウが得られます。
SAP Cloud ALMの基礎知識と主な機能
SAP Cloud ALMは、SAPシステムの導入から運用までを包括的にサポートする次世代のプラットフォームです。ここでは、SAP Cloud ALMの概要や主な機能について詳しく解説します。
SAP Cloud ALMとはどのようなソリューションか
SAP Cloud ALM(Application Lifecycle Management)は、SAPが提供するクラウドベースのアプリケーションライフサイクル管理ソリューションです。主にクラウド環境やハイブリッド環境におけるSAPビジネスソリューションの導入と運用を支援するために設計されています。SaaS(Software as a Service)として提供されるため、自社でインフラを構築・保守する必要がなく、即座に利用を開始できるのが大きな特徴です。
また、最大のメリットとして挙げられるのが、追加のライセンス費用が不要である点です。SAP Cloud ALMの利用権は、SAP Enterprise Support, cloud editionsを含むSAPクラウドサービスのサブスクリプション、 SAP Enterprise Support、またはProduct Support for Large Enterprises契約に標準で含まれています。そのため、対象となる契約を結んでいる企業であれば、コストを抑えつつ高度な管理ツールを導入することが可能です。詳細はSAP公式のサポートポータルでも案内されています。
SAP Cloud ALMは、大きく分けて「導入」と「運用」の2つの領域で機能を提供しており、企業のデジタルトランスフォーメーションを強力に後押しします。
SAP Cloud ALMが提供する主な機能
SAP Cloud ALMが提供する機能は、多岐にわたります。ここでは、システムのライフサイクルに合わせて「導入支援機能」と「運用管理機能」の2つに分けて解説します。各領域の代表的な機能は下表のとおりです。
| 領域 | 主な機能 | 目的 |
|---|---|---|
| 導入支援機能 | プロジェクト管理、タスク管理、テスト管理 | SAPソリューションの迅速かつ確実な導入をサポートする |
| 運用管理機能 | ビジネスプロセス監視、ヘルス監視、統合監視 | 稼働後のシステムの健全性を維持し、障害を早期に検知・解決する |
導入支援機能
導入支援機能は、SAPソリューションを新規に導入する際や、システムの拡張を行うプロジェクトにおいて活用されます。SAPが推奨する導入方法論である「SAP Activate」に準拠しており、プロジェクトを効率的に進めるためのベストプラクティスが組み込まれています。
具体的には、以下のような機能が提供されています。
- プロジェクトの計画と進捗を可視化するダッシュボード機能
- Fit-to-Standardワークショップの実行と要件の記録
- チームメンバーへのタスクの自動割り当てと進捗管理
- テストケースの作成、実行、および不具合の追跡を行うテスト管理
これらの機能を活用することで、プロジェクトの透明性が向上し、要件定義からテスト、本稼働までのプロセスをスムーズに進行させることができます。手作業による管理の手間を省き、導入期間の短縮と品質の向上を同時に実現します。
運用管理機能
運用管理機能は、システムが本稼働した後の日常的な運用をサポートし、ビジネスの継続性を確保するための機能です。クラウド環境やオンプレミス環境が混在する複雑なシステムランドスケープ全体を、一元的に監視・管理することができます。
運用管理において利用できる主な監視機能は、以下のとおりです。
- ビジネスプロセス監視:重要な業務プロセスが正常に実行されているかを監視し、ボトルネックを特定する
- 統合監視:異なるシステム間のデータ連携やインターフェースの状況を監視する
- ヘルス監視:システムのリソース使用状況やパフォーマンスなどの技術的な健全性をチェックする
- リアルユーザー監視:エンドユーザーの操作レスポンスタイムを測定し、ユーザー体験を評価する
システムに異常が発生した場合には、アラートが自動的に通知されるため、問題の早期発見と迅速なトラブルシューティングが可能になります。これにより、システムのダウンタイムを最小限に抑え、安定した業務遂行を支援します。
Solution ManagerとSAP Cloud ALMの違い
SAPシステムのアプリケーションライフサイクル管理(ALM)において、長らく標準的に利用されてきたSAP Solution Managerと、新しいクラウドベースのソリューションであるSAP Cloud ALMには、明確な違いが存在します。それぞれの特性を正しく理解し、自社のシステム環境や運用方針に合った選択を行うことが、今後のSAPシステム運用の成功において非常に重要です。
アーキテクチャと提供形態の違い
両者の最も大きな違いは、システムを構成するアーキテクチャと提供形態にあります。
SAP Solution Managerは、基本的にオンプレミスまたはプライベートクラウド環境に自社専用のシステムとして構築する形態をとります。そのため、サーバーなどのインフラストラクチャの準備や、OS・データベースの保守、システム自体のアップグレード作業など、運用基盤の維持管理をお客様自身で行う必要があります。
一方で、SAP Cloud ALMは、SAP社がパブリッククラウド上でSaaS(Software as a Service)として提供するクラウドネイティブなソリューションです。インフラストラクチャの運用保守はすべてSAP社が行うため、お客様による技術的なシステム管理作業は不要となります。また、クラウドの特性を活かして継続的に機能がアップデートされるため、常に最新の機能を利用できる点も大きな特徴です。SAP Cloud ALMは、SAP Enterprise Supportなどの保守契約に含まれており、追加のライセンス費用なしで利用を開始することが可能です。
機能面での比較
機能の提供方針やカバーする領域においても、両者には異なるアプローチが採用されています。
SAP Solution Managerは、長年の歴史の中で培われた非常に多機能かつ高度なカスタマイズ性を備えています。複雑なITサービス管理(ITSM)や、厳密な変更依頼管理(ChaRM)など、企業独自の要件に合わせたきめ細やかな設定が可能です。主にオンプレミス環境の大規模で複雑なシステムランドスケープを統合的に管理することに長けています。
対してSAP Cloud ALMは、クラウドソリューションの導入と運用を迅速かつシンプルに行うことに特化しています。「Fit-to-Standard」のアプローチを前提としており、SAPが提供する標準的なベストプラクティスに沿ってプロセスを管理します。過度なカスタマイズを避け、標準機能を活用することで、導入プロジェクトの立ち上げ期間を大幅に短縮し、運用コストを最適化できることが強みです。
SAP Solution ManagerとSAP Cloud ALMの主な違いは、下表のとおりです。
| 比較項目 | SAP Solution Manager | SAP Cloud ALM |
|---|---|---|
| 提供形態 | オンプレミス / プライベートクラウド | SaaS(パブリッククラウド) |
| インフラの運用管理 | お客様自身による管理が必要 | SAP社が管理(お客様の作業は不要) |
| カスタマイズ性 | 高度なカスタマイズが可能 | 標準機能中心(Fit-to-Standard) |
| アップデートの頻度 | サポートパッケージによる定期更新(手動) | クラウドによる継続的デリバリー(自動更新) |
| 最適な対象環境 | オンプレミス中心の複雑なシステム環境 | クラウド中心の標準化されたシステム環境 |
これらの違いから、自社の状況に合わせてどちらのソリューションが適しているかを判断する必要があります。判断基準となる主なポイントは以下のとおりです。
- オンプレミスシステムの割合と今後のクラウドリフト計画
- 運用プロセスにおける独自カスタマイズの必要性
- ALMシステム自体の運用保守に割ける社内リソースの有無
すでにSAP S/4HANA Cloudなどのクラウドソリューションを中心に据えている企業や、今後の運用プロセスを標準化して身軽にしていきたい企業にとっては、SAP Cloud ALMが有力な選択肢となります。
Solution ManagerからSAP Cloud ALMへの移行ガイド
本章では、既存の環境からSAP Cloud ALMへ移行するための具体的なガイドラインを解説します。
移行が必要となる背景とスケジュール
現在広く利用されているSAP Solution Manager 7.2は、2027年末をもってメインストリームメンテナンスが終了します。それに伴い、SAP社はすべてのユーザーに対して、次世代のアプリケーションライフサイクル管理ソリューションであるSAP Cloud ALMへの移行を強く推奨しています。
サポート期間のスケジュールは下表のとおりです。
| 時期 | SAP Solution Manager 7.2 のサポート状況 |
|---|---|
| 2027年末まで | メインストリームメンテナンス期間 |
| 2028年〜2030年末まで | 延長メンテナンス期間(オプション契約が必要) |
| 2031年以降 | カスタマスペシフィックメンテナンスへ移行 |
2030年末まで延長メンテナンスを受けることは可能ですが、将来的な機能拡張やクラウド環境への対応を見据えると、早期にSAP Cloud ALMへの移行計画を立てることが重要です。
SAP Cloud ALMへの移行手順
SAP Cloud ALMへの移行は、主に以下の3つのステップで進めます。
現状分析と計画策定
まずは、現在のSAP Solution Managerで利用している機能の棚卸しを実施します。SAP Readiness Check for SAP Cloud ALMなどの標準ツールを活用することで、既存の利用状況を分析し、SAP Cloud ALMの機能でどのように代替できるかを評価します。
- 既存システムで利用中の機能とプロセスの可視化
- SAP Cloud ALMへのFit to Standard分析
- 移行スケジュールの策定とリソースの確保
システム環境の準備
計画が固まったら、SAP Cloud ALMのシステム環境を準備します。SAP Cloud ALMはクラウドサービスとして提供されるため、サーバーなどのインフラ構築は不要ですが、SAP Business Technology Platform(SAP BTP)上でのテナントのプロビジョニング作業が必要です。
- SAP BTPにおけるSAP Cloud ALMテナントの有効化
- ユーザー権限およびロールの割り当て
- 管理対象となるSAPシステムや非SAPシステムとの接続設定
データと設定の移行
環境が準備できたら、実際のデータや設定を移行します。SAP Solution ManagerからSAP Cloud ALMへの移行では、すべての履歴データをそのまま持ち込むのではなく、運用に必要な設定やマスタデータを中心に移行を行います。
- プロジェクト設定や監視要件の再定義と登録
- 移行ツールを活用したテスト計画や要件のデータ移行
- テスト運用を通じた動作確認と本番環境への切り替え
移行後は、新しいインターフェースや運用プロセスに慣れるため、運用担当者向けのトレーニングを実施し、スムーズな業務の引き継ぎを行うことが成功の鍵となります。
SAP Cloud ALMへ移行する際の注意点
SAP Solution ManagerからSAP Cloud ALMへの移行を成功させるためには、事前の綿密な準備とシステム特性の理解が不可欠です。本章では、移行プロジェクトにおいて特に留意すべき重要なポイントを解説します。
機能の網羅性と適合性の確認
SAP Solution ManagerとSAP Cloud ALMは、根本的なアーキテクチャや設計思想が異なるため、すべての機能が1対1で対応しているわけではない点に注意が必要です。移行前に、自社が現在利用している機能がSAP Cloud ALMでどのようにカバーされるのかを正確に把握しなければなりません。
特に、オンプレミス環境の複雑な要件や高度なカスタマイズを行っている場合、SAP Cloud ALMの標準機能だけでは要件を満たせない可能性があります。そのため、Fit-to-Standard(標準機能への適合)のアプローチを採用し、必要に応じて他のソリューションとの併用を検討することが推奨されます。
機能の適合性を確認する際の主なチェックポイントは、下表のとおりです。
| 確認項目 | 詳細と対応方針 |
|---|---|
| システム監視要件の網羅性 | SAP Cloud ALMが提供する標準の監視機能で、自社のサービスレベル要件を満たせるかを確認します。大規模で複雑な環境の場合は、SAP Focused Runなどの代替手段も併せて検討します。 |
| ITSMツールとの連携 | インシデント管理や変更管理において、サードパーティ製のITSMツールと連携するためのAPIやWebhookの仕様を確認し、連携プロセスを再設計します。 |
| カスタムコードの管理 | SAP Solution Managerで管理していたカスタムコードの検査や影響分析機能が、クラウド環境でどのように代替されるかを評価します。 |
これらの機能差分を分析する際は、SAP社が提供している移行支援ツールなどを活用することで、効率的に現状分析を行うことが可能です。詳細な仕様や最新のサポート情報については、SAPジャパン公式ウェブサイトなどの公式情報源を定期的に確認してください。
運用プロセスの見直し
SAP Cloud ALMは、クラウドネイティブな環境でのアジャイルな導入と運用を前提として設計されています。そのため、従来のオンプレミス中心の重厚な運用プロセスをそのまま持ち込むのではなく、クラウドに最適化されたプロセスへの見直しが不可欠です。
運用プロセスを再設計する際は、以下の点に留意する必要があります。
- 自動化機能の積極的な活用による手作業の削減
- リアルタイム監視を前提としたインシデント対応フローの構築
- SAP BTP(Business Technology Platform)の運用スキルを持つ人材の育成
また、新しいツールとプロセスを現場に定着させるためのチェンジマネジメントも重要な課題です。移行プロジェクトの初期段階から運用担当者を巻き込み、SAP Cloud ALMの操作や新しい運用ルールに関する十分な教育を実施することが、移行後の円滑なシステム運用につながります。
SAP Cloud ALMに関するよくある質問
SAP Cloud ALMは追加費用なしで利用できますか?
対象となる契約を結んでいる企業であれば、基本機能は追加費用なしで利用可能です。
ただし上記を超える利用(Cloud ALMのテナントを増やす、HANA DBのメモリサイズを拡張する、Outbound APIの利用料を増やす)といった場合は、Tenant Extensionというものを購入する必要があります。
Solution Managerのサポート終了はいつですか?
メインストリームメンテナンスは2027年末に終了予定です。
移行期間はどのくらいですか?
システムの規模によりますが、一般的に数週間から数ヶ月程度を要します。
まとめ
SAP Cloud ALMは、クラウド環境に最適化された次世代の管理ソリューションです。Solution Managerのサポート終了が迫る中、システムを安全に維持するためには、早期の移行計画策定と運用プロセスの見直しが不可欠となります。機能の適合性を確認し、計画的に移行を進めましょう。
当社はSAPのスペシャリストとして、豊富な知見と実績をもとに、最適なソリューションをご提案します。SAPに関するご相談やお見積りのご依頼は、ぜひお気軽にリアルテックジャパンにお問い合わせください。
【本記事の監修体制について】
執筆:リードプラス株式会社
監修:リアルテックジャパン株式会社SAPソリューション事業
この記事は、SAP導入プロジェクトの豊富な経験を持つ当社の専門部門が内容を精査し、 以下の最終承認プロセスを経て公開しています。
最終監修責任者:リアルテックジャパン株式会社 代表取締役社長 松浦 一哉
企業の代表として、お客様の課題解決に繋がる有益で正確な情報発信に責任を持って取り組んでまいります。
- カテゴリ: SAP運用・保守
- キーワード:SAP運用・保守



