近年では、トラブルを避けて健全な企業経営を行うために、リスク管理が重要視されています。本記事では、企業が行うリスク管理の概要をはじめ、言葉が似ているため混同されやすい「危機管理」との違いや、適切な管理が求められるリスクの代表例などを解説します。
リスク管理とは?
リスク管理(マネジメント)とは、企業経営に関わるリスクを組織的に管理し、予期せぬリスクの発生によって生じる損害を抑えることです。近年では社会環境の変化によって、情報技術の進化、コンプライアンス違反、自然災害など、さまざまな危険に備える必要性が高まっています。
リスク管理では、どのようなリスクがあるのかを正確に把握し、あらかじめ対策を講じることが大切です。適切な対策が取られていると、リスクによって生じる損害の効果的な予防や軽減につながります。
リスク管理と危機管理の違い
「危機管理」という言葉はリスク管理によく似ていますが、実際には意味が異なります。リスク管理は、トラブルが生じるのを防止する目的で行う対策です。一方、危機管理とは、実際にトラブルが生じたあとに、被害を最小限に抑えて、できる限り早く危機からの回復を図る解決策のことです。自然災害などの防ぎきれない突然のトラブルに見舞われた際に、災害によって生じた損害を軽減し、素早くトラブル前の状態まで回復するために行われます。
また、混同されやすい言葉には、「リスクヘッジ」もあります。リスクを予測し、防ぐために対策を行うリスク管理に対して、リスクヘッジはリスクが生じた際に備えるための施策です。システムのセキュリティ強化や、トラブル発生時の対応をマニュアル化して従業員に周知徹底しておくなどの対策で、できる限り生じる損害を抑えます。
リスク管理の必要性
さまざまなリスクに備えるため、多くの企業においてリスク管理の実施が求められています。充分な備えが行われていない場合には、自然災害や事故、コンプライアンス違反、情報漏洩など、さまざまなトラブルによる大きな損害にもつながります。
近年は、業務の多様化やIT化が進み、情報の管理が複雑化しています。新型コロナウイルスの感染拡大や自然災害、ITの革新的な進化など、今後の変化が予想しにくいVUCA(ブーカ)時代とも呼ばれる時代で、急激な変化の予測が困難な状況にあります。
リスク管理は、従来さまざまな企業で行われてきた施策ではあるものの、現在では業務の複雑化などによって幅広い対応が必要になり、多岐にわたる積極的な対策が求められています。
企業におけるリスクの代表的な例
企業における主なリスクとしては、たとえば機密情報の漏洩やコンプライアンス違反などが挙げられます。主なリスクへの対策や備えができていると、トラブルの予防も可能です。
情報漏洩
企業には、情報漏洩のリスクがあります。企業の取り扱っている個人情報や機密情報が外部に漏れた場合、情報漏洩を起こした企業というイメージが広がり、社会的な信用が低下します。個人情報などの情報が流出すると、被害を受けた顧客から損害賠償を求められるケースもあり、重大な問題につながりかねません。情報漏洩を避けるためにも、リスク管理で適切な対応が求められます。
情報漏洩につながるウイルス感染やマルウェアへの対策には、セキュリティソフトの導入などが効果的です。また、従業員のIDやパスワードが外部に漏れた場合にも、IDの不正使用による情報漏洩につながる恐れがあるため、ID管理にも充分な注意が必要です。
コンプライアンス違反
企業には、コンプライアンス違反のリスクもあります。コンプライアンスとは「法令遵守」を意味する言葉です。コンプライアンス違反には、法律違反や社会的な倫理観・ルールに違反する行為、不正な行為などが該当します。
実際に発生しているコンプライアンス違反には、従業員(アルバイトを含む)が不適切な行為を行う動画や写真をSNS上に投稿したケースや、慢性的な長時間労働などが原因で従業員が過労死したケース、職場内でのハラスメントによって従業員が精神的もしくは身体的なダメージを受けたケースなどがあります。SNSが普及した現在では、企業のコンプライアンス違反はSNS上であっという間に拡散・炎上し、企業の社会的信用の失墜につながる重大なリスクです。
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リスク管理の四つのステップ
企業イメージや社会的な信用などに影響するリスクの発生を防ぐには、リスク管理を行うことが重要です。リスク管理には、リスクの特定から対応までの四つのステップがあります。
1. リスクの特定
リスク管理では、最初にリスクの特定を行います。どのようなリスクがあるかを書き出し、発生が予測されるものを特定し、押さえておくステップです。組織内で過去に発生した、もしくは起こりそうなインシデント、ヒヤリハット、組織の変化など、さまざまな情報を洗い出していきます。各部門で、それぞれの業務プロセスなどを振り返り、問題点などを見つけて書き出しましょう。この段階で、できる限り多くのリスクを洗い出して、一覧表を作成することが大切です。
2. リスクの分析
リスクを特定して一覧表を作成したあとには、分析を行います。さまざまなリスクを分析して特徴を把握してから、影響の大きさを比較し、リスクレベルを決めるためのステップです。リスクが生じる確率、出現頻度、リスクが顕在化した場合に受ける影響の大きさなどをそれぞれ確認して、分析していきます。
リスクレベルは、リスクマトリクス(リスクマップ)などのフレームワークを活用して、生じる確率の高さ、影響度の大きさを可視化すると、リスクレベルの高さがわかりやすくなります。
3. リスクの評価
特定や分析を行ったあとに実施するのが、リスクの評価です。洗い出したすべてのリスクは、そのまま管理するわけではありません。分析を行ったリスクの評価をもとに、優先度の高いものを絞り込んで、必要な範囲だけリスク管理を行います。影響度や出現頻度などの判断指標を分析結果に当てはめて比較し、優先度を決定します。
4. リスクの対応
リスクの対応は、評価によって対応が必要と判断されたリスクへの対応方針を決めるステップです。リスクに対応する方法としては、主に「低減」「移転」「受容」「回避」の4種類があり、それぞれ以下の対応を取ります。
- 低減:リスクの損害を抑える対策方法
- 移転:社内で対応できないケースに対して、保険などを利用する方法
- 受容:一定範囲内の損害で収まるケースで、リスクを受け入れる方法
- 回避:リスクの発生を避けるための対策を取る方法
リスクの出現頻度や影響度に応じて適切な対策を選択し、管理を行います。
リスク管理に役立てられる「IGA」とは?
近年のリスク管理で必要とされているのが、IGAです。IGAは「Idendtity Governance and Administration」を略した言葉で、IDガバナンス・ID管理を組み合わせたものです。IDガバナンスは、IDによって従業員の職務や権限に応じたアクセスを管理し、統制する基本的なセキュリティ対策です。必要なシステムへのアクセス、入社、退社、異動、休職時など、状況に応じて従業員のID管理を行い、不正なアクセスをなくしてセキュリティ向上につなげます。
まとめ
リスク管理は、予期せぬリスクが生じた際に、企業が被る損害を抑える目的で行う対策方法です。情報漏洩やコンプライアンス違反などのリスクが生じると、企業は社会的な信用を失う恐れがあるので、大きな損害を防ぐためには、適切な管理を行うことが大切です。
- カテゴリ: ID管理
- キーワード:リスク管理 IGA
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